著者
大地 宏子
出版者
中部大学現代教育学部
雑誌
現代教育学部紀要 = Journal of College of Contemporary Education (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
no.9, pp.23-34, 2017-03

音楽科教育における唱法の論争は戦前より始まり、戦後の学習指導要領で「移動ド唱法を原則とする」と定められたものの、いまだにそれが定着したとはいえない。本論は、学習指導要領告示以前の戦前における唱法の教授法に焦点を当て、主に教師用書を通して「移動ド」唱法のルーツを辿りつつ、唱法教授の変遷を考察した。その結果、唱法の教授法が最初に明文化されたのは伊澤修二の作成した「唱歌法凡例」で、「数字による(ヒフミ)唱法」と「ハニホによる唱法」の二つの唱法が定義された。前者が「階名唱」を、後者が「音名唱」を意味していたと考えられる。その後、日本で最初の音楽教科書『小学唱歌集初編』で唱法教授の定型が示され、その教師用書『音楽指南』でその具体的な教授法が述べられ、以後この教授法が継承された。階名唱と音名唱は、唱法教授過程の初期から同時に学ぶ課業だったが、いずれの史料も階名唱を積極的に教授する傾向を示していた。
著者
大地 宏子
出版者
中部大学現代教育学部
雑誌
現代教育学部紀要 = Journal of College of Contemporary Education (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
no.10, pp.69-82, 2018-03

本稿ではNHKのラジオ番組から誕生した戦後の新しい童謡における音楽的側面に光を当て、戦前の大正期の童謡と戦前・戦後に隆盛を極めたレコード童謡との比較、及び変容を考察した。戦後の童謡については、当時の新進作曲家たちによって結成された「ろばの会」の活動理念や創作の経緯を辿りつつ、作品の分析を通して彼らの目指した戦後の童謡観(音楽観)と具体的な音楽的特質の一端を明らかにした。ここで浮き彫りとなった音楽面の変容、すなわち斬新なメロディーやリズム、半音階を含んだ多様な和声など戦前の童謡には聴かれなかった音楽的着想は、歌詞(言葉)を提供した詩人たちとの創作研究を通して起こった事象だったといえる。大正期の童謡から脱却し、新しい詩の創作を模索していた詩人たちと、戦後の近代和声による新たな子どものうたの創作活動を歩み始めていた作曲家たちの協同作業によって、戦後の童謡は開拓され現在へ至る道筋がつくられたのである。In this article we put a light on the musical factors in after-war children's song given birth from NHK radio programs, and put thought into the comparison and change from before-war Taisho age children's song and children's song records that prospered before and after the war. Regarding after-war children's song, we went through activity policies and sequence of creation of "Roba no kai" formed by the rising music writers of that age, and through analysis of the music clips, we made clear their vision of after-war children's song (vision towards music) and also a part of their specific musical characteristic. The change in music made clear here, which were the new melodies and rhythm, various harmonies with semitones, musical ideas that were not seen in before-war children's music, could be said to be a phenomenon caused through creative research with the poets that provided the lyrics (words). After-war children's song was developed, and a path towards the present was created through a partnership between poets breaking out from Taisho age children's song in search for new lyrics, and music writers beginning creative activity for new children's song with after-war modern harmony.
著者
大地 宏子
出版者
鶴見大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

銘酒澤亀の醸造家で堺酒造株式会社の設立など堺市産業界の重鎮であった宅徳平を祖父に持つ宅孝二は、幼少時より邦楽や芸事を嗜み育った。パリ留学後、最初に奉職した東京女子高等師範学校での舞踊曲の作曲や、東京オリンピックの女子床運動におけるピアノ伴奏など、彼にとっての音楽は身体運動と呼応しあう存在であった。また、数多く手掛けた映画音楽には幼少時代に体験した邦楽と晩年に傾倒していったジャズへの憧憬がみられ、それらが彼の創作活動の基底をなしているものと思われる。