著者
土肥 いつき
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.47-66, 2015-11-27 (Released:2017-03-07)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

本稿の目的は,トランスジェンダー生徒の性別違和を学校文化の中にあるジェンダーとの関係から分析することである。学校がおこなう「性別に基づく扱いの差異」は,生徒たちをふたつの性別カテゴリーに分化した結果なされるだけでなく,ふたつの性別カテゴリーに分化するためにもなされており,これを「性別分化」とした。トランスジェンダー生徒は「学校による性別分化」と「自らありたい性」との間で「ジェンダー葛藤」を起こしている存在とした。 分析の結果明らかになったことは次の3点である。(1)性別分化は発達段階に応じてなされ,その過程はトランスジェンダー生徒のジェンダー葛藤を強める。(2)強いジェンダー葛藤の状態に置かれたトランスジェンダー生徒は「カテゴリー語の獲得」「ロールモデルとの出会い」を通して,ジェンダー葛藤の解決の方法として「カミングアウト」を見つける。(3)ジェンダー葛藤軽減の要素として「要求発見の可能性」「要求実現へ向けた課題の発見」「変容する他者の存在」の3つが抽出できた。 以上のことから,トランスジェンダー生徒の支援は,学校の性別分化の過程で強められたジェンダー葛藤を軽減することであることが明らかになった。これは同時に,トランスジェンダー生徒は学校の性別分化そのものを問う存在であることを意味し,ジェンダー葛藤軽減のためには学校自身が自らを問い直し変容することの必要性が明らかになった。
著者
土肥 いつき
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.109-127, 2019 (Released:2020-11-13)
参考文献数
15

本稿の目的は,日常生活場面におけるトランスジェンダー(以下,TG)の性別変更をめぐる実践の過程を明らかにすることである.これまでのTG 研究は,TG に焦点化し,性別違和や自己認識などを明らかにしてきた.それに対して本稿は,TG の性別変更はTG の実践と他者の承認によって成立すると考え,後に法的に性別変更したTG の学校経験の語りを通して,外見や振る舞いを変えたときの教室内の所属グループや他者からの性別の扱いの変化を分析した.その結果,以下のことが明らかになった.第1 に,TG がおこなう外見や振る舞いを変える実践は,性別の位置どり(教室内の他の女子/男子との距離)を変える行為であるということ.第2 に,性別の位置どりの変化に対する他者の承認のもと,TG による性別の境界線の越境や再設定により,他者からの性別の扱いが変化すること.第3 に,教室内に働く出生時に割り当てられた性別へと水路づける強制力が,性別カテゴリー内の位置どりの自由度だけでなく,性別カテゴリーと出生時に割り当てられた性別の結びつきや性別カテゴリー間の境界線の自由度にも影響を与えていたこと.以上のことから,日常生活場面における性別変更は,TG が他者との相対的な性別の位置どりを変えるとともに,性別カテゴリーの境界線の越境や再設定を他者から承認されることを反復するという相互作用の中で成立する行為であることが明らかになった.