著者
神楽岡 澄 大森 正子 高尾 良子 山田 万里 室井 雅子 長嶺 路子 深澤 啓治 永井 恵 和田 雅子 星野 斉之 吉山 崇 前田 秀雄 石川 信克
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.83, no.9, pp.611-620, 2008-08-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
27
被引用文献数
1

〔目的〕結核対策事業の展開を軸にDOTS事業成績を評価し,都市結核対策のあり方を検討する。〔方法〕ハイリスク者結核検診の受診率と患者発見率の推移を検証した。DOTS拡大の前後で,治療成績を比較するとともに,再治療率と薬剤耐性率の推移を検討した。〔結果〕新宿区の結核罹患率(2006年)は人口10万対425までに低下したが,全国の罹患率と比較すると依然2倍以上の高さである。日本語学校検診およびホームレス検診からの患者発見率はともに有意に低下していた。治療成績のうち脱落率は,DOTS実施前には17.9%(1998~99年)と高かったが,65%(2002~04年)に減少した。再治療率は2000~06年にかけて23.0%から7.8%へ,年平均17.2%の減少(p<0.001)を示した。多剤耐性率は2000~02年から2003~06年にかけて1.6%から0.2%(p=0.042)へ,その他の耐性率は12.0%から9.7%(p=0.298)へ低下した。〔考察〕ハイリスク者結核検診による患者の早期発見・早期治療に加えて,地域の関係者と連携を図りながらライフスタイルに合った様々な服薬の支援方法を開発し,患者自身が選択できるDOTS方式を推進した。その結果,脱落率,再発率の低下につながったと考えられる。耐性率の低下の要因については,感染ルートの検証も含めてさらに検討する必要があろう。
著者
伊藤 邦彦 和田 雅子 吉山 崇 大森 正子 尾形 英雄
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.461-467, 2004-08-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
9

[目的] 化学療法による治癒ないし中断後再発例の耐性率を調査し, 獲得耐性のrisk factorを分析する。 [方法] chart review。 [対象] 1993年~2003年に複十字病院で再発結核の治療を開始した, 前回感受性ないし耐性不明例。 [結果] 分析対象再発例 (N=200) での耐性率 (主要4剤/any) は16.5%で初回耐性率 (11.1%) よりも有意に高かった。再発時耐性率は前回治療方式および前回治療時の耐性判明状況に大きく影響され, 前回感受性例での耐性率 (any) は4.3%で初回例よりも低かったが統計的有意差はなかった。再発時獲得耐性の有意なrisk factorは不規則内服を含めて患者側の因子は見出せなかった。 [考察と結論] 再発結核の治療にあたっては前回治療方式や菌検査情報把握が必要である。再発時獲得耐性のrisk factorの検討からは医療者側のmiss managementがその主因を占める可能性も推測され, 今後これを強力に指導し得るような結核対策上のシステムが必要とされる可能性が示唆された。
著者
伊藤 邦彦 高橋 光良 吉山 崇 和田 雅子 尾形 英雄
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.387-390, 2004-06-15

症例は47歳男性, 住所不定者。4歳時肺門リンパ節結核で治療歴あり。特記すべき合併症なくHIV陰性。病型b II 2, 喀痰塗抹Gaffky 4号全剤感受性の肺結核の診断で複十字病院命令入所し標準的化学療法開始。治療開始2力月目に一度喀痰培養陰性化するも, 内服は規則的と考えられたにもかかわらずその約2週後の喀痰で再排菌し, それ以降治療終了後も喀痰培養が断続的に続いた。薬剤感受性試験では再排菌以降の菌が多剤耐性化していたことが繰り返し確認された。RFLP分析では再排菌時以降の多剤耐性菌と治療開始時から排菌停止までの菌で菌株が全く異なることが判明し, Double-strain infectionによる多剤耐性肺結核と判断された。
著者
大森 正子 和田 雅子 吉山 崇 内村 和広
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.435-442, 2003-06-15
参考文献数
19
被引用文献数
6

