著者
宮本 佳明 筆保 弘徳 和田 章義
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.181-196, 2022 (Released:2022-02-22)
参考文献数
48
被引用文献数
6

中心気圧が960hPaで関東地方に上陸した台風Faxai (1915)に関して、非静力学モデルを用いて格子間隔1kmでの数値シミュレーションを行なった。Faxaiは上陸まで軸対称的な構造を維持し、強風により甚大な被害をもたらした。シミュレーションの結果、上陸前後の48時間の現実的な経路・強度が再現された。計算された強度は上陸まで強く、渦の水平方向の大きさは小さかった。計算されたFaxaiの構造は、熱帯海洋上における発達した熱帯低気圧(TC)のように、軸対称的で目の壁雲が存在していた。中心付近で海面の潜熱フラックスは上陸まで300W m-2を超えていて、高度1.5-12 kmでの鉛直シアーは中緯度としては比較的弱く、9m s-1よりも低かった。 台風の環境場パラメータからポテンシャル強度(MPI)を算出した。計算されたTCの強度もベストトラックの強度も、上陸12時間前からMPIよりも大きいsuperintense状態にあった。これは、内部コア域で超傾度風化していたことによるもので、強い強度や軸対称な構造が原因と考えられる。計算されたTCは、成熟期において傾度風平衡を除いたMPIの式に必要な近似を良く満たしており、これはTCの構造が熱帯で発達したものと類似していたためと考えられる。 今回の解析から、Faxaiは、好ましい環境条件と渦構造によって強い強度を維持したと考えられる。
著者
和田 章義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

2009年台風Choi-wanについて、水平解像度6kmの非静力学大気波浪海洋炭素平衡結合モデルによる数値シミュレーションを実施し、その結果をNOAA/PMELのKEOブイ観測データと比較検証した。計算された台風は、観測から推定される通過時刻よりも3時間ほど遅く、KEOブイ地点を通過した。しかし中心気圧の深まりについては、計算結果と観測結果は整合していた。この比較的遅い移動速度は、台風通過により生じる近慣性流及び乱流混合に影響し、結果としてKEO観測点に相当するモデル格子点で計算された海面水温、海面塩分、無機溶存炭素は観測結果よりも低くなった。そこで台風の位置に合わせた座標系で見た点(ブイの南側の点)で計算結果と観測結果を比較した。この場合、海面水温の低下は変わらなかったものの、塩分は初期時刻から増加し、観測結果と整合的であった。また海水温29℃で規格化した二酸化炭素分圧は初期時刻より増加し、観測結果とより整合的になった。以上の結果から、黒潮続流域の台風通過による海面二酸化炭素分圧の変動は海面水温だけで決まるのではなく、塩分や無機溶存炭素も重要であることがわかった。2011年の台風Ma-on、Talas及びRokeについて数値シミュレーションを実施した。Ma-onとTalasについては、台風による海水温低下が台風強度の計算に重要であった。一方、Rokeについては、台風による海水温低下の効果を考慮した場合、水平解像度1.5kmでも中心気圧の急激な深まりを再現することができなかった。Talasについては、側面境界条件に関するパラメータを変えた数値実験を実施した。このパラメータの変更により、中緯度において進路の違いが見られたものの、後に発生する台風Noruの発生地点には影響を及ぼさなかった。またTalasによる海面水温低下によりNoruの発生時刻は遅くなった。
著者
和田 章義 柳瀬 亘 岡本 幸三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.387-414, 2022 (Released:2022-04-07)
参考文献数
48
被引用文献数
1 4

2018年台風第12号(ジョンダリ)は7月29日の日本上陸前に、対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿った異常な経路をとった。大気海洋相互作用および対流圏上層寒冷低気圧とジョンダリの相互作用が台風経路に及ぼす影響を調べるため、3kmメッシュ非静力学大気モデルと大気波浪海洋結合モデル及び異なる初期時間を採用して作成した初期条件に基づく数値シミュレーションを実施した。シミュレーションされた対流圏上層寒冷低気圧は355K等温線上の高ポテンシャル渦度、低い気圧、低い相対湿度の特徴をもつ。7月25日から27日にかけて対流圏上層寒冷低気圧はジョンダリの北側を南西方向に移動し、この期間にシミュレーションされたジョンダリは対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿って反時計回りに移動した。ジョンダリが西に移動し始めてから、大気波浪海洋結合モデルによるシミュレーション結果において、経路に沿って海面冷却が生じていた。日本上陸後にジョンダリは勢力を弱めると、対流圏上層寒冷低気圧も日本の南側で勢力を弱めた。特に潜熱フラックスと対流による対流圏上部における加湿が勢力の弱化に影響を与えていた。ジョンダリが九州の南海上で再び発達したとき、台風域では渦位は柱状に高くなり、一方で対流圏上層寒冷低気圧付近の対流圏上層渦位は相対的に低い値であったことから、台風域の渦は対流圏上層寒冷低気圧と合体する様子がシミュレーションされた。大気波浪海洋結合モデルのシミュレーション結果では、寒冷低気圧付近の対流圏上層部における高渦位は維持される一方、柱状の台風域の渦位はその高さを下げつつ弱まり、台風中心からの対流圏上層への外出流が弱まった。この結果、対流圏上層寒冷低気圧から変形した高渦位の折り返し位置に影響を与える様子が見られた。ジョンダリの経路に影響を及ぼす指向流は、対流圏上層寒冷低気圧下の地衡風の影響を受けていたため、実際は上記海洋結合の効果よりも大気初期条件の違いがジョンダリと対流圏上層寒冷低気圧両方の経路と強度により強い影響を与えていた。
著者
和田 章義
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.1453-1482, 2021 (Released:2021-12-16)
参考文献数
81
被引用文献数
5

