- 著者
-
松尾 哲矢
- 出版者
- 立教大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
本研究の主な結果は以下の通りである.1.スポーツ競技者養成の《場》に着目し,学校運動部と民間スポーツクラブを自ら相対的自律性の獲得(正統性の獲得)のために独自に再生産戦略システムを有する《場》として捉え,それぞれ異なる《場》で養成された競技者の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異を両下位《場》の教育戦略,象徴戦略の視点から分析することが目的であった.本研究の分析対象者は,全国上位の高校サッカー競技者で,中学校,高等学校を通して学校運動部に所属する194名と民間スポーツクラブに所属する78名であった.主な結果は,以下に示す通りである.1)学校運動部,民間スポーツクラブの両競技者ともに幼少期の相続的文化資本に差異はみられなかった.学校運動部および民間スポーツクラブの競技者間で現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相において差異がみられた.2)現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異に関して,教育,象徴の各戦略の視点から検討され,特に民間スポーツクラブにおいて勝利志向の隠蔽のみならずその勝利志向を暗黙の内に前提化するようなハビトゥス形成に教育戦略や象徴戦略が巧妙に機能していることが示唆された.2.スポーツ競技者養成の下位《場》である民間スポーツクラブに着目し,指導者の有するスポーツ観,《場》に対する表象,親との関係性等から,スポーツ競技者養成の《場》の正統性をめぐる再生産戦略の諸相を教育戦略,象徴戦略,対人戦略という視点で明らかにするとともに,《場》の構造とハビトゥス形成のダイナミズムについて検討することが目的であった.本研究の分析対象者は,フルタイムの契約職員,専任職員,自営業主として勤務する民間スポーツクラブ指導者273名(サッカー83名,水泳111名,体操競技79名)であった.なお,比較分析のために,筆者が行った民間スポーツクラブ競技者の調査結果(2001)が必要に応じて用いられた.主な結果として,スポーツ観,《場》の表象において,指導者と競技者間で相同性が認められたが、競技者において,より限定的で強い意識や表象を有している場合がみられた.この両者間の相同性と異質性から,伝承の二重性のダイナミズムが示唆された.