- 著者
-
堀田 文郎
松尾 哲矢
- 出版者
- 一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
- 雑誌
- 日本体育・スポーツ・健康学会予稿集 第71回(2021) (ISSN:24367257)
- 巻号頁・発行日
- pp.246, 2021 (Released:2021-12-28)
彫刻のような肉体を作り上げ、ポーズを取って競い合う「ボディビル競技」、この競技は以前より、薬物問題等の問題を抱えてきた。例えばWADA(2020)によると、2019年のボディビル競技における陽性サンプルの割合は20%と非常に高かった。また、プロボディビルダーの間では薬物が公然の秘密とされているとの指摘もある(増田 2000)。以上を踏まえると、ボディビル競技には薬物使用までは至らずとも、競技に強くのめり込む競技者が数多く存在すると考えられる。ボディビル競技者はなぜ、多大な犠牲や健康的なリスクを負ってまで競技にのめり込むのだろうか。 国内のボディビル競技に関する先行研究は、競技方法に関する研究や生理学的な研究が主であり、社会学的な研究は竹崎(2015, 2019)の一連の研究、すなわち、男性高齢者ボディビルダーがいかにしてボディビルの価値を構築しているのかについて分析した研究と日本のボディビル文化を対象とした歴史研究に限定されている。 そこで本研究は、ボディビル競技者が競技へとのめり込む要因とその過程を明らかにすることを目的とした。また、本研究では、コンテストへの出場経験・予定のある競技者7名を対象とし、調査時期は4月~6月、調査方法は半構造化面接、主な調査項目は「競技に関する個人史」、「肉体の捉え方」、「競技実践の内容」とした。 その結果、競技者は、鍛えればその効果が必ず現れるという特性を持つ肉体に極めて高い予見可能性と成長可能性を感じ取り、その感覚を基に競技実践を漸次的に拡大させつつ徹底的なルーティン化を行っていること、また、競技者の行った競技実践は常にその意味が未来の競技実践へと外化される、いわば「意味の事後決定性」という特性を持っているために、競技者は過去の実践の意味証明と未来における成果を獲得すべく、現在の競技実践に没入せざるを得ない状況に置かれていることが明らかになった。