著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009-02-28 (Released:2018-07-20)

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
岩田 正美 岩永 理恵
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.61-70, 2012-06-10 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

1990年代以降,諸外国で再び,最低生活費算定が注目されはじめた。日本でも最近,新たな最低生活費研究の動きがみられる。この状況下でわれわれは,一般市民の参加と合意を重視した方法=MIS法により最低生活費を試算した。小論では,MIS法による最低生活費と,近年日本で実施された他の手法による最低生活費試算結果,および生活保護基準とを比較した。他の試算結果より,MISは,やや高めである。もちろん金額の違いは,最低生活費算定の手法の差異を反映している。MIS法最大の特徴は,市民のグループ・ディスカッションを通じて,一種の「コモンセンス」を引き出し,最低限度の裁定を市民に任せることにある。われわれのMISの可能性を追求し,「コモンセンス」を探る試みは道半ばである。さらに最低生活の内容やあり方を探る研究の蓄積が求められる。
著者
岩田 正美 杉村 宏 岡部 卓 村上 英吾 圷 洋一 松本 一郎 岩永 理恵 鳥山 まどか
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は1)貧困の概念と最低生活費研究を理論的に整理し、2)現代の代表的な低所得層の家計調査からその生活実態を把握し、3)家計の抵抗点による最低生活費の試算と生活保護基準との比較を行った。この結果、1)最低生活費は複数のアプローチで確かめられる必要がある。2)単身者の生活費は、生活基盤費が固定費であり、その他の経費の高低で消費水準が決まる。3)その他の消費水準の抵抗点を利用して最低生活費を試算すると167,224円であった。生活保護基準と比較すると、約2万円強高くなることが分かった。
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
岩永 理恵 四方 理人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.101-113, 2013-12-30

本稿は,無料低額宿泊所(無低)等をめぐる問題の背景を読み解きながら,無低に入所する生活保護受給者の実態と必要な支援を,埼玉県の「生活保護受給者チャレンジ支援事業」(アスポート)利用者データを通して明らかにすることが目的である。住宅支援事業の背景には,路上生活者の増加や生活保護運用上の変化,無低等の社会問題化がある。このことを踏まえ,無低利用者を含む住居喪失者や住居不安定者に対する支援体制構築を試みた点にアスポートの特徴がある。分析により,無低入所のまま保護を受けている期間が長くなると,アパート等に転居するまでの日数がかかり,転居支援が困難になると推察された。無低問題や生活保護法の原理に鑑みて,そもそも無低に入らなければならなかったのかを問う必要があり,住宅支援事業により生活保護受給者が無低を経由せず居宅移行可能になることの意義は大きいと考える。
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-39, 2005-07-31

生活保護制度は,「生活困窮者」救済を実現する施策のひとつである.ただし制度の実質的な対象と方法は,行政運営によって決められる.たとえば実際の対象は,ある範囲の保護基準から算出した最低生活費と収入認定額の差から判断されることになっている.本稿は,この安否判定の方法がつくられる経過をたどり,「生活困窮者」選別のしくみを検討するものである.分析では,厚生省が実務担当者に与える「指針」に焦点があてられ,その「指針」をたどる主な資料として雑誌『生活と福祉』が用いられる.結果として,「生活困窮者」を選別するしくみが徐々につくられ,修正が施されつつ維持されてきたようすが実証的に明らかにされた.さらに制度運用上の矛盾を踏まえると,今後,法の運用方法の決定のみでなく,その立案,形成,実施の各場面を含む政策過程を分析する必要が考えられた.