著者
塚本 僚平
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.338-357, 2010 (Released:2018-01-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

Since the mid-1980s, Japan’s industrial structure has been considerably altered by economic fluctuations. These structural changes have had repercussions for local industry, and in particular for modern local industries in provincial areas. However, in recent years, research on local industries has been declining and has been insufficient. This paper examines the glove-making industry in the Higashi-Kagawa region, Kagawa Prefecture, which prospered due to the mass production and export of gloves during Japan’s rapid economic growth period. The author examined the factors behind the industry’s success through the analysis of the following two points: (1) the structural changes in the production and distribution system after the rapid economic growth period; and (2) business activities of each company after the same period.In the Higashi-Kagawa region, dynamic changes such as transfers of manufacturing functions overseas, growth of high value-added production, and expansion of glove-related products, have been ongoing since the 1950s. There were also some social and economic reasons (e. g. the Nixon shock, oil crises, and the increase in consumer demand for high-fashion gloves) behind these changes. Today, the scale of domestic production, characterized by the division of labor, in the region has declined, and overseas production now plays a large part. At the same time, the relationships between companies in the region and with companies in other regions has become stronger in the planning and development phases of new products. Therefore, interregional divisions of labor within a company, and with companies located in other regions, have been developed, along with an individualization of business behavior by each company as it takes steps to suite its economic circumstances. It seems that the Higashi-Kagawa region lacks unity and function as an industrial region.However, the results of the survey show that companies benefit from agglomeration economies, through for example, (1) accumulated technology and know-how, (2) a pool of skilled labor, (3) ease of raw material procurement, and (4) ease of information exchange within the industrial region. Moreover, the survey revealed the presence of “trust” and a strong reputation created through a long history of glove-making in the region, and this gives an intangible value to the companies in the region. This has been rarely noted in existing research. Therefore, the author believes that this may be one driving force in the survival of the industry in the Higashi-Kagawa region.
著者
塚本 僚平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.12, 2011 (Released:2011-05-24)

1.はじめに 近年の地場産業研究においては,伝統的地場産業や都市型地場産業に関する蓄積がみられた。しかし,その一方で,地方部において日用消費財(伝統性が強調されない製品)を生産する産地(地方型・現代型の産地)が研究対象としてとり上げられることは少なかった。こうした産地は,労賃の高騰や輸入品との競合といった各種の環境変化の影響を受けやすいため,そうした問題に関する様々な対策が講じられている。本報告では,地方型・現代型の産地である今治タオル産地をとり上げ,主に1980年代以降に起こった産地の変化を捉え,分析する。 2.タオル製造業の動向と今治タオル産地 日本国内には,今治(愛媛県)と泉州(大阪府)の二大タオル産地があり,国内生産額の約8割が両産地によって占められている。このうち,今治タオル産地では,先染先晒と呼ばれる製法によって,細かな模様が施された高級タオル(それらの多くは,高級ファッションブランドのOEM製品)やタオルケットが多く生産されてきた。また,泉州タオル産地では,後染後晒と呼ばれる製法によって,白タオルや企業の名入れタオルが多く生産されてきた。 今治では,1984年からタオル生産がはじめられ,その後,度重なる機器の革新を背景に,高級タオルを生産する産地へと成長していった。1955年に生産額が国内1位になった後も成長を続け,1985年にピーク(816億円)を迎えた。また,その後も,1991年まで700億円以上の生産額を維持し続けるなど,国内最大の産地として今日まで維持されてきた。 3.産地の縮小と産地の対応 国内のタオル産地は,1990年代前半までは,順調な成長を遂げてきたが,近年では,新興国からの輸入品に押され,苦戦を強いられている。今治タオル産地も例外ではなく,2009年時点での企業数は135社(対ピーク時,73%減),2,652人(同,76%減),生産量9,381t(同,81%減),生産額133億円(同,84%減)となっている。 こうした事態を受け,産地内では生産工程の海外移転や一貫化,産地ブランド化・自社ブランド化といった動きが起こった。このうち,生産工程の海外移転・一貫化については,一部の有力企業に限ってみられる現象である。これは,ブランドのOEM委託先が,海外へとシフトし始めたことへの対応策として採られたものであり,コスト低減のほか,リードタイムの短縮,品質向上等も目的としている。 一方の産地ブランド化・自社ブランド化は,従来のOEM生産を主体とした問屋依存型の生産構造からの脱却を狙うものである。産地ブランド化については,四国タオル工業組合が主体となって事業を推進し,ブランドマーク・ロゴの制定から品質基準の作成,新製品開発,メディアプロモーション等が行われてきた。結果,産地の知名度の高まりや,流通経路の多様化といった効果がみられ,そうした流れのなかで,自社ブランドを展開する企業も増加してきた。 4.おわりに 近年の今治タオル産地では,従来からの産地内分業が維持される一方で,一部の企業においては,生産工程の海外移転や一貫化といった変化が確認された。このうち,海外生産については,逆輸入品の流入による市場の圧迫や産地ブランドへの影響を懸念する声が聞かれた。また,当該産地における産地ブランド化事業は,成功事例の一つといえるが,産地ブランドに対する認識には企業間での温度差がみられた。
著者
塚本 僚平
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.291-309, 2013-09-30

近年,消費の多様化や本物志向の進展が指摘されるなか,産地ブランドや地域ブランドへの注目が高まっている.一部の地場産業でも,産地の維持・発展の方策として,産地ブランドの構築が図られている.本稿では,2000年代以降,産地ブランドの構築に積極的に取り組んできた愛媛県の今治タオル産地をとりあげ,ブランドの構築が市場における優位性の獲得に繋がるか否か,ブランドの存在が産地維持要因の一つとなり得るかどうかについて検討した.今治タオル産地におけるブランド構築事業は,従来の問屋依存的で,有名ブランド品のOEM生産を軸とした企業体制からの脱却を意図したものであったが,産地の認知度の高まりを見る限り,当該事業は一定の成果を上げたといえる.また,問屋への依存度の低下や流通経路の拡大・多様化,リピーターの獲得といった現象も生じた.なお,今治産地では1980年代から海外生産や国内での一貫生産化,分業関係の見直し,外国人技能実習制度の利用といった生産面における戦略も展開された.それにより,分業構造に大幅な変化が生じていたが,これらの戦略は,製品の高品質化やコスト低減といった点でブランド構築事業との関連性を有していた.ただし,一部の企業では企業戦略と産地ブランドの特性が相容れないケースもあり,産地ブランドが全ての企業にとっての立地継続要因にはなり得ていないことも明らかになった.