著者
堀田 文郎 松尾 哲矢
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.83-99, 2023-03-30 (Released:2023-04-26)
参考文献数
19

本稿はある個人がボディビルダーとなり、ボディビルへと専心していく過程とその論理について検討したものである。先行研究ではこれまで、生活の全てをボディビルに捧げるというような極端なまでの専心性をもってボディビルダーがボディビルに身を投じる様相が報告されてきた一方で、そのような専心性が招来される機制については十分に論じられてこなかった。そこで本稿は、ある個人がボディビルへと専心していく過程とその論理を明らかにすることを目的とし、ボディビルダーという存在の身体的次元における変容、特に身体的経験に着目しつつ検討を行った。 その結果、第一に、調査協力者らは結果が確約されない不確実な現実において、自身の努力に必ず成果をもたらしてくれる筋肉に対し「筋肉は裏切らない」という心的態度を形作り、それを動因にボディビルへと参入していることが明らかになった。 また第二に、ボディビルへと参入した彼らは、筋肉を発達させるために自身の身体の反応をつぶさにうかがい、それに準じて生活を規律するようになること、ここにおいて身体はその反応を介して生活に絶対的な規範を授ける超越的な他者としての機能を果たすようになることが明らかになり、以上の過程において調査協力者らは生活をボディビルへと収斂させ、ボディビルへと専心していったと推察された。 そして第三に、身体の反応に敬虔に従うようにして自身の行為を規律するボディビルダーの営為は、「こうでなければならない」という絶対的な指針が存在しない不確定な現実の中に、価値や行為に関する規範を生み出し、調査協力者らの生活、さらには人生に確固たる意味と目的を産出するという秩序化の機能を果たしていることが示唆され、ボディビルへと専心すればするほど自身の生活、そして人生の意味が明快で確実なものとへと秩序化されていくというこの論理こそ、ある個人がボディビルへと専心していく論理であろうと推察された。
著者
中山 健二郎 松尾 哲矢
出版者
一般社団法人 日本体育学会体育社会学専門領域
雑誌
年報 体育社会学 (ISSN:24344990)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.59-75, 2021

The purpose of this study was to examine the reproduction of high school baseball "narratives" and its media effects focusing on media representations of the change in approach for competition and practice. Previous studies about high school baseball "narratives" focused on analyzing the "narratives" as a fixed structure based on ritual theory. However, only few studies have focused on the fluctuation, including the fluctuation and change, of the "narratives" itself. Therefore, it is necessary to analyze the reproduction of the "narratives", while considering the change in approach for competition and practice in recent years. In the national high school baseball tournament in Japan called "Koshien", tactical change from only one pitcher completing whole games to successive pitching has occurred in recent years. Following this tactical change, we analyzed messages and significations from media representations of complete games and games with successive pitching by a media text analysis of the sport documentary entitled "Fierce Battle Koshien"(entitled "Netto Koshien" in Japanese).<br>The analysis showed that the media representation of complete games focused on the signification of "the spirit conveyed by the pitcher overcoming difficulties", whereas that of games with successive pitching concentrated on the signification of "friendship conveyed by two pitchers working together". It seems that both semantics "spirit" and "friendship" are elements of traditional high school baseball "youth narratives". The present result therefore suggests that media representations in practice change within the possible interpretative framework of "youth narratives". Further, the study suggests that through that media representation the framework of high school baseball "narratives" itself has been reproduced with the internal fluctuation of "how 'youthfulness' or 'youth' should be".
著者
中山 健二郎 松尾 哲矢
出版者
一般社団法人 日本体育学会体育社会学専門領域
雑誌
年報 体育社会学 (ISSN:24344990)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.59-75, 2021 (Released:2021-05-14)
参考文献数
35

The purpose of this study was to examine the reproduction of high school baseball “narratives” and its media effects focusing on media representations of the change in approach for competition and practice. Previous studies about high school baseball “narratives” focused on analyzing the “narratives” as a fixed structure based on ritual theory. However, only few studies have focused on the fluctuation, including the fluctuation and change, of the “narratives” itself. Therefore, it is necessary to analyze the reproduction of the “narratives”, while considering the change in approach for competition and practice in recent years. In the national high school baseball tournament in Japan called “Koshien”, tactical change from only one pitcher completing whole games to successive pitching has occurred in recent years. Following this tactical change, we analyzed messages and significations from media representations of complete games and games with successive pitching by a media text analysis of the sport documentary entitled “Fierce Battle Koshien”(entitled “Netto Koshien” in Japanese).The analysis showed that the media representation of complete games focused on the signification of “the spirit conveyed by the pitcher overcoming difficulties”, whereas that of games with successive pitching concentrated on the signification of “friendship conveyed by two pitchers working together”. It seems that both semantics “spirit” and “friendship” are elements of traditional high school baseball “youth narratives”. The present result therefore suggests that media representations in practice change within the possible interpretative framework of “youth narratives”. Further, the study suggests that through that media representation the framework of high school baseball “narratives” itself has been reproduced with the internal fluctuation of “how ‘youthfulness’ or ‘youth’ should be”.
著者
堀田 文郎 松尾 哲矢
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
日本体育・スポーツ・健康学会予稿集 第71回(2021) (ISSN:24367257)
巻号頁・発行日
pp.246, 2021 (Released:2021-12-28)

