著者
山口 覚 喜多 祐子
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-26, 2014 (Released:2021-05-15)

専門家の系図学 (genealogy) とともに、一般の人々による先祖調査 (popular genealogy) が世界中で実施されている。欧米諸国では先祖調査ブームと言い得る状況が長期的に見受けられ、アレックス・ヘイリーの『ルーツ』(1976年)はその象徴となる。日本でも先祖調査の「静かなブーム」が確認されるが、先祖調査の展開について整理されたことはこれまでほとんどなかった。本稿の課題は日本における先祖調査の展開を整理することにある。日本では『ルーツ』とはほとんど無関係に、1970年代には先祖調査ブームが生じていた。2000年代以降でも関連する様々な動きが見出される。先祖調査はいわゆる家意識と結びつく面もあるが、実際にははるかに多様な実践となっている。たとえば、近親者を中心としたパーソナルな家族史 (family history) への志向があり、他方ではテクノロジーの進化や情報整理の進展によって巨大な家系図の作成も可能となりつつある。先祖の故地や自身の苗字と同じ地名をめぐる先祖ツーリズムも珍しくない。先祖調査は趣味としての側面を強めているのである。