著者
坪井 貴司 原田 一貴 中村 匠 大須賀 佑里
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.226-229, 2022 (Released:2022-07-16)
参考文献数
13

小腸上皮内に存在する小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1: GLP-1)は,インスリン分泌を促進し,食欲を抑制する.このGLP-1分泌は,消化管管腔内の様々な物質や血中に含まれる神経伝達物質やホルモン,さらには腸内細菌叢が産生する様々な代謝物などによって制御されているが,その詳細な制御機構は不明である.そこで本稿では,特にアミノ酸や腸内細菌代謝物などがGLP-1分泌に及ぼす影響について紹介する.
著者
坪井 貴司
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度に引き続き、認知症や自閉症との関連が指摘されている腸内細菌代謝産物30種類について、生細胞イメージングスクリーニングとELISAスクリーニングによって消化管ホルモン、特にグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を引き起こす腸内細菌代謝産物の同定を試みた。本年度は、GLP-1分泌を強力に誘発したL-グルタミンについて、そのGLP-1分泌促進機構について解析を行った。まず、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株(以下、L細胞)を用いて、L-グルタミンによる細胞内カルシウムおよびcAMP濃度上昇機構について可視化解析した。細胞外のNa+濃度を低下させ、L細胞のナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による細胞内カルシウム濃度上昇は、抑制された。一方、cAMP濃度上昇は、観察された。次に、味覚受容体であるtaste receptor type 1 member 3(T1R3)の阻害剤投与によって、細胞内カルシウム濃度上昇は抑制されなかったが、細胞内cAMP濃度上昇は抑制された。次に、CRISPR/Cas9を用いて、T1R3とそれとヘテロ二量体を形成するT1R1の変異GLUTag細胞を樹立した。T1R1変異GLUTag細胞は、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇を示した。しかし、一部のT1R3変異GLUTag細胞株では、細胞内cAMP濃度上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、T1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。