著者
佐野 亘
出版者
人間環境大学
雑誌
人間環境論集 (ISSN:13473395)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.35-53, 2006-03-31

人類絶滅が真剣な学問的議論の対象となることは少ないが、環境問題が深刻化している昨今、その規範的意味について検討することが必要である。本稿では、人類絶滅を許容ないし肯定する議論をいくつか紹介し、それぞれについて簡単な検討をくわえる。人類絶滅を許容・肯定する議論は、次の三つに分類することができる。一つ目は、人類以外にも価値を有する存在があるとする議論である。本稿では特に環境(自然・生態系・地球など)それ自体に、人類と同等の(あるいはそれ以上の)価値を認めるディープ・エコロジーの議論をとりあげる。二つ目は、人類にとっては、単なる存続以上に重要な価値が存在するとする議論である。本稿では、人類の体験する悲惨は人類の存続以上に重視されるべきとする議論と、人間性を失ったならば人類が存続する価値はないとする議論を紹介する。最後に三つ目は、人類の存続は価値的に中立であって、よいとも悪いともいえないとする議論である。本稿では、個人にしか価値を認めないリベラリズム的個人主義の議論と、人類も遅かれ早かれ絶滅するのだからいつ絶滅してもよいとするニヒリズムの議論をとりあげる。以上の検討を通じて、われわれは、人間性や人間存在の独自性について考究する必要があることが確認できた。
著者
佐野 亘
出版者
關西大學法學會
雑誌
關西大學法學論集 (ISSN:0437648X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2-3, pp.333-358, 2020-09-17

岡本哲和教授還暦記念論文集
著者
佐野 亘
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.65-80, 2013

<p>公共政策を論じるうえで,価値や規範の問題について検討する必要があることは多くの論者が認めている。だが実際には,公共政策の規範的側面に関する研究は必ずしも充実しているわけではないし,具体的方法論も確立していない。本稿では,規範的政策分析がこれまでわが国でじゅうぶんになされてこなかった理由について考察したうえで,その意義を確認する。そして最後に,規範的政策分析がどのようなものであるべきかを論じ,具体的な方法論の確立に向けて,必要条件を提示し,そのあり方について,おおまかなイメージを描き出す。</p><p>以上の検討から明らかになったことは,以下のとおりである。第一に,価値や規範に関する議論がときに政治的に重要な役割を果たすとしても,規範的政策分析を実際の政策過程に有効なかたちで組み込むには相応のエ夫が必要である。第二に,規範的政策分析は,一般的な規範理論研究と異なり,真理の追求をおこなうこと自体が目的ではなく,合意形成や選択肢の提示にとって役立つものでなければならない。第三に,そのような役割を果たすためには,政策に関わるコミュニケーションにおいて利用される価値概念や規範概念の意味内容や関係性を明確化するとともに,ことばになりにくい感覚や感情を言語化することも必要である。第四に,以上の作業をおこなうための前提条件として,人々が実際に有している価値観やモラルを知っておく必要がある。なお,以上の議論は基本的にプラグマティズムの観点からなされており,政策過程におけるレトリックや解釈,コミュニケーションの重要性を踏まえたものである。</p>
著者
佐野 亘
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
no.4, pp.17-29, 2001-01