2018年、日本に上陸した台風チャーミーは進路転向後に急衰弱した後、数日間その強さを維持した。続いて台風コンレイはチャーミーによって冷やされた海域を急衰弱しつつ通過した。これら2つの台風が急衰弱した海域は、海洋中規模渦が豊富な海域である。これら2つの台風の強度変化における冷水渦の役割とその類似点及び相違点を理解するため、2km水平解像度非静力学大気モデルと大気波浪海洋結合により数値シミュレーションを実施した。また冷水渦の強度を観測により確証できないため、チャーミーの弱化に有意に寄与する規模を仮定した人工冷水渦を埋め込んだ海洋初期値及び日付の異なる海洋初期値を用いた感度実験を実施した。コンレイに対しては、日付の異なる海洋初期値の代わりに、9つの大気初期値に対するアンサンブルシミュレーションを実施した。2つのシミュレートされた台風の急衰弱における海洋場の役割は、どちらも台風通過時の海水温低下による海洋貯熱量の低下と関係していた。チャーミーとコンレイに対するシミュレーション結果のほとんどは、成熟期または衰退期の期間、過剰発達傾向を示した。チャーミーの過発達は不十分な海面水温低下により生じており、人工冷水渦は海水温低下の促進を助長した。一方でコンレイの過発達は台風進路シミュレーションの失敗に関連していた。コンレイの進路が適切にシミュレートされることにより、コンレイはより多くの時間、海水温低下域上を移動することとなり、鉛直シア上流側における地表面付近及びインフロー境界層、台風中心への内部コア域における水蒸気輸送の減少を通じて、弱化を強めることとなった。2つの台風に見られた共通点として、中心における下降流と関連する断熱加熱の減少が台風弱化と密接にかかわっていた。
著者
和田 章義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

北西太平洋海域に展開された3基のフロートによる日々の観測により、2011-2012年の台風シーズンにおいて8つの台風の海洋応答をとらえた。この海洋応答について、台風中心に対するフロートの3つの相対位置を①100km以内の台風近傍域、②台風経路から100km外でかつ右側に離れた海域、③台風経路から100km外でかつ左側に離れた海域に分け、それぞれについてその応答特性を調査した。①の台風近傍域では、風の低気圧性回転成分により海洋内部で湧昇が生じた結果として、表層水温の低下が顕著となった。また②の進行方向右側の海域では、強風による乱流混合の増大に起因した海洋混合層の深まりが顕著であった。さらに海洋表層における塩分変動は、台風中心とフロートの相対位置関係に加え、降水の影響を強く受けることがわかった。次にこの8つの台風のうち4事例について非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値シミュレーションを実施した。シミュレーション結果から①台風による海水温低下により台風中心気圧が高くなること、②環境場の風が弱い事例(2011年台風第9号)で、海水温低下が台風経路シミュレーションに影響を与えること、③台風中心から半径200kmまで、台風直下に形成される海水温低下は24~47%の潜熱の減少をもたらすことがあきらかとなった。また2013年台風第18号について、非静力学大気波浪海洋結合モデルにより数値シミュレーションを実施した結果、黒潮流域での高海面水温場による台風渦の順圧対流不安定により生成されたメソ渦が対流バーストを引き起こすことにより、北緯30度以北でこの台風が急発達したことが明らかとなった。この結果はまた、大気海洋間の高エンタルビーフラックスが台風の急速な強化に必ずしも必要でないことを示唆する。
著者
和田 章義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

台風と海洋の相互作用を海洋大循環モデルに炭素平衡モデルを組み込んだ結合モデルと非静力学大気波浪海洋結合モデルを用いて研究した。数値シミュレーション結果から台風通過時に海面二酸化炭素フラックスが突発的に増加し、酸性化を引き起こすこと、高風速時において風速の増加に伴い抵抗係数が減少すること、クロロフィルaの増加に伴う海面水温変動は、海洋環境場に比べて台風強度に与える影響が小さいことが明らかとなった。