著者
四方 理人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.29-47, 2017-06-05 (Released:2019-08-30)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿では,社会保険の問題点について,社会保険料と税負担に関する実証研究から検討する。具体的には,税及び各種社会保険料負担の所得に対する累進性とそれぞれの負担が近年の所得格差の変化にどのように影響を与えてきたかを検証し,次に,国民年金の未納について考察を行った。主な分析結果は,日本の社会保険料負担は,所得に対してほぼフラットな負担となっており,医療費の自己負担まで含めると逆進的な負担となっていた。しかしながら,近年,所得格差が拡大するなかで,社会保険料負担の増加は可処分所得の格差をむしろ縮小させていた。また,保険料未納問題に関して,低所得の無業と被用者では免除制度が機能している一方,所得が高くなっても納付率の変化は小さかった。最後に,雇用の非正規化による低所得の被用者が増加することで,本来の社会保険の機能がより重要となるため,被用者保険の適用拡大をより一層押し進めることを提案する。
著者
山田 篤裕 四方 理人 田中 聡一郎 駒村 康平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.127-139, 2012-01-20 (Released:2018-02-01)

本稿ではインターネット調査に基づき,主観的最低生活費の検討を行った。その目的は三つある。第一は一般市民が想定する最低生活費を計測することである。第二は主観的最低生活費が,尋ね方によりどれほど幅のある概念なのか,ということを確認することである。第三は生活保護制度と比較し,計測された主観的最低生活費がどのような特徴を持っているか把握することである。その結果,生活保護基準額は,単身世帯を除きK調査(切り詰めるだけ切り詰めて最低限いくら必要か質問)とT調査(つつましいながらも人前で恥ずかしくない社会生活をおくるためにいくら必要か質問)の主観的最低生活費(中央値)の間に位置すること,単身世帯では生活保護基準はT・K両調査を下回る水準となっていること,世帯所得が1%上昇しても主観的最低生活費は0.2%しか上昇しないこと,主観的最低生活費の等価尺度は小さい(=世帯に働く規模の経済性を大きく見積もる)こと,等を明らかにした。
著者
岩永 理恵 四方 理人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.101-113, 2013-12-30

本稿は,無料低額宿泊所(無低)等をめぐる問題の背景を読み解きながら,無低に入所する生活保護受給者の実態と必要な支援を,埼玉県の「生活保護受給者チャレンジ支援事業」(アスポート)利用者データを通して明らかにすることが目的である。住宅支援事業の背景には,路上生活者の増加や生活保護運用上の変化,無低等の社会問題化がある。このことを踏まえ,無低利用者を含む住居喪失者や住居不安定者に対する支援体制構築を試みた点にアスポートの特徴がある。分析により,無低入所のまま保護を受けている期間が長くなると,アパート等に転居するまでの日数がかかり,転居支援が困難になると推察された。無低問題や生活保護法の原理に鑑みて,そもそも無低に入らなければならなかったのかを問う必要があり,住宅支援事業により生活保護受給者が無低を経由せず居宅移行可能になることの意義は大きいと考える。