著者
西平 哲郎 SIMON S.L. TROTT K.R. 田口 喜雄 木村 伯子 土井 秀之 黒川 良望 藤盛 啓成 標葉 隆三郎 里見 進
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1、調査・研究経過:1993年1月より1994年8月までにクワジャレイン環礁イ-バイ島(1993年1-3月)、マジュロ環礁(1994年3-8月)においてマーシャル諸島住民計6638人全員に超音波断層撮影装置による甲状腺スクリーニング検査を行い、触診で触知する甲状腺結節に対して21あるいは22G針による穿刺吸引細胞診を行った。これらの受診者に対して検診と同時に家族歴、生活歴、食習慣の詳細な聞き取り調査を行った。1959年以前の出生者、すなわち核実験による直接被曝の可能性のあった者は対象者中5016人であり、これは同年齢層のマーシャル諸島住民の約60%に相当した。マジュロ環礁においては2102人に甲状腺機能検査、3008人に自己抗体検査、310人に尿中ヨード測定を実施した。1995年度はこれらの結果のデータベース入力作業を行った。調査としてはイ-バイ島住民306人の追跡調査による甲状腺結節の経時的変化の検討と、1994年マジュロ検診で甲状腺癌が疑われた55人中31人の手術標本を入手し、平成8年3月現在、臨床病理学的検討を行っている。データベースの誤入力の訂正作業がまだ終了しておらず以下の結果は暫定的なものである。また、生活歴と現在の放射能汚染状況および過去の汚染データから推定予定であった住民の推定被曝線量については共同研究者のサイモン博士がマーシャル諸島共和国政府より同国の研究所より解雇されたため、本年は進展できなかった。2、結果:被曝の可能性があった住民(1959年以前に出生)女性の超音波診断では甲状腺結節有病者は受診者の44%であった。穿刺吸引細胞診は648人に施行し、診断率は70%で甲状腺癌の診断となったものは21人であった。触診所見、超音波診断をも考慮して臨床的には77人、1.2%に甲状腺癌が疑われた。これら癌の疑われた受診者の中、手術を受けたイ-バイ島住民12例(他施設病理診断を含む)では、乳頭癌6例、濾胞癌3例、微小乳頭癌2例であった。甲状腺機能検査では10人0.5%がTSH 5.1μU/ml以上の化学的甲状腺機能低下であった。甲状腺自己抗体検査ではTGHAあるいはMCHAのどちらかが陽性であったものは67人2.2%であった。尿中ヨード排泄量の測定では尿中ヨード/クレアチニン比で検討すると22%がWHO基準で中等度あるいは強度のヨード欠乏という結果であった。3、まとめ:超音波診断で甲状腺有結節者とされた女性の年齢別頻度は、年齢とともに増加しており、同様の方法で我々が調査した中国のデータと比較すると、ヨード欠乏地帯よりは低頻度であり、また非ヨード欠乏地帯よりは高頻度であった。甲状腺癌の頻度についてはイ-バイ島の結果から30才以上の女性で約2%と推定され、文献的には甲状腺結節性病変および甲状腺癌の有病率はマーシャル諸島住民で高率である。しかし、切除標本では濾胞癌の頻度が比較的高く(3例/12例)、放射線被曝を原因とするには従来の見解と矛盾すること。また、尿中ヨード排泄の結果からは、住民がヨード欠乏状態にある可能性がうかびあがり、放射線被曝以外の要因も考慮しなければならない結果となった。この研究はマーシャル諸島住民の個々の推定被曝線量と甲状腺結節病変の頻度との間の相関性を求め、それから被曝との因果関係を推定しようとするものである。平成8年度は協同研究者のトロット教授がサイモン博士に代わって被曝線量の推定を行うことになっており、結論を得るためにはその結果をまたなければならない。4、今後の予定:甲状腺疾患の疫学的調査、追跡調査を引き続き行うが、特に、対象住民の居住地域の偏りを少なくするためにouter atollと呼ばれる、マーシャル諸島辺縁の島々の住民を重点的に行う予定である。また、放射線被曝量との関係を検討するとともに、ヨード摂取量と結節性甲状腺腫との発生頻度との関係について検討する。さらに、切除標本をもとにマーシャル諸島住民の甲状腺癌の遺伝子異常の特徴を解明し、被曝との因果関係について検討を行う。
著者
丸井 英二 JOHNSTON Wil 李 誠國 SOMーARCH Won YAP Sue Pin 田口 喜雄 田畑 佳則 関 道子 遠藤 誉 米山 道男 大東 祥孝 WILLIAM Johnston SUNGKUK Lee SOMARCH Wongkhonton 山中 玲子
