著者
堀越 哲郎
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、アンチセンスRNA増幅法の導入により、ウミウシという各種の遺伝子の塩基配列が未知の動物について、古典的条件付けによる神経細胞での遺伝子発現量の変換を検出することを当初の目的として行った。遺伝子発現を検出するためには各遺伝子のDNAプローブが必要であり、神経可塑性に関与する可能性のある遺伝子としてPLC、CREB、PKC、TRK遺伝子、および全mRNA量の指標として解糖系酵素GAPDHの遺伝子のDNAプローブを作製した。文献とのDNAデータベース検索により各遺伝子の保存性の高い領域を探し、それに相当するDNA断片をラットまたはマウス脳cDNAからPCR法にて増幅し、精製してプローブとした。これらのプローブが軟体動物腹足類に対して使用可能かどうかを、モノアラガイ中枢神経系からジゴキシゲニン標識アンチセンスRNAを作製し、ドットブロットハイブリダイゼーション法で判定した。その結果、複数のプローブが使用可能なことが確認されたが、いずれもシグナルが弱く、単一神経細胞レベルでの検出は困難であると思われた。アンチセンスRNAを電気泳動で観察すると比較的短いRNA断片が多く、テンプレートである2本鎖cDNA作製法に問題があることが示唆された。cDNA作製法を改良するためにはcDNA合成効率を見積もる指標が必要であると考え、モノアラガイras遺伝子の部分塩基配列の決定を行ない、PCR法により検出することで指標とした。その結果、これまでのcDNA作製法ではモノアラガイ中枢神経系約2万分の1個分のcDNAからras遺伝子発現が検出された。現在はcDNA作製過程を改良しており、予備実験では少なくとも100倍程度増やすことが可能となってきている。モノアラガイ中枢の神経細胞数が約2万5千個であることを考え合わせると、今後、単一神経細胞レベルで遺伝子発現量が測定できるものと考えている。
著者
兵頭 昌雄 大岩 忠彦 岩澤 宏哲 清水 英寿 中山 一大 藤江 康光 堀越 哲郎
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.213-222, 2000-03-10
被引用文献数
1

真核生物のリボソーム遺伝子(rDNA)は,ゲノム内で反復配列として数百コピー存在し,核小体の中心を形成している。このDNA領域の塩基配列は分子進化学における研究対象となっている。我々の研究室で維持されている4系統の日本産メダカ(0ryzias latipes)における18S rDNA領域の構造について研究する目的で,このDNA配列をPCR法により増幅する条件について検討した。その結果得られた最適条件は,(1)鋳型DNA量;100ng,(2)プライマー濃度;0.2μM,(3)変性;94℃1分,アニーリング;60℃1.5分,伸張;72℃2分,(4)サイクル数;35,であった。この条件下で約1.8kbと比較的長いDNA鎖である18S rDNAが増幅でき,その反応液中の収量は19.5ng/μ1であった。18S rDNAの収量をさらに増加させるために,PCR産物を鋳型として再増幅することを試みた。しかし,再増幅では,1.8kb以外の長さの異なるバンドも増幅されており,有効ではないことが明らかになった。つぎに4系統のメダカ(近交系野生型クロメダカ〔HB-32C系統〕,沼津市浮島地区で採取された野生型クロメダカ〔BMT系統〕,体色に関する変異株であるヒメダカおよびアルビノ〔i/i系統〕)のゲノムDNAをもとにPCRにより18S rDNAを増幅した。その結果いづれの系統のDNAからもほぼ同量の18S rDNAが得られ,ゲノムあたりのコピー数は一定であることが示唆された。
著者
砂田 寛司 堀越 哲郎 榊原 学
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.65-75, 2009-03-31

これまでの研究でヨーロッパモノアラガイの成体(殻長21 〜 26 mm)を用い,嫌気状態下での呼吸行動を1回のKCl 提示により減少させるone-trial conditioning を行うことにより長期記憶が形成されることと,オペラント条件づけにおいて,モノアラガイの捕食者であるザリガニの溶出物(crayfish effluent: CE)を含むザリガニ飼育水中で,条件づけを行うと,pond water(PW)下でトレーニングを行ったときと比較し,長期記憶の保持時間が延長されることが報告されている(Lukowiak et al., 2008).本研究ではCE 環境のone-trial conditioning に対する長期記憶の形成と,延長の効果を成長段階で呼吸様式の変化がある幼生(殻長12 〜 16 mm)と成体に分けて検討した.長期記憶の形成に伴う電気生理学的な活動の変化を,呼吸行動の中枢リズム発生器(CPG)であるRPeD1 と,RPeD1 を抑制的にシナプス結合する殻引込みの介在ニューロンRPeD11 から記録した.その結果,幼生においてPW 環境でトレーニングしても長期記憶は形成されないが,CE 曝露後に行うトレーニングにより長期記憶が形成された.また成体ではCE 曝露後のトレーニングでは長期記憶の保持時間は延長した.またRPeD1 で見られる電気生理学的な活動の減弱は,少なくともRPeD11 がもたらす興奮性増大の影響を受けていることが示唆された.