老人保健施設における結核の早期発見方策を検討する目的で, 1都4県358の老人保健施設にアンケート調査を実施し, 169 (47.2%) から回答を得た. 施設は併設病院あり36.1%, 診療所あり12.4%, どちらもなし51.5%で, 平均年齢は入所者83.2歳, 通所者79.6歳, 平均利用期間は入所者7ヵ月, 通所者13ヵ月だった. 施設利用時に胸部X線検査を実施していた施設は入所者42.6%, 通所者23.7%, 利用期間中に結核検診を実施していた施設は入所者45.6%, 通所者15.4%だった. 職員への定期結核検診は94.7%の施設で実施していた. 入所者の食欲低下や全身倦怠といった症状は, 67.5%の施設で毎日点検していると答えたが, 呼吸器症状は18.9%と少なかった. 2週間以上続く呼吸器症状で病院を受診させる際, 入所者では93.5%の施設が文書を持たせ, 63.9%が胸部X線と喀痰検査を依頼すると答えたが, 通所者では医療機関受診を勧めるだけで特に症状を説明する文書を持たせず結果を確認することもしないと答えた. 結核患者発生率は, 施設利用者10万対104.6で, 調査地域の一般住民 (同年齢) の結核発生率よりやや高かったが有意の差は見られなかった. 老人保健施設は医療機関とみなされ結核予防法で健診の対象にはなっていない. 法的措置の基に効果的な患者発見方策を確立する必要がある.
著者
伊藤 邦彦 吉山 崇 中園 智昭 尾形 英雄 和田 雅子 水谷 清二
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR TB AND NTM
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.75, no.12, pp.691-697, 2000-12-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Study objectives: To assess the usefulness of commercial kits of nucleic acid amplifica tion test (NAAT) for diagnosis of smear negative (SN) pulmonary tuberculosis.Design and patients: Retrospective study of patients who were diagnosed as, or sus pected of pulmonary tuberculosis during 3 years from January 1996 to December 1998 in Fukuiuii Hospital which has 100 beds for tuberculosis patients.Measurements and Results: 145 smear-negative culture-positive pulmonary tuberculosis patients are entered to our analysis. The DNA-based amplification test kit (Amplicor Mycobacterium tuberculosis Test (AMPL), Roche Diagnostic Systems, Basel, Switzerland) detected 39.2% (20/51, 95% confidence interval (CI): 25.8-52.6%) of smear-nega tive culture-positive (SNCP) pulmonary tuberculosis cases. The RNA-based amplification test kit (Gen-Probe Amplified Mycobacterium tuberculosis Direct Test (AMTDT), Gen-Probe Inc., San Diego, Calif., USA) detected 40.5% (15/37, 95% CI: 24.7-56.3%) of SNCP pulmonay tuberculosis cases. For both NAATs (AMPL and AMTDT), between two groups with and without the NAAT at diagnosis of SNCP pulmonary tuberculosis, there was statistical difference in culture-positive rate (proportion of positivity in sputum culture tests at diagnosis), but no statistical difference in maximum number of colony of Mycobacterium tuberculosis (MTB). When stratified for the culture-positive rate, adjusted sensitivity for SNCP patients was 44.2% (AMPL) and 40.4% (AMTDT) respec tively. On the other hand, among 245 patients with sputum AMPL positive results during the 3 years, 8 were smear-negative culture-negative (SNCN), only one out of these 8 cases was judged as true active tuberculosis without treatment. Among 89 patients with sputum AMTDT positive results, 7 were SNCN, and 3 out of them were judged as true active tuberculosis without treatment.Conclusion: Usefulness of commercial NAAT kits (AMPL and AMTDT) to diagnosis SN pulmonary tuberculosis is limited in the point of sensitivity.
著者
大森 正子 和田 雅子 西井 研治 中園 智昭 増山 英則 吉山 崇 稲葉 恵子 伊藤 邦彦 内村 和広 三枝 美穂子 御手洗 聡 木村 もりよ 下内 昭
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.647-658, 2002-10-15
参考文献数
15
被引用文献数
4