彫刻のような肉体を作り上げ、ポーズを取って競い合う「ボディビル競技」、この競技は以前より、薬物問題等の問題を抱えてきた。例えばWADA(2020)によると、2019年のボディビル競技における陽性サンプルの割合は20%と非常に高かった。また、プロボディビルダーの間では薬物が公然の秘密とされているとの指摘もある(増田 2000)。以上を踏まえると、ボディビル競技には薬物使用までは至らずとも、競技に強くのめり込む競技者が数多く存在すると考えられる。ボディビル競技者はなぜ、多大な犠牲や健康的なリスクを負ってまで競技にのめり込むのだろうか。 国内のボディビル競技に関する先行研究は、競技方法に関する研究や生理学的な研究が主であり、社会学的な研究は竹崎(2015, 2019)の一連の研究、すなわち、男性高齢者ボディビルダーがいかにしてボディビルの価値を構築しているのかについて分析した研究と日本のボディビル文化を対象とした歴史研究に限定されている。 そこで本研究は、ボディビル競技者が競技へとのめり込む要因とその過程を明らかにすることを目的とした。また、本研究では、コンテストへの出場経験・予定のある競技者7名を対象とし、調査時期は4月~6月、調査方法は半構造化面接、主な調査項目は「競技に関する個人史」、「肉体の捉え方」、「競技実践の内容」とした。 その結果、競技者は、鍛えればその効果が必ず現れるという特性を持つ肉体に極めて高い予見可能性と成長可能性を感じ取り、その感覚を基に競技実践を漸次的に拡大させつつ徹底的なルーティン化を行っていること、また、競技者の行った競技実践は常にその意味が未来の競技実践へと外化される、いわば「意味の事後決定性」という特性を持っているために、競技者は過去の実践の意味証明と未来における成果を獲得すべく、現在の競技実践に没入せざるを得ない状況に置かれていることが明らかになった。
著者
中山 健二郎 松尾 哲矢
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.69, pp.79_2, 2018

<p> メディアによる伝達を通じて歴史的に生成されてきた高校野球の「物語」は、人々の高校野球に対する解釈を規定しているとされ、主に神話論的アプローチによって、その構造を捉える試みがなされてきた。しかしながら、高校野球の「物語」は固定的な構造というよりも、種々の力学関係の中で流動的に再生産されているものとみられ、その変動を読み解く研究が求められているといえる。そこで本研究は、朝日放送テレビのドキュメンタリー番組『熱闘甲子園』を対象として、特に投手を主題化した映像および言説を分析することで、高校野球の「物語」が変動する過程について考察することを目的とした。</p><p> 競技特性上、「物語」の中心として主題化されやすい投手に関して、甲子園大会の戦術は近年、「先発完投型」から「継投型」へとシフトしてきている。分析の結果、『熱闘甲子園』ではこうした戦術の変化によって、投手を描く主題を「精神力」から「友情」へと置き換えていく様相がみられるなど、メディアに具現化される「物語」の変化が看取された。この結果から、高校野球の「物語」が、実践における変化によって変容しつつ構造化される過程の一側面が示唆された。</p>
著者
松尾 哲矢
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の主な結果は以下の通りである.1.スポーツ競技者養成の《場》に着目し,学校運動部と民間スポーツクラブを自ら相対的自律性の獲得(正統性の獲得)のために独自に再生産戦略システムを有する《場》として捉え,それぞれ異なる《場》で養成された競技者の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異を両下位《場》の教育戦略,象徴戦略の視点から分析することが目的であった.本研究の分析対象者は,全国上位の高校サッカー競技者で,中学校,高等学校を通して学校運動部に所属する194名と民間スポーツクラブに所属する78名であった.主な結果は,以下に示す通りである.1)学校運動部,民間スポーツクラブの両競技者ともに幼少期の相続的文化資本に差異はみられなかった.学校運動部および民間スポーツクラブの競技者間で現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相において差異がみられた.2)現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異に関して,教育,象徴の各戦略の視点から検討され,特に民間スポーツクラブにおいて勝利志向の隠蔽のみならずその勝利志向を暗黙の内に前提化するようなハビトゥス形成に教育戦略や象徴戦略が巧妙に機能していることが示唆された.2.スポーツ競技者養成の下位《場》である民間スポーツクラブに着目し,指導者の有するスポーツ観,《場》に対する表象,親との関係性等から,スポーツ競技者養成の《場》の正統性をめぐる再生産戦略の諸相を教育戦略,象徴戦略,対人戦略という視点で明らかにするとともに,《場》の構造とハビトゥス形成のダイナミズムについて検討することが目的であった.本研究の分析対象者は,フルタイムの契約職員,専任職員,自営業主として勤務する民間スポーツクラブ指導者273名(サッカー83名,水泳111名,体操競技79名)であった.なお,比較分析のために,筆者が行った民間スポーツクラブ競技者の調査結果(2001)が必要に応じて用いられた.主な結果として,スポーツ観,《場》の表象において,指導者と競技者間で相同性が認められたが、競技者において,より限定的で強い意識や表象を有している場合がみられた.この両者間の相同性と異質性から,伝承の二重性のダイナミズムが示唆された.