著者
弓削 千文 木藤 伸宏 菅川 祥枝 奥村 晃司 吉用 聖加
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.13-13, 2003

【目的】膝関節の運動機能の客観的評価として関節可動域・筋力・筋持久力の測定が一般的には行われているが、滑らかさを定量的に評価することは臨床的に重要な意味を持つ。そこで今回我々は、膝関節運動の滑らかさに着目し数学的解析を行い、臨床に役立つ指標として活用するため、加速度センサと電気角度計を用い、膝関節屈伸運動の滑らかさを定量化する試みを行った。【方法】対象は、膝関節疾患・中枢神経疾患の既往のない健常者男性5名、女性5名とし、年齢27.6±3.9歳、身長165.7±9.3cm、体重59.7±12.3kgであった。膝関節屈伸運動を他動運動と自動運動とで比較した。他動運動では、被験者の脛骨粗面直下に圧電型の3軸加速度センサ(MA3-04Acマイクロストーン(株))を固定。膝関節外側面にBiometrics社製2軸ゴニオメータ(SG150型)を貼付した後、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動をCYBEX CPMモード90・180 deg/secにて各10回施行した。自動運動では、座位にてメトロノーム使用し、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動を2000・4000msecの速さで各10回施行した。評価パラメータとして(1)膝関節屈曲30から60°の矢状面で生じる加速度を一次微分し躍度を算出、この算出値を動作の滑らかさを表す指標(jerk)として用い、(2)膝関節屈伸運動時の躍度波形より振幅値・Movement Unit(加速度の微分が0を通る回数)(以下、MU)を求め、各試行の平均値を算出した。サンプリング周波数は4000Hzとし、統計処理はStatView-J 5.0を用い、一元配置分散分析(Scheffe)を行い有意水準は5%未満とした。【結果】膝関節屈曲-伸展運動とでは有意差は認められなかった。躍度波形での最大-最小振幅値の差(Max-Min)、MUの平均値は、他動伸展運動ではMax-Min;(緩) 290±93/s<SUP>3</SUP>、(速)679±397/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 46±6.9回、(速)20±5.3回となった。自動伸展運動ではMax-Min;(緩) 98±50/s<SUP>3</SUP>、(速)136±91/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩)27±11回、(速)17±6.7回となった。他動屈曲運動Max-Min;(緩) 225±54/s<SUP>3</SUP>、(速)456±116/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 44±7.7回、(速)20±4.6回となった。自動屈曲運動Max-Min;(緩) 102±60/s<SUP>3</SUP>、(速)135±79/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 27±11回、(速)19±4.8回となった。Max-Min・MUともに、他動運動での(緩-速)と、(速)での他動-自動運動で有意差が認められた(p<0.001)。【まとめ】Max-Minが小さければ動作は滑らかであることから考えると、他動より自動運動の方が、(速)より(緩)の方が滑らかであることが認められた。また、MUの増大はフィードバック調節が頻繁に行われていることを示しているため、自動運動では(緩)の方がフィーバック調節が頻繁に行われていることが認められた。本研究により、躍度波形の解析は膝関節運動の滑らかさの指標として有用であることが確認できた。
著者
菅川 祥枝 木藤 伸宏 島澤 真一 弓削 千文 奥村 晃司 吉用 聖加 岡田 恵也
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.412-419, 2004-12-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
17
被引用文献数
4

本研究では,角速度センサを用いて歩行時の骨盤,大腿,下腿の回旋運動の計測を行い,変形性膝関節症患者で得られた角速度波形より健常例とは異なる特徴を同定し,その特徴を明らかにすることを目的とする。対象は健常若年群5名,健常高齢者群8名,変形性膝関節症群21名である。結果は変形性膝関節症群では健常群と異なる角速度波形が確認できた。骨盤の回旋運動には大きな相違は見られなかった。大腿は,荷重反応期での内旋,立脚中期の外旋運動の減少が見られた。下腿では,健常者は歩行時,立脚初期には下肢回旋運動は複雑な運動が行われており,変形性膝関節症群では下腿回旋運動の減少がみられた。また周波数解析では変形性膝関節症群は健常者群と比較し,第1ピーク周波数が低周波域に移動しており,さらに,スペクトルの広がりの不均一性が認められ,下腿回旋運動の調和性が失われていると推測した。本研究で用いた角速度センサによる下肢肢節回旋測定は,臨床においての理学療法効果判定に有用である可能性が示された。
著者
木藤 伸宏 島澤 真一 弓削 千文 奥村 晃司 菅川 祥枝 吉用 聖加 井原 秀俊 三輪 恵 神谷 秀樹 岡田 恵也
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.86-94, 2004-02-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
27
被引用文献数
10

本研究は,3軸の加速度センサを用いて歩行時の下腿近位部に生じる加速度の計測を行い,腰OAから得られた加速度波形とそのパワースペクトルより健常例とは異なるパラメーターを同定し,その特徴を明らかにする事を目的とする。対象は健常群10名(過去に腰痛の経験がない),膝OA群9名(Kellgren & Lawrence分類 ; Grade IV)である。結果は,膝OAでは健常人と異なる加速度波形・速度波形が確認できた。また,周波数解析の結果,膝OAは健常例と異なる測方加速度パワースペクトルが認められた。膝OAの加速度波形の特徴は衝撃吸収メカニズムの破綻と膝関節安定メカニズムの欠如によって起こっていると推測した。周波数解析の結果からは,筋による下腿運動の制御が不十分であると推測した。加速度センサによる歩行時の脛骨運動の測定は,病態運動の把握と定量的評価,理学療法プログラム立案,治療法の効果判定などのスクリーニング検査として有用性が高く,他党的指標の一つになり得る。また,非侵襲的であり,コスト面からも十分に臨床応用が可能である。
著者
時安 樹子 木藤 伸宏 奥村 晃司 吉用 聖加 佐々木 誠人 川嶌 眞人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.83, 2004

