著者
加藤 大輔 塩路 直子 池田 朋広
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.516-524, 2021

医療ニーズを持つ患者が自宅での生活を希望しており,地域特性に応じた連携体制の整備が急務となっている。連携を担う1職種である医療ソーシャルワーカー(MSW)は,業務指針に地域活動が示されているが,退院支援業務が中心となっている現実がある。そこで,MSWによる望ましい地域活動のあり方を明らかにする目的で文献調査を行なった。方法は,MSWの地域活動に関する国内の文献を基に,実践事例論文からはMSWが中心的に介入している実践を抽出し,調査研究論文からは地域活動に影響している要因を,阻害要因と促進要因に分類して抽出した。その結果,実践は「多機関多職種間の連携体制の構築」「地域生活を支えるコミュニティネットワークの構築」「サロン等地域住民の交流の場の創設等による地域の活性化」「勉強会の開催等,地域全体に対する啓発活動」であった。次に阻害要因は,「所属機関の業務規定等による活動の制限」「業務割合が退院支援中心であること」「配置人員不足」「MSW独自の役割のあいまい化」の4点に,促進要因は,「院内外から取り組みによる効果に理解を得る」「多機関多職種や地域の非専門職との連携を促進する」「MSW独自の役割を果たす」「地域での立場と院内での業務を確立する」の4点に集約された。地域活動の定着に向けた課題解決には,ソーシャルワークに基づく視点と手法による実践,院内での業務環境の整備,院内外での地域連携における役割の確立が重要であった。
著者
塩路 直子 饗庭 三代治 津田 裕士 礒沼 弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.250-256, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
14

目的:認知症病棟への専従配置が義務づけられている精神保健福祉士(PSW)の退院援助が,認知症症例の退院の状況とどのように関係しているかを明らかにするために検討を行った.方法:認知症病棟から退院した症例について,PSWの退院援助と入院期間,退院先機関,栄養摂取方法,服用薬剤などとの関係を検討した.結果:検討対象の要件を満たした症例は192例であり,アルツハイマー型認知症が94例(49.0%)と約半数を占めていた.在宅療養への移行例では,当院外来への通院例が45例,他院への通院例が17例の計52例(32.3%)であった.他院への転入院例は34例(17.7%)であった.その他の96例(50.0%)は,約半数が介護老人保健施設(老健)に入所し,介護老人福祉施設(特養),有料老人ホーム(有老),グループホーム(GH)の順に減少した.1症例当たりの平均援助回数および時間(平均援助頻度)は,施設では有老が最も多く,回数で50回,時間で800分を超え,特養,老健,GHの順に減少した.他院への通院例は,入院期間が最も短いにも係わらず,当院への通院例よりも多くの援助を必要とした.栄養摂取方法と平均援助頻度との関係では,経口摂取で援助頻度が最も少なく,経鼻経管,胃瘻の順に多く,経口摂取と胃瘻との間には有意差(P<0.01)を認めた.服用薬剤と平均援助頻度との関係では,老健の場合においてのみ,塩酸ドネペジル服用例でその他の薬剤服用例よりも有意(P<0.003)に多くの援助を必要とした.結論:認知症病棟からの退院においては,PSWの退院援助が不可欠であり,かつ多くの時間を必要とすることが判明した.また,在宅療養の場合よりも,医療機関への入院または施設への入所において,退院援助の必要度が高いことも示された.さらに,療養型医療機関への入院および老健への入所では,服用薬剤によりその調整に頻回の援助を必要としていた.