著者
岡本 翔平 駒村 康平 田辺 解 横山 典子 塚尾 晶子 千々木 祥子 久野 譜也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.412-421, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2

目的 近年,生活習慣改善のためにインセンティブを付与することが注目されているが,その効果に関するエビデンスは十分ではない。そこで,本研究では,参加者が報奨獲得に抱く動機が,プログラムの継続率に影響を与えるかを検証する。方法 東北地方,中部地方,関東地方,近畿地方,中国地方の6つの自治体において40歳以上の住民を対象としたインセンティブ付き健康づくり事業(健幸ポイントプロジェクト)の参加者7,622人のうち,必要な調査項目に欠損のない4,291人を分析対象とした。健幸ポイントプロジェクトの継続は,日々の歩数の計測と指定の運動教室への参加を基に判断した。また,運動等の結果得られる報奨の現金性が高いかどうかの判定には,参加者がその報奨を選択した理由を用い,生存時間分析により,脱落のハザード比を推計した。さらに,健幸ポイントプロジェクト参加前の身体活動状況,喫煙・飲酒状況や食事への配慮等を調整した上でも解析を行い,どのような特性を持つ参加者が脱落しやすいかについても検討を行った。結果 多変量解析の結果により,報奨の選択理由として「地域貢献」を選択した場合,「現金に近い・近くのお店で使用可能」を参照基準とした脱落のハザード比は,男性では1.63(95% CI:1.18-2.25),女性では1.40(95% CI:1.08-1.81)となった。さらに,脱落確率に対して,参加前の運動実施状況,喫煙状況,男性では就業状況,女性では身体の衰えの影響が認められた。結論 本研究により,健康づくり事業参加者において,地域貢献のような内発的動機よりも現金性を実感できるような報奨が継続確率を高めることが示唆された。また,継続率をより高めるには,インセンティブ付与のみならず,もともとの身体活動状況等に応じて運動を継続できる工夫が必要であることも明らかになった。
著者
山田 篤裕 四方 理人 田中 聡一郎 駒村 康平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.127-139, 2012-01-20 (Released:2018-02-01)

本稿ではインターネット調査に基づき,主観的最低生活費の検討を行った。その目的は三つある。第一は一般市民が想定する最低生活費を計測することである。第二は主観的最低生活費が,尋ね方によりどれほど幅のある概念なのか,ということを確認することである。第三は生活保護制度と比較し,計測された主観的最低生活費がどのような特徴を持っているか把握することである。その結果,生活保護基準額は,単身世帯を除きK調査(切り詰めるだけ切り詰めて最低限いくら必要か質問)とT調査(つつましいながらも人前で恥ずかしくない社会生活をおくるためにいくら必要か質問)の主観的最低生活費(中央値)の間に位置すること,単身世帯では生活保護基準はT・K両調査を下回る水準となっていること,世帯所得が1%上昇しても主観的最低生活費は0.2%しか上昇しないこと,主観的最低生活費の等価尺度は小さい(=世帯に働く規模の経済性を大きく見積もる)こと,等を明らかにした。
著者
丸山 桂 駒村 康平
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.537(31)-568(62), 2012-01

小特集 : 年金制度の実証研究 : 根拠に基づく政策論本論文では, 各国の年金制度における自営業の取り扱いについて展望し, 独自の個票データを使って自営業者の保険料の納付行動の分析を行った。この結果, 自営業に対する保険料の強制徴収を強め, 負担能力に応じた保険料の仕組みの導入が必要であることが確認できた。このことから, ただちにすべての自営業者を被用者と全く同じ所得比例年金と最低保障年金の仕組みに組み入れるべきとは結論づけられないが, 諸外国でも工夫している年金制度における自営業者への対応を参考に多くの改善点が必要である。This study considers the handling of self-employed workers in national pension systems of each country, using our own individual data to analyze the behavior of contribution payments of insurance premiums by self-employed workers.As a result, we confirm that it is necessary to strengthen the compulsory collection of insurance premiums from self-employed workers and introduce an insurance premium framework in accordance with their payment capacity. From this, although we cannot conclude that all self-employed workers shall be immediately included in the same income-proportionate pension and minimum-security pension schemes of other employees, examining the measures toward self-employed workers in pension systems devised in other countries, numerous improvements are necessary.
著者
上村 一樹 駒村 康平
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-14, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

近年、さまざまな企業が被用者の健康増進に力を入れるようになっている。企業が被用者の健康増進を図る第一義的な目的は、医療費の低下を通じた後期高齢者支援金の減算にあると考えられる。しかしながら、被用者の健康増進が労働生産性を向上させるならば、被用者の健康増進は、経済全体の生産性にも好影響をもたらすことにもなり、政府が健康増進への財政支援を行う意義も出てくる。 今後の健康増進政策のあり方を考えるためにも、健康増進と労働生産性の関係性を実証分析によって明らかにすることは重要であるが、わが国においては、そうした分析が不足している。そこで、本稿では、労働生産性の代表的な指標である賃金に焦点を被説明変数として、「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」を用いて、さまざまなバイアスをできる限り取り除いた上で、健康増進が労働生産性に与える影響について実証分析を行った。 その結果、男性については、健康増進が賃金を高めることがわかった。一方、女性については、そのような効果が確認されなかった。本稿の結果から、対象は限定されるものの、被用者の健康増進は、医療費抑制にとどまらず、労働生産性向上にもつながると考えられる。