【はじめに】<BR> 拘縮肩の理学療法の目的は、疼痛軽減と関節可動域(以下、ROM)改善が主である。症状の改善が得られない場合、関節鏡を併用した授動術が行われる。臨床的には、それによって改善傾向に進む症例と、改善が得られず、再度拘縮肩へと移行するケースがある。後者の場合、理学療法として単にROM訓練、筋機能訓練に主眼を置くアプローチのみでは限界を感じている。<br> 今回、ROM制限、疼痛が強く、上肢運動機能改善に難渋した拘縮肩を有する症例を経験し、肩甲帯・体幹の動き、重心の位置に着目し理学療法を行い職場復帰まで至ったので報告する。<br>【症例紹介】<BR> 年齢:47歳 性別:男性 職業:消防士<br> 診断名:右肩関節拘縮<br> 現病歴:平成15年10月下旬、階段から転倒しそうになり右手で手すりをつかんだ際に疼痛出現。近医受診し注射治療にて様子を見ながら仕事を続けていた。その後、徐々に夜間痛、運動時痛増強し、12月に当院受診。12月18日右肩関節鏡視下授動術施行となった。<br> 手術所見:前方関節包付近に瘢痕様組織あり。前・後・下方関節包を鏡視下に切離し完全屈曲、外旋60獲得。<br>【術前理学療法評価】<BR> 安静時痛visual analogue scale(以下、VAS)0/10、夜間痛VAS 10/10、運動時痛VAS 10/10、疼痛部位は肩関節前方にあり、肩峰下・結節間溝部に圧痛が認められた。ROMテストでは右肩関節屈曲115、外転80、外旋10、内旋60であり、外転時肩甲帯挙上・体幹左側屈、外旋時肩甲骨内転・体幹右回旋による代償が強く認められた。徒手筋力テストは疼痛のため測定困難であった。筋の状態は右頚部筋の緊張亢進、右棘下筋の萎縮が認められた。姿勢評価として右肩峰、肩甲骨下角の高さが左側と比較して低く、胸椎に軽度左凸の側弯が認められた。<br>【術後理学療法所見】<BR> 術翌日より理学療法開始し、術後2週間三角巾固定。訓練時のみ三角巾除去。術後、疼痛・脱力感の訴え強く、立位にて右上肢下垂困難、振り子運動、肘・手関節のROM訓練も困難な状態であった。アライメントは胸椎後彎・右側肩甲骨外転・肩関節内転、内旋・肘関節屈曲・右肩甲帯挙上位であった。それによって右肩関節から頚部周囲筋の筋緊張亢進し、右頚部・右肩甲骨内側に疼痛があった。また、胸椎後弯により肩甲骨外転位となり関節窩と骨頭の位置関係が崩れていた。また動作時、左側へ重心移動を行う傾向があった。今後その状態にて挙上を行うと疼痛・可動域制限が生じると考え、挙上しやすい環境を作ることが重要と判断した。<br>【理学療法アプローチ】<BR> (1)頚部筋のリラクゼーションを目的として、スリングセラピー施行。(2)下部体幹安定性の獲得を目的としてエアスタビライザーを用いて坐位保持訓練、左右への重心移動を行い、胸椎伸展に伴う肩甲骨の内転運動を促した。(3)身体全体の正中化を図る目的として右下肢での片脚起立訓練、ストレッチポールを用いた立位保持を行った。(4)関節包内運動、ROM制限となる筋・靭帯に対するストレッチを行い、ROMの改善を図った。<br>【経過】<BR> 術後1ヶ月にて退院となり、下肢荷重検査を施行した。その結果、左下肢での荷重が多く、上半身重心の左側方偏位より左下肢への荷重量が増加していた。<br> 術後2ヶ月頃より疼痛軽減が認められ、下部体幹の安定化、坐位・立位でのアライメントの改善、身体正中化が得られた。<br> 術後3ヶ月での評価においては、安静時痛VAS 0/10、夜間痛VAS 2/10、運動時痛VAS 5/10であった。ROM制限は依然として認められるが、右肩関節屈曲120、外転100、外旋20、内旋50と改善した。また、術前と比較して体幹・肩甲骨での代償運動は軽減した。姿勢では、両肩峰・肩甲骨下角の高さも改善し、下肢荷重検査においても左右差の改善が認められた。疼痛の軽減に伴い右肩関節を動かすことへの恐怖感も軽減し、右上肢での日常生活動作が可能となり、職場復帰可能となった。<br>【まとめ】<BR> 本症例は術前より疼痛強くROM制限が著明であるため、肩関節そのものに対するアプローチよりも、肩関節の運動機能を発揮できる環境作りのために、全身的なアプローチを行った。依然としてROM制限、筋機能低下は残存しているものの、本症例に行ったアプローチは疼痛を伴う症例に行うことは有用であると思われ、具体的詳細、考察を加え報告する。