著者
吉澤 弥生
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.118-132, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
30

レイモンド・ウィリアムズは, 戦後イギリスを代表する文化研究者である.彼は, 近年国際的にも大きな広がりをみせているカルチュラル・スタディーズの先駆者の一人として知られている.本稿の目的は, これまで正面から論じられたことがあまりない, 彼のメディア研究を検証しその意義を示すことにある.対象は『テレビジョン-技術と文化形式』 (1974) である.ウィリアムズはまず, テレビの文化的側面はその技術自体と深く関係するという認識から, テレビをめぐるさまざまな技術史の検証を丹念におこない, 次にテレビに関係するさまざまな文化的形式 (演劇や小説, 新聞や報道など) の発展をたどり, それらがテレビ番組の形式にどのように受け継がれてきたかを明らかにする.さらに, 現代テレビの放送の様式から見いだされる「フロー」形式が, 視聴の経験においても同様に現れていることを示す.このように『テレビジョン』では, 形式を媒介として, 技術と文化そして社会のつながりが明らかにされている.ウィリアムズによる, こうしたメディアの歴史的検証と形式分析は, 欧米を中心としたメディア社会学や, イギリスの文化研究のなかでみると, 独特な視点と方法であったことがわかる.
著者
吉澤 弥生
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.170-187, 2007-09-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
32
被引用文献数
3 1

現在,芸術が日常生活や社会の中に浸透する動きをみせている.文化政策の基盤も整備されつつあり,そこでは文化芸術が人々の生活の質の向上や社会の活性化に寄与すると位置づけられ,その創造と享受への保障がうたわれている.文化芸術の社会性,公共性に注目が集まっているのだ.大阪市は2001年に実験的芸術の振興を通して都市の活性化をめざす画期的なプランを策定した.その現場の1つ「新世界アーツパーク事業」では,4つのアートNPOが自らの表現活動を探求する中で,市民と芸術の接点を拡大し,地域との信頼関係を深めることに成功していた.この意味で実験的芸術への支援は,人々の日常生活の見直しや地域の活性化といった,発達過程として文化の育成に関与したと言える.だが文化庁の動向と同じく,大阪市は伝統芸術と市場価値のあるものへの支援へと方針を変えようとしている.芸術は価値観の表現である.芸術を通した共同作業の中で人は,自己や他者,地域や社会といった問題と必然的に向き合う.こうした公共的な場を作るアートNPOの活動は,市民の自発的参加による市民社会構築の契機ともなりえている.文化政策においては支援対象の偏りや行政とNPOとの協働の仕方などの問題があるが,文化芸術の公共性をふまえ,多様な価値表現を認める寛容さと,文化の「涵養」に時間をかけて取り組めるような文化を持つことが望まれる.
著者
吉澤 弥生
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.170-187, 2007-09-30
被引用文献数
1

現在,芸術が日常生活や社会の中に浸透する動きをみせている.文化政策の基盤も整備されつつあり,そこでは文化芸術が人々の生活の質の向上や社会の活性化に寄与すると位置づけられ,その創造と享受への保障がうたわれている.文化芸術の社会性,公共性に注目が集まっているのだ.<br>大阪市は2001年に実験的芸術の振興を通して都市の活性化をめざす画期的なプランを策定した.その現場の1つ「新世界アーツパーク事業」では,4つのアートNPOが自らの表現活動を探求する中で,市民と芸術の接点を拡大し,地域との信頼関係を深めることに成功していた.この意味で実験的芸術への支援は,人々の日常生活の見直しや地域の活性化といった,発達過程として文化の育成に関与したと言える.だが文化庁の動向と同じく,大阪市は伝統芸術と市場価値のあるものへの支援へと方針を変えようとしている.<br>芸術は価値観の表現である.芸術を通した共同作業の中で人は,自己や他者,地域や社会といった問題と必然的に向き合う.こうした公共的な場を作るアートNPOの活動は,市民の自発的参加による市民社会構築の契機ともなりえている.文化政策においては支援対象の偏りや行政とNPOとの協働の仕方などの問題があるが,文化芸術の公共性をふまえ,多様な価値表現を認める寛容さと,文化の「涵養」に時間をかけて取り組めるような文化を持つことが望まれる.
著者
吉澤 弥生
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

各地のアートプロジェクトの労働実態を把握すべく、日本、ロンドン、パリでインタヴューを行い、報告書『若い芸術家たちの労働』を制作した。そこでは現場の人々の厳しい労働実態だけでなく、昨今の若年者就労をめぐる構造的な問題が明らかになった。現場の芸術労働者の声を集約した冊子は前例がなく、本報告書は具体的な文化政策の提言や新しい社会運動への展開に際し問題意識の共有や議論の土台として有効に機能するだろう。
著者
吉澤 弥生
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.122-137, 2019 (Released:2020-05-29)
参考文献数
38
被引用文献数
1

「アートプロジェクト」はアーティストが中心となって地域の人々などと共に制作・実施するもので、2000年以降日本各地に広がった現代アートの一形式だ。里山の廃校、まちなかの空き店舗などを舞台に多様な形態で行われている。これらの広がりは、アーティストが自らの表現と発表の機会を追求する動きと、地域活性、産業振興、社会包摂などの社会的文脈でアートを活用しようとする文化政策の動きが合致したことで生まれた。なかでも国際芸術祭は地域活性の核として期待されている。そして実際、地域の特性や課題に向き合いながら、固有の資源を発掘し、新たな価値を生み出したプロジェクトもある。こうしたアートの手段化には批判もあるが、多様なアクターの協働によって日常生活の中からアートが立ちあがる過程を明らかにすることがまず重要である。一方で現場には、プロジェクトの参加に関する住民の合意形成、現場を支えるスタッフの長時間労働、働き方と就労形態の不合致、低賃金、社会保障の不在といった問題とキャリア形成の困難が存在する。これは日本社会全体にも見られる「自発性」「やりがい」を盾にした低賃金・無償労働の圧と共通するものだ。今後はこれらの問題と向き合いつつ「なぜアートなのか」を問い続けながらのプロジェクト実施が望まれる。2020年に向けて文化政策におけるアートの手段化は一層進むが、成果主義では測れない価値を表現する評価方法も必要だ。
著者
聞きて文 吉澤弥生
出版者
吉澤弥生
巻号頁・発行日
2011