著者
大原 利眞 神成 陽容 若松 伸司 鵜野 伊津志
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-112, 2000-03-10
被引用文献数
1

1997年7月2日10時頃,東京湾中央部において大型タンカーが底触し,大量の原油が流出した。流出油は揮発性の高い原油であったため,その3割程度はすぐに蒸発し大量の石油蒸気として大気中に放出された。本研究は,この原油流出事故による大気環境影響を実測データ解析とモデル数値解析によって検討した。実測データを解析した結果,東京湾央部の流出油から揮散した高濃度NMHCは風速10m/s程度の南西風によって東京湾北東部から茨城県南部にパフ状に輸送され東京湾北部陸上で最高6ppmCに達したこと,高濃度NMHCパフの通過時にはNMHCとともに光化学オキシダントも上昇することが認められた。次に数値解析によって事故による大気環境影響を検出した。基本ケースの数値計算によって原油流出に伴う大気環境影響の基本的特徴が再現されるのを確認した後,事故ケースと事故なしケースの差を影響量とみなして分析した。この結果,高濃度NMHCパフ内においては光化学反応によってO_3等の光化学オキシダントやNO_2が生成し,その最大上昇濃度はO_318ppb,NO_22ppbであることが明らかとなった。
著者
板橋 秀一 弓本 桂也 鵜野 伊津志 大原 利眞 黒川 純一 清水 厚 山本 重一 大石 興弘 岩本 眞二
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.175-185, 2009-07-10
被引用文献数
9

日本各地で光化学オキシダント注意報が発令された2007年4月下旬から5月末の期間を対象に,化学輸送モデルCMAQを用いてモデルシミュレーションを行い,光化学オゾン(O_3)を中心に,硫酸塩粒子(nns-SO_4^<2->)などにも着目して,その濃度変化や気象学的な特徴について解析した.シミュレーションの結果は観測されたオゾン濃度などを概ね再現しており,対象とした期間内には九州北部においてO_3とnss-SO_4^<2->が同時に高濃度となる5つのエピソードが見られた.これらの中から九州地域で典型的な越境汚染が起こっていると考えられた3つのエピソードに着目してより詳細な解析を行った.これら3つのエピソード時には,いずれも東シナ海南部に高気圧が位置し,高気圧の北部をまわる西から北西の気流に乗って大陸起源の汚染気塊が輸送されていることが明瞭に示され,それはnss-SO_4^<2->の高濃度域の広がりと合致していた.また,後方流跡線解析から,中国大陸上の汚染気塊がおよそ2日かけて九州北部へと輸送されたことが示された.中国起源の一次汚染質排出による越境汚染の寄与を見積もるため,中国国内の一次汚染質の排出量をゼロとした感度解析も行った.中国起源のnss-SO_4^<2->とO_3には高い相関があり,直線回帰の傾きは気象条件により異なるが0.8〜1.3(ppbv_-O_3)/(μg/m^3_nss-SO_4^<2->)を取り,nss-SO_4^<2->=20μg/m^3に対する中国起源の汚染質に起因するO_3は16〜26ppbvであることが示された.全球モデルで与えているO_3の西側境界濃度レベルの50ppbvを勘案すると,今回着目した3つのエピソード時のオゾン濃度に対する中国起源のO_3前駆物質の寄与率は東アジア起源の約30〜50%に達し,高濃度オゾンエピソードにはアジア大陸を起源とする越境汚染が強く影響していることが示された.