著者
久保 加津代 西島 芳子 曲田 清維
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

温暖地域(九州・四国地方)の,地域に根ざした伝統的な住生活法について調査した結果,つぎの点があきらかになった。1.掃き出しの開口部や3本溝などを活用して開放的な間取をもち,高床に風を通し,深い軒の出をもって日照を遮っている,ハード面での工夫だけではなく,夏には,窓を開け,植栽や軒先に仕込んだ日よけ障子の活用や打ち水などのソフト面でも「気を用いて」「ていねいに」暮らしている。2.縁側やミセやショウギやオキザなどを活用して,夕涼みやひなたぼっこなどを楽しみ,地域に根ざした住生活は地域コミュニティをも育んできた。3.世代間による環境適応力の違いは大きく,子どもや若者の季節感・住環境適応力低下傾向は著しい。地域差もみられる。4.世代間交流の視点で,「庚申庵伝統文化こども教室」「ふれあいセンターもやい」の活動や家庭科の授業やケーブル・テレビについて,具体的に検討することができた。異世代間交流の可能性は大きい。5.高等学校家庭科『家庭総合』の教科書は,地域に根ざした住生活や健康的で持続可能な住生活についての記述が豊富になりはじめている。地域に根ざした,健康で持続可能な住生活をするために,ゆっくり,ていねいに日常生活を営むことの重要性を世代間で交流していきたい。
著者
寺内 信 西島 芳子 佐藤 圭二 鈴木 浩 安田 孝 和田 康由 馬場 昌子 バージェス グレイム
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報
巻号頁・発行日
vol.25, pp.37-48, 1999

近代産業都市の発展は,19世紀イギリスにおいても20世紀の日本においても,商業業務を主とする都心部の成立と,その周辺における工業地域と高密度居住地域の形成をもたらした。イギリスでは19世紀の初めからの都市への人口集中は都心周辺部での高密度テラスハウス(バックツウバックあるいはバイロウハウス)によって吸収され,日本の大阪では20世紀初期からの人口集中は長屋や町屋によって吸収されたのである。その結果としての都市形成と都心周辺部の居住様式には,約100年の時期的差異があるにもかかわらず,共通するところが多いことが明らかになった。このような高密度居住による衛生問題を主とする住宅問題・都市計画問題に対して,イギリスではリバプールをはじめとする条例制定や,それを支援する中央政府の公衆衛生法の制定によって改善が進められた。しかし,日本では1900年頃までの上水道普及の進展もあって,建築・都市計画法制からは衛生問題が抜け落ちている。 大阪,リパプール,バーミンガムを主とする本研究では日英比較による都心住宅地形成と更新・保存の制度化の差異の要因として,1)都市自治体の主体性の強弱,2)防火建築材料などの社会的合意形成の時期,3)建築産業の近代化,4)地域住宅産業の育成,5)住宅改善・居住地更新の総合性,6)近隣関係重視の居住地更新政策,などにあることを仮説として明らかにした。この結果を背景に,これからの都心周辺部居住地更新においては,居住者の近隣関係を重視した参加と支援による計画・事業制度の整備と推進が重要と考えている。
著者
寺内 信 佐藤 圭二 山本 剛郎 安田 孝 馬場 昌子 西島 芳子
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

近代産業都市の住宅地形成を日本の長屋建住宅とイギリスのテラスハウスの比較研究として実施した。日本では大阪と名古屋の都心周辺部における長屋建住宅地の形成過程と第2次世界大戦後の変容、消失実態を明らかにした。イギリスではリバプール、バーミンガム、リーズを主として、テラスハウス地区の形成過程、戦後の改善過程、改善主体や改善手法について考察した。また、老朽住宅の建て替えや、居住者の高齢化に伴う高齢者居住対策の活動について、およびバーミンガムにおける居住者分布のパターンについて分析している。日本の長屋建て住宅は19世紀末からの近代産業都市建設の過程で、庶民住宅として供給されたが、第2次大戦後は社会経済的争件の欠落により減少した。一時的に非木造テラスハウスとしての普及が試みられたが、成功しなかった。都心居住の再生が推進されつつある今日では、新たな再建の方法とルールが必要とされている。イギリスでも戦後の住宅建設では増加していないが、1960年代以降の居住地改善活動によって、改善・維持がすすめられた。その過程で重要な役割を果たしたのがハウジング・アソシエーションである。しかし多様な主体による居住地再生活動にもかかわらず、テラスハウスの高齢者・障書者対応の改造は進展せず、新たな改修方法の開発と実験が必要と考えられる。