著者
吉良 貴之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

本年度は「法時間論」の問題設定を具体化・明確化することに精力を傾注した。これは前年度に主に取り組んだ課題「世代間正義論」において摘出された「時間性」の問題を、法理論一般に応用することを目指すものである。「法時間論」の問題設定は、(1)「法による時間性」、(2)「法における時間性」の2つの柱によって具体化された。(1)は、社会に「時間的秩序」をもたらすものとしての法の役割に着目する。法は、過去および将来の実在論にコミットする必要はなく、あくまで「現在」において時間的秩序を打ち立てる装置として機能する。具体的にいえば、裁判は現在における証拠の整合性に基づいて「法的過去」を構成する営みであり、立法は将来の公共的価値を現在において「先取り」するものである。(2)は、こういった機能をもつ法そのものの内在的な時間構造を問題とする。法は「法的過去」からの一定の一貫性・連続性を保つことを要求されつつ、「法的将来」を規制するという時間構造をもつ。かかる時間性を内在させる一方で、普遍的=無時間的な価値の実現を目指すという、時間性と無時間性が両義的に絡み合った構造を法は有している。時間性と無時間性が絡み合った内在的な時間構造をもちつつ、社会に一定の時間秩序をもたらそうと試みるものが「法」であり、そのようにして捉えられた「法」の姿を、法内容独立的な服従理由としての「正統性」との関係から分析することの必要性が確認された。この問題設定に基づき、論文「憲法の時間性と無時間性」(仲正昌樹編『社会理論における理論と現実』)を執筆した。また、2008年度「日本法哲学会・分科会報告」にも応募し、査読を経た上、受諾された。いずれもいまだ序論的な性格のものであるが、問題設定を具体化・明確化したことによって、次年度以降の研究課題の基盤を構築することができたと考えている。