検診成績を利用し中高年齢者の結核発病予防の方法論と実行可能性を検討した。対象は50~79歳男女, 胸部X線で1年以上変化のない陳旧性結核に合致する陰影があった者 (440名) のうち, 住所の提供, 研究への同意, 事前の諸検査で問題のなかった29名となった。治験対象者を無作為に6カ月のINH服薬群 (14名), 経過観察のみの非服薬群 (15名) に分けた。服薬中副反応を訴えた者は6名 (42.9%), うち治療開始後2週以内に胃腸症状を訴えた2名 (14.3%) は肝酵素値に異常はみられなかったが服薬を中止した。副反応を訴えなかった者でも2名に肝酵素の上昇が認められた。その異常は服薬開始2カ月後から出現し, 長く継続した者でも服薬終了後には正常値に戻った。これまで追跡不能は3名, 1名は服薬終了時X線上活動性結核と診断, 1名は8カ月目に乳癌が再発, 1名は2.5年目に肺腺癌と診断。この他4例で陰影拡大が疑われたが結核発病は確認されていない。副反応, 偶然の事故等がかなり高率であり, 本事業を集団的に推進するには, 副作用の頻度とそれを上回る有効性を確認するより大規模な調査が必要である。それまでは個別の臨床ベースでの実施で対応し, 高齢者対策としては早期発見・治療に重点を置くべきだろう。
著者
鹿住 祐子 板垣 信則 大森 正子 和田 雅子 星野 斉之 御手洗 聡 菅原 勇 石川 信克 森 亨
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.82, no.12, pp.891-896, 2007-12-15
参考文献数
16
被引用文献数
3

〔目的〕平成12年度(2000年)結核緊急実態調査時の慢性排菌患者におけるMDR-TBとXDRTBの頻度を調べる。〔対象および方法〕平成12年度結核緊急実態調査時の慢性排菌者1234例における結核菌434株を用いて薬剤感受性試験(小川培地使用の比率法,MGIT法,プロスミックNTM)を行い,MDR-TBとXDR-TBを決定した。被検株の条件は,1999年末現在保健所に登録されている結核患者のうち1999年の1年間に菌陽性であり,1998年1月1日以前に登録された患者とした。少なくとも登録されてから2年以上経過し,培養陽性だった患者である。〔結果・考察〕薬剤感受性試験が実施された434株のうちINHとRFPに耐性でMDR-TBと判定された株は321株(74.0%),そのうちの180株(56.1%)がLVFX耐性,かつ,KMあるいはAMKのどちらか(または両方)に耐性のXDR-TBであった。MDR-TB321名のうち,初回登録患者が165名,再登録患者は143名,不明が13名であった。XDR-TB180名の内訳は初回登録患者が95名,再登録患者は78名,不明は7名であった。初回登録患者では1990年代がMDR-TB94名(57.0%)とXDR-TB49名(51.6%)ともに半数以上をしめ,再登録患者では1960年代と70年代がMDR-TB62名(43.4%)とXDR-TB41名(52.6%)であった。日本で使用の少ないAMKの耐性頻度が高率だったのはAMKの使用によるものかSM・KMの交差耐性か解明できなかったが交差耐性を否定できない。
著者
大森 正子 和田 雅子 内村 和広 西井 研治 白井 義修 青木 正和
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.329-339, 2002-04-15
参考文献数
39
被引用文献数
4

25歳以上の成人の60.3%, 人数にして5, 400万人が毎年定期の集団検診 (結核検診) を受診していると推計された。しかしながら定期集団検診による結核患者発見率は著しく低下し, 1998年には学校健診で受診者1, 000人対0.03, 職場健診で0.06, 住民健診で0.16までになった。ただし新登録中定期健診発見割合は過去10年ほぼ一定で, 1998年は12.8%であった。年齢別では20~30歳代で定期健診発見割合が大きく25.7%であり, 多くは職場健診からの発見であった。なお検診発見患者で排菌が確認されたのは35.1%であったが, この割合は高齢者でより大きかった。<BR>結核予防会で実施した40歳以上の住民健診成績から1名の結核患者の発見に要するコストは, 全体で440万円, 男で230万円, 女で840万円, 40歳代で730万円, 80歳以上では180万円と試算された。また罹患率人口10万対30の地域では400万円, 罹患率20では670万円と推計された。結核患者を2ヵ月入院, 4ヵ月外来で治療した場合, 治療費は約90万円と見積もられているので, 60歳未満の一般住民や罹患率50未満の地域では, 経費・効果の点で現行の結核検診は必ずしも効果的とは言いがたくなっている。しかしながら定期の結核検診のあり方については発見率やコストの他に発見患者の特性, 公共保健サービス, 国民の意思等も含めて検討する必要があるだろう。