- 著者
-
寺内 信
西島 芳子
佐藤 圭二
鈴木 浩
安田 孝
和田 康由
馬場 昌子
バージェス グレイム
- 出版者
- 一般財団法人 住総研
- 雑誌
- 住宅総合研究財団研究年報
- 巻号頁・発行日
- vol.25, pp.37-48, 1999
近代産業都市の発展は,19世紀イギリスにおいても20世紀の日本においても,商業業務を主とする都心部の成立と,その周辺における工業地域と高密度居住地域の形成をもたらした。イギリスでは19世紀の初めからの都市への人口集中は都心周辺部での高密度テラスハウス(バックツウバックあるいはバイロウハウス)によって吸収され,日本の大阪では20世紀初期からの人口集中は長屋や町屋によって吸収されたのである。その結果としての都市形成と都心周辺部の居住様式には,約100年の時期的差異があるにもかかわらず,共通するところが多いことが明らかになった。このような高密度居住による衛生問題を主とする住宅問題・都市計画問題に対して,イギリスではリバプールをはじめとする条例制定や,それを支援する中央政府の公衆衛生法の制定によって改善が進められた。しかし,日本では1900年頃までの上水道普及の進展もあって,建築・都市計画法制からは衛生問題が抜け落ちている。 大阪,リパプール,バーミンガムを主とする本研究では日英比較による都心住宅地形成と更新・保存の制度化の差異の要因として,1)都市自治体の主体性の強弱,2)防火建築材料などの社会的合意形成の時期,3)建築産業の近代化,4)地域住宅産業の育成,5)住宅改善・居住地更新の総合性,6)近隣関係重視の居住地更新政策,などにあることを仮説として明らかにした。この結果を背景に,これからの都心周辺部居住地更新においては,居住者の近隣関係を重視した参加と支援による計画・事業制度の整備と推進が重要と考えている。