近年、民主主義の促進を通じて環境問題を解決すべきとする主張がある。多くの環境問題が「官僚制の失敗」や「利益集団の圧力」によって発生しており、その解決には、一般市民の意見を政治の場に反映することが必要であるという。実際、岐阜県御嵩町のように、住民投票によって環境破壊がくいとめられることが少なくない。また、環境問題に対する市民の意識の低さも、民主主義の促進によってこそ改善される。地方分権がすすみ、住民投票がおこなわれることにより、人々は環境をめぐる決定に直面し、生活環境の重要性を再認識することになろう。だが、私見では、民主主義は常にあらゆる環境問題を解決できるわけではない。第一に、「環境」という価値と民主主義は必ずしも一致するわけではない。また、環境をめぐる問題はときに深刻な価値の対立を引き起こすが、民主主義はこのような対立を妥協に導くことはあっても、解決するものではない。さらに、民主主義の「境界」の問題がある。環境問題はしばしば政治的共同体の範囲を超えて、外国や将来世代にも影響を及ぼす。このような場合には、民主主義という手続だけでは環境問題を解決するには不十分だろう。
著者
佐野 亘 藤田 和彦 平林 頌子 横山 祐典 宮入 陽介 ローレン トス リチャード アロンソン 菅 浩伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b>はじめに</b></p><p> サンゴ礁の海浜沖には海草帯と呼ばれる生物・地形分帯がある.海草帯は海草類の群落であり,底質は砂礫質の堆積物で構成され,低潮位でも干出しない汀線付近から水深4mを超える場所にも形成されることがある.また海草帯は魚類や底生生物の生息・産卵の場,ウミガメやジュゴンなどの海草を摂食する貴重な生物種を支える場であるとともに,沿岸浅海域における炭素循環に大きな役割を担っていることも報告されている(Unsworth et al., 2019;Fourqurean et al., 2012;Nellemann et al., 2009).このようなサンゴ礁における海草帯の役割が注目される一方,サンゴ礁に現成のような海草帯が具体的にいつから形成されていたのかという時間的な検証が行われた研究例は少ない.</p><p></p><p>研究対象地域の一つである久米島のサンゴ礁地形は約8300年前から発達し始め,約5700年前に礁嶺が海面に到達.さらに礁嶺の海面到達後,外洋と分断されたラグーンが未固結堆積物で埋積されるということが明らかになっている(Kan et al., 1991).しかし、これらの先行研究は主に固結した礁石灰岩コアを用いて礁嶺の形成過程に焦点が当てられものであり,海草帯に代表される未固結堆積物で構成された沿岸域に関しては,その地形発達プロセスに関する科学的知見が少ない状況である.</p><p></p><p>そこで本研究では現成海草帯において採取された未固結堆積物コア試料を用いてその堆積物と年代を検討するとともに,現成海草帯の現地調査を行い,海草帯の地形発達過程とそれに伴う海草帯の形成時期を明らかにした.</p><p><b>現地調査と分析手法</b></p><p> 本研究では,琉球列島久米島の東部と沖縄島の備瀬崎の2地域において採取した海草帯の未固結堆積物コア試料(最大掘削深度4.2 m)を用いた.コア採取地点の底質は枝サンゴ礫を多く含む砂泥質の堆積物であり,リュウキュウアマモ(<i>Cymodocea serrulata</i>),リュウキュウスガモ(<i>Thalassia hemprichii</i>),またウミジグサ(<i>Halodule uninervis</i>)や,ウミヒルモ(<i>Halophila ovalis</i>)などの海草類が卓越した場所である.またコア試料採取地点および周辺地域における現地調査を行い,<i>Amphisorus hemprichii</i>,<i>Calcarina calcarinoides</i>などの大型底生有孔虫が現生の海草葉上に生息していることを確認した.コア試料は九州大学にてサブサンプリングを行い,東京大学大気海洋研究所にてサンゴ礫や有孔虫化石の放射性炭素年代測定を行った.さらに堆積物中の大型底生有孔虫の群集解析を行い,現生有孔虫の生息分布との比較から海草帯の堆積環境の復元を行った.</p><p><b>海草帯の堆積過程と形成年代</b></p><p> 久米島東部の海草帯における現地調査では,現生の海草葉上に優占的に生息する大型底生有孔虫(<i>Calcarina calcarinoides</i>)を発見した.<i>Calcarina calcarinoides</i>は先行研究においても海草葉上において優占的に生息することが明らかにされている(藤田他, 1999)ことから,この有孔虫化石を海草帯形成の指標として堆積物中に含まれる有孔虫の群集解析を行った結果,3.9 Ka BP以降(水深3m以浅)に海草帯形成を指示する結果が得られた.また沖縄島備瀬崎においては現地調査と堆積物試料の分析の結果,大型底生有孔虫である<i>Amphisorus hemprichii</i>(通称;ゼニ石)が古海草帯指標となることが示唆された.</p><p></p><p><b>謝辞:</b>本研究はH28〜32年度科研費 基盤研究(S) 16H06309「浅海底地形学を基にした沿岸域の先進的学際研究 −三次元海底地形で開くパラダイム−」(代表者:菅 浩伸)の成果の一部です.</p><p></p><p><b>参考文献</b></p><p></p><p>Fourqurean et al. (2012). <i>Nature Geoscience</i>, Vol. 5, pp.505-509</p><p></p><p>藤田和彦 他 (1999). 化石, No. 66, pp.16-33</p><p></p><p>Kan et al. (1991). <i>Geographical Review of Japan</i>, 64, 2, 114-131</p><p></p><p>Nellemann et al. (2009). Blue carbon: the role of healthy oceans in binding carbon, pp.35-44</p><p></p><p>Unsworth et al. (2018b). <i>Conservation Letters</i>, Vol. 12. pp.1-8</p>
著者
佐野 亘
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.65-80, 2013-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
33

