著者
藤盛 啓成 大内 憲明 里見 進 土井 秀之 宮田 剛 関口 悟 大貫 幸二 宮崎 修吉
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

マジュロにて2006年2月20日〜3月22日の期間、自発的に受診希望した者1386名(女性888名、男性498名、平均年齢50.9±12.34才)を対象に問診、エコー検査を行い、結節性病変275名に細胞診を行った。全検診者中608名に検診既往があり、386名がBRAVO cohort、ブラボー事件時0〜5歳であった者は322名であった。全検診者中、エコーで悪性疑い36名2.6%であり、細胞診でPTC or PTC疑いが10名0.72%であった。目的とした対象(BRAVO cohort中ブラボー事件時0〜5歳)では4名1.2%であり、設定したcohort 1055名でみると、その時点で甲状腺癌と診断された9名を除いた1046名中4名(男1、女3)0.38%(3.82人/年/1万人)が甲状腺癌を新たに発症したと考えられた。甲状腺機能、抗体検査では採血した1186名中1153名で検査結果が得られた。以前の結果と異なり、甲状腺自己抗体陽性率は20%程度で特に低くはないと思われた。マーシャル諸島政府が保管するデータベースから、以前の検診者7162中の死亡者数、死亡原因を調査した。3714名のBRAVO cohort、のうち2003年12月31日までの死亡者は642名、死亡時平均年齢63.9才であった。BRAVO cohort中癌死は107名で、最も多かったのは肺癌(男23、女性9)であった。死亡時平均年齢は男性、女性それぞれ62.8才、71.2才であった。男性の死亡診断書には全員heavy smokerの記載があった。BRAVO cohort中乳癌の死亡例は、6名であった。甲状腺癌の死亡例は2名であった。その他、消化管、肝臓、膵臓、子宮の癌死が多かった。癌死以外の死亡は392名であった。肝硬変・肝不全、肺炎・肺気腫の呼吸不全、循環器障害、脳血管障害、腎不全、糖尿病・下肢壊疽・敗血症、自殺・事故が主なものであった。以上より、マーシャル諸島における癌発生、死亡の実態が把握され、BRAVO cohort中0-5才の間に被曝した集団のデータベースが完成した。肺癌については喫煙の影響が大きく、被曝の影響は少ない可能性が示唆された。今後このデータベースを基に解析を進め、甲状腺癌の発生と被曝の関係を明らかにすることが可能となった。
著者
西平 哲郎 SIMON S.L. TROTT K.R. 田口 喜雄 木村 伯子 土井 秀之 黒川 良望 藤盛 啓成 標葉 隆三郎 里見 進
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1、調査・研究経過:1993年1月より1994年8月までにクワジャレイン環礁イ-バイ島(1993年1-3月)、マジュロ環礁(1994年3-8月)においてマーシャル諸島住民計6638人全員に超音波断層撮影装置による甲状腺スクリーニング検査を行い、触診で触知する甲状腺結節に対して21あるいは22G針による穿刺吸引細胞診を行った。これらの受診者に対して検診と同時に家族歴、生活歴、食習慣の詳細な聞き取り調査を行った。1959年以前の出生者、すなわち核実験による直接被曝の可能性のあった者は対象者中5016人であり、これは同年齢層のマーシャル諸島住民の約60%に相当した。マジュロ環礁においては2102人に甲状腺機能検査、3008人に自己抗体検査、310人に尿中ヨード測定を実施した。1995年度はこれらの結果のデータベース入力作業を行った。調査としてはイ-バイ島住民306人の追跡調査による甲状腺結節の経時的変化の検討と、1994年マジュロ検診で甲状腺癌が疑われた55人中31人の手術標本を入手し、平成8年3月現在、臨床病理学的検討を行っている。データベースの誤入力の訂正作業がまだ終了しておらず以下の結果は暫定的なものである。また、生活歴と現在の放射能汚染状況および過去の汚染データから推定予定であった住民の推定被曝線量については共同研究者のサイモン博士がマーシャル諸島共和国政府より同国の研究所より解雇されたため、本年は進展できなかった。2、結果:被曝の可能性があった住民(1959年以前に出生)女性の超音波診断では甲状腺結節有病者は受診者の44%であった。穿刺吸引細胞診は648人に施行し、診断率は70%で甲状腺癌の診断となったものは21人であった。触診所見、超音波診断をも考慮して臨床的には77人、1.2%に甲状腺癌が疑われた。これら癌の疑われた受診者の中、手術を受けたイ-バイ島住民12例(他施設病理診断を含む)では、乳頭癌6例、濾胞癌3例、微小乳頭癌2例であった。甲状腺機能検査では10人0.5%がTSH 5.1μU/ml以上の化学的甲状腺機能低下であった。甲状腺自己抗体検査ではTGHAあるいはMCHAのどちらかが陽性であったものは67人2.2%であった。尿中ヨード排泄量の測定では尿中ヨード/クレアチニン比で検討すると22%がWHO基準で中等度あるいは強度のヨード欠乏という結果であった。3、まとめ:超音波診断で甲状腺有結節者とされた女性の年齢別頻度は、年齢とともに増加しており、同様の方法で我々が調査した中国のデータと比較すると、ヨード欠乏地帯よりは低頻度であり、また非ヨード欠乏地帯よりは高頻度であった。甲状腺癌の頻度についてはイ-バイ島の結果から30才以上の女性で約2%と推定され、文献的には甲状腺結節性病変および甲状腺癌の有病率はマーシャル諸島住民で高率である。しかし、切除標本では濾胞癌の頻度が比較的高く(3例/12例)、放射線被曝を原因とするには従来の見解と矛盾すること。また、尿中ヨード排泄の結果からは、住民がヨード欠乏状態にある可能性がうかびあがり、放射線被曝以外の要因も考慮しなければならない結果となった。この研究はマーシャル諸島住民の個々の推定被曝線量と甲状腺結節病変の頻度との間の相関性を求め、それから被曝との因果関係を推定しようとするものである。平成8年度は協同研究者のトロット教授がサイモン博士に代わって被曝線量の推定を行うことになっており、結論を得るためにはその結果をまたなければならない。4、今後の予定:甲状腺疾患の疫学的調査、追跡調査を引き続き行うが、特に、対象住民の居住地域の偏りを少なくするためにouter atollと呼ばれる、マーシャル諸島辺縁の島々の住民を重点的に行う予定である。また、放射線被曝量との関係を検討するとともに、ヨード摂取量と結節性甲状腺腫との発生頻度との関係について検討する。さらに、切除標本をもとにマーシャル諸島住民の甲状腺癌の遺伝子異常の特徴を解明し、被曝との因果関係について検討を行う。