- 著者
-
名倉 豊
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
現在、最も安全な輸血とされている自己血輸血の問題として凝集塊形成による返血不能や、返血時の発熱反応・血圧低下などの非溶血性副作用の発生が挙げられる。これらの主な原因として、自己血中に含まれる白血球の関与が考えられる。同種血輸血製剤による非溶血性副作用の防止策として、赤十字血液センターでは全ての同種血製剤に対して、保存前白血球除去を導入している。本研究では、自己血の保存前白血球除去(以下、白除)の有用性について検討を行った。その結果、白除処理により白血球および血小板は効率よく除去されていた。一方、赤血球は白除処理の影響を受けず、高い回収率であった。白除した自己血では凝集塊形成を認めず、返血時に問題も認めなかった。自己血中のサイトカイン・ケモカイン濃度を測定したところ、白除処理により、不変のものから顕著な減少を示すものまで様々であった。さらに、これらのサイトカイン・ケモカインが血小板凝集塊形成に及ぼす影響を検討するため、白血球の存在下及び非存在下において血小板に添加し、凝集塊形成を評価した。その結果、白血球非存在下で血小板凝集は認めないものの、白血球の存在下でサイトカイン・ケモカインを添付すると血小板凝集が認められた。また、血小板と白血球の接着について検討を加えた結果、サイトカイン・ケモカイン処理により、接着率が増加した。このことから、サイトカイン・ケモカイン刺激による血小板凝集には、白血球の存在必要不可欠であることが確認された。したがって、自己血の保存前白除により、白血球および血小板が効率よく除去され、これらが産生するサイトカイン・ケモカイン濃度の上昇を防止することが可能であり、その結果として凝集塊形成の抑制及び非溶血性副作用の防止が可能と考えられた。自己血の安全性向上に、保存前白除の導入は重要と考えられる。