- 著者
-
安部 哲人
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
- 巻号頁・発行日
- pp.200, 2005 (Released:2005-03-17)
海洋島への生物の侵入過程には不明な点が多い.火山島での数少ない研究事例としてクラカタウ島,スルツェイ島,ロング島などがあるだけである.一般に海洋島生態系にはさまざまなシンドロームがあるが,その中の一つに植物の性表現に関してフロラが雌雄異株性に偏っていることがあげられる.この理由については大きく分けて,1.雌雄異株が侵入しやすい,2.侵入してから雌雄異株になった,という2つの対立する仮説がある.しかしながら,実際に誕生して間もない海洋島での生物の侵入過程を観察できる機会は世界的にもほとんどないため,検証することは非常に困難である.その意味でも噴火31年後の小笠原諸島西之島の生物相の現状は興味深い. 2004年7月に調査した結果,西之島のフロラはわずか6種で構成され,前回報告された1978年以降で2種増加したのみであった.種子散布型の内訳は海流散布4種,付着型鳥散布2種であった.このことから,他の火山島での侵入過程と比較しても,西之島の生物相は侵入のごく初期の段階を脱しておらず,海洋島では侵入速度がはるかに遅いことが示された.植生は1978年以降,大きく拡大していたが,溶岩部分には全く植物が侵入できておらず,新たに拡大したのは砂礫が堆積した平地部分のみにとどまっていた.島内ではカツオドリをはじめとする海鳥が高密度で営巣しており,種の侵入や植生に対しても少なからず影響がありそうな反面,植物の果実を食べる山鳥は全くみられず,被食型鳥散布種子が侵入できる確率は非常に低いと考えられた.また,フロラの構成種は全て両性花植物であり,被食型鳥散布種子を持つ種も見られなかったことから,侵入に関して雌雄異株の優位性は認められなかった.一方で,非常に貧弱なフロラであるにもかかわらずハマゴウやスベリヒユなどの花には540分間で複数種の訪花昆虫が観察された.このことは自家和合性のある種でなくても定着が十分可能であることを示唆する.