著者
呉地 正行 横田 義雄 大津 真理子
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2-3, pp.95-108, 1983-10-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

(1)日本に渡来するヒシクイ Anser fabalis の各個体群の亜種調査を行うために,ヒシクイ A. f. serrirostris とオオヒシクイ A. f. middendorfi の野外識別の可能性を検討した.(2)この2亜種は形態的相違が顕著で,生態的にも異なる点が多く,野外観察でも識別可能である.至近距離の場合は嘴の形態のみで,遠距離(約1km)の場合でも25倍の望遠鏡を用いれば,嘴峰/頭長比〓1,嘴峰/嘴高(基部)比〓2,頭•嘴部全体の形態の相違,などの形態的比較や,鳴き声の相違などの生態的比較により亜種を識別できる.(3)野外識別法により得られた結果と,同一地域で採取された標本調査の結果は,よく一致した. 例えば,宮城県下の個体群は A. f. serrirostris が,また新潟県下のものは A. f. middendorfi が大多数を占めるという結果が,両方法から得られた.
著者
嶋田 哲郎 呉地 正行 鈴木 康 宮林 泰彦 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.9-15, 2013 (Released:2013-05-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

東日本大震災が南三陸沿岸で越冬するコクガンに与えた影響を調べるため,岩手県陸前高田市の広田湾から宮城県石巻市の北上川河口にかけて,2011-2012年の冬期に調査を行った.2011年11月下旬~12月上旬,2012年1月上旬,2月下旬の3回,コクガンの分布を調べ,3回の調査でそれぞれ291羽,380羽,403羽のコクガンが記録され,観察されたコクガンの個体数は震災前のデータと大きな違いはなかった.群れが確認された環境をみると,11月下旬~12月上旬と1月上旬では漁港で59%,海上で35-41%と同様な傾向を示した.震災前には漁港でコクガンが観察されることは稀であったが,地盤沈下した岸壁や船揚場に付着した海藻類がコクガンの食物資源となったこと,震災後の漁港への人の出入りの減少に伴いコクガンが妨害を受けずに安定的に利用できるようになったことに加え,震災前の採食場所であったワカメやカキなどの養殖筏が津波によって消失したためと考えられた.一方で,2月下旬になるとそれまでより漁港を利用したコクガンの割合は減少し,海上や砂浜を利用したコクガンの割合が増加した.ワカメやカキの養殖筏の復興,それらに付着した海藻類の生長につれてコクガンの食物資源量が増加したと考えられる.震災によってコクガンの生息環境は大きく変化したが,採食場所をシフトすることでその変化に対応していると考えられる.