公共政策を論じるうえで,価値や規範の問題について検討する必要があることは多くの論者が認めている。だが実際には,公共政策の規範的側面に関する研究は必ずしも充実しているわけではないし,具体的方法論も確立していない。本稿では,規範的政策分析がこれまでわが国でじゅうぶんになされてこなかった理由について考察したうえで,その意義を確認する。そして最後に,規範的政策分析がどのようなものであるべきかを論じ,具体的な方法論の確立に向けて,必要条件を提示し,そのあり方について,おおまかなイメージを描き出す。以上の検討から明らかになったことは,以下のとおりである。第一に,価値や規範に関する議論がときに政治的に重要な役割を果たすとしても,規範的政策分析を実際の政策過程に有効なかたちで組み込むには相応のエ夫が必要である。第二に,規範的政策分析は,一般的な規範理論研究と異なり,真理の追求をおこなうこと自体が目的ではなく,合意形成や選択肢の提示にとって役立つものでなければならない。第三に,そのような役割を果たすためには,政策に関わるコミュニケーションにおいて利用される価値概念や規範概念の意味内容や関係性を明確化するとともに,ことばになりにくい感覚や感情を言語化することも必要である。第四に,以上の作業をおこなうための前提条件として,人々が実際に有している価値観やモラルを知っておく必要がある。なお,以上の議論は基本的にプラグマティズムの観点からなされており,政策過程におけるレトリックや解釈,コミュニケーションの重要性を踏まえたものである。
著者
足立 幸男 飯尾 潤 細野 助博 縣 公一郎 長谷川 公一 田中 田中 小池 洋次 山谷 清志 金井 利之 田中 秀明 鈴木 崇弘 渡邉 聡 宇佐美 誠 土山 希美枝 秋吉 貴雄 佐野 亘 蒔田 純 清水 美香
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究プロジェクトによって以下の点が明らかとなった。日本政府はこれまで政策改善に向けた努力を疎かにしてきたわけではない(職員の政策能力向上に向けた施策の展開、省庁付属の政策研究機関および議員の政策立案作業支援のための機関の設置、審議会の透明化・民主化など)。大学もまた公共政策プログラムを矢継ぎ早に開設してきた。にもかかわらず、政策分析はいまだ独立したプロフェッションとして確立されておらず、その活用もごく限られたレベルに留まっている。我々は、政策分析の質を向上し、より良い政策の決定・実施の可能性をどうすれば高めることができるかについて、いくつかの具体的方策を確認することができた。
著者
足立 幸男 竹下 賢 坪郷 實 松下 和夫 山谷 清志 長峯 純一 大山 耕輔 宇佐美 誠 佐野 亘 高津 融男 窪田 好男 青山 公三 小松崎 俊作 飯尾 潤 飯尾 潤 立岡 浩 焦 従勉
出版者
関西大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

環境ガバナンスを支える民主主義の理念と制度について検討をおこない、その結果、以下の点が明らかとなった。第一に、適切な環境ガバナンスを実現するには、将来世代の利害に配慮した民主主義の理念や制度のあり方を生み出す必要がある。第二に、政治的境界と生態系の境界はしばしば一致しないため、そうした状況のもとでも適切な環境ガバナンスが実現されるような制度的工夫(いわゆるガバナンス的なもの)が必要となるとともに、民主主義の理解そのものを変えていく必要があること。第三に、民主主義における専門家の役割を適切に位置づけるためにこそ、討議や熟議の要素を民主主義に取り込む必要があるとともに、そうした方向に向けた、民主主義の理念の再構築が必要であること。第四に、民主主義を通じた意識向上こそが、長い目でみれば、環境ガバナンスを成功させる決定的に重要な要因であること、また同時に、それを支える教育も必要であること。以上が本プロジェクトの研究成果の概要である。