昨年度に引き続き、認知症や自閉症との関連が指摘されている腸内細菌代謝産物30種類について、生細胞イメージングスクリーニングとELISAスクリーニングによって消化管ホルモン、特にグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を引き起こす腸内細菌代謝産物の同定を試みた。本年度は、GLP-1分泌を強力に誘発したL-グルタミンについて、そのGLP-1分泌促進機構について解析を行った。まず、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株(以下、L細胞)を用いて、L-グルタミンによる細胞内カルシウムおよびcAMP濃度上昇機構について可視化解析した。細胞外のNa+濃度を低下させ、L細胞のナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による細胞内カルシウム濃度上昇は、抑制された。一方、cAMP濃度上昇は、観察された。次に、味覚受容体であるtaste receptor type 1 member 3(T1R3)の阻害剤投与によって、細胞内カルシウム濃度上昇は抑制されなかったが、細胞内cAMP濃度上昇は抑制された。次に、CRISPR/Cas9を用いて、T1R3とそれとヘテロ二量体を形成するT1R1の変異GLUTag細胞を樹立した。T1R1変異GLUTag細胞は、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇を示した。しかし、一部のT1R3変異GLUTag細胞株では、細胞内cAMP濃度上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、T1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。