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究は留学生にかかわる問題のなかで、長期的な波及効果としての留学生の帰国後に焦点をあてて行われた。その背景として、「留学生10万人政策」に由来する近年の留学生数の著しい増加がある。もちろん、現在わが国に滞在する留学生についての各種支援が必要とされていることは言うまでもない。しかし、こうした現状の延長上にある今後の問題点を考慮すると、帰国後の留学生の生活について研究を行っておくことが必要な時期となっている。その場合、帰国してからの国内的、国際的役割を継続的に把握していくことが必要である。留学生の帰国後に描くことのできる明るい展望がなければ、国内における留学生指導も実効性をもつことがなく、留学生も日本への期待をもつことができなくなり、将来的にわが国への留学そのものを希望しなくなるであろう。今後の健全な留学生政策のためにも帰国後の留学生についての研究が必要とされてきている。本研究では国立大学の留学生センターの留学生指導担当教官が中心となり、留学生の帰国後の社会的活動の動向の量的、質的に把握するための調査を行った。わが国への留学の意義を現地の視点でとらえなおし、さらに今後のわが国との関係をいかに維持していくかについて現時点で研究した。対象国はタイ、マレーシア、インドネシア、韓国であったが、初年度のみ台湾を加えた。研究の実施過程は1)現地での調査研究、2)国内での修了留学生の名簿作成のためのデータベース構築、3)研究ワークショップの開催とに分けることができる。初年度は主として現地での調査研究に焦点を絞った。研究分担者6名が共同研究者のいる対象国における実状を把握するために、アジア地域を中心に担当国を複数ずつ訪問し予備的調査を行った。現地では研究協力者との個別会議を開催し、必要に応じて帰国留学生との面接を行い、現状把握を行った。こうした一連のプロセスにより日本側研究者の現地事情に関する認識を極めて高いものとなった。また、現在では過去に多くの留学生が卒業あるいは修了しているにもかかわらず、なお多くの卒業生の現状が大学で把握できていないことが判明してきた。そのために第2年度には、国内での作業として卒業・修了留学生のデータベース構築のための研究会を開催した。個々の大学の事情に応じて若干の差はあるものの、共通のデータ形式を統一し、入力作業を開始した。すでにいくつかの国では帰国留学生会が設立されているが、そのメンバーは帰国したのちに自らの日本留学を是認し評価している人々が中心となって形成されている。こうした組織に日本留学に批判的な人々が加わっている可能性は小さい。したがって、本来的な母集団としての日本の卒業・修了留学生から出発して追跡することが評価のためのもっとも公平な方法である。現在のところ、データベースの構築は留学生センターの設置されている国立大学の一部から開始されているに過ぎないが、今後はその範囲を拡大していくことにより、留学生が大学から離れた後の動向を把握することが可能となる。今回の3年間の研究では主として帰国後の留学生を対象としたが、われわれのこうしたデータベースを利用することによって、母国に帰国しない人々についても追跡していくことができるという大きな意義が生まれることになる。さらに、第3年度である平成7年9月には、タイのマヒドン大学においてタイ、マレーシア、韓国からかつての日本留学生で現在は本国で活躍している人々を招待し、日本側研究者と合同でのセミナーを開催した。ここでは過去の留学生が日本でどのような経験をしたか、現在何をしているか、現在の日本との関係、さらに現地から日本をどのように見ているかなどについて一日半にわたって討議を続けることができた。3年間の研究期間に参加した留学生センターの日本側研究者ならびに現地の分担研究者にとっては相互理解の基盤を確立し、その上で帰国留学生に関する研究を行うことができたという点で充実した期間であった。また、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国で研究協力者として多くの帰国留学生が参加することができた点も高く評価したい。本研究は単に限定された学術的研究にとどまらず、留学生を媒介とした共同研究の萌芽を各研究者レベルで作り出してきた。今後、この留学生問題に関する分野での多くの研究者によるさらなる研究に期待したい。