著者
大塚 忠義 谷口 豊
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.15-32, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
25

超高齢化社会を迎えるなか、高齢者が健康状態を維持しつつ天寿を全うできるのか、それとも不健康な状態で延命するのか、社会保障財源等の観点から関心が高まっている。健康状態の維持を示した指標としては、WHOが提唱した健康寿命がある。健康寿命は一般にサリバン法により算定され、我が国においてはサリバン法で求めた健康寿命を用いて不健康な期間が算定されている。 本稿では、我が国で用いられている方法により求めた不健康な期間と、ある年齢で要介護状態になった者の要介護者死亡率・回復率をもとに算定する平均要介護期間の算定方法を比較分析するとともに、現在利用できるデータの制約のもとで両者を算定し、試算結果を分析した。その結果、我が国で用いられている方法で算定した不健康な期間はある年齢で要介護状態になり要介護状態にとどまる平均期間より常に短く算定されることを確認した。これらの分析結果を踏まえて、社会保障財源の観点からより有用な情報を提供できる指標として平均要介護期間と要介護寿命を提案する。
著者
大塚 忠義 藤澤 陽介 佐藤 政洋
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.33-56, 2016-02-25 (Released:2019-05-17)
参考文献数
8

現在、アクチュアリー科目を設けている大学・大学院は増加している。しかしながら、我が国のアクチュアリー専門職団体と大学の関係は限られた大学への教員の派遣にとどまっており、欧米では資格試験に際し大学になんらかのクレジットを与えていることと比較すると著しく希薄である。 一方、アクチュアリー志望者のアクチュアリー教育を行う機関に対する評価には大きな差はないものの、大学が最も高い。今後大学で教育を受けたアクチュアリー志望者は増加していき、大学がアクチュアリー教育に関する主要な教育機関になっていくと予想される。 アクチュアリー志望者が得られる教育機会は限られており、アクチュアリー職への就職を希望する学生にとって、大学でのアクチュアリー関連講座は重要である。また、大学での質の高い講座は、学生のアクチュアリー学への興味の喚起につながり、アクチュアリー志望者の増加に寄与する。 今後、若年人口が減少していくなかで、会計士など他の専門職と競合しながら、アクチュアリーの増加ひいてはアクチュアリー学の発展のために、大学における教育機会の拡大は必要条件といえる。
著者
大塚 忠義 谷口 豊
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.15-30, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
13

生命保険文化センター(2016年)の調査によると、回答者の85.7%が自分の老後生活に不安を感じている。一方で、谷口・大塚(2020)で「全国消費実態調査」をもとに行ったシミュレーションでは、80%を超える世帯が生存中に貯蓄が枯渇する可能性が低いという結果を得た。このような差異は、現役世代が老後生活に対して感じている不安感は実態より悲観的であることを示唆している。 本稿の目的は、貯蓄ゼロの蓋然性が低いにもかかわらず老後生活に不安を感じる世帯の属性を分析し、老後生活費への不安感の要因を明らかにすることである。その結果、次のような知見を得ることができた。 生存中に資産が枯渇する可能性が低いにも関わらず不安感を持つ要因は年齢ではなく世帯年収であり、不安感をもたらす世帯年収は年齢とともに低くなると考えられる。また、老後生活費を公的年金に依存している割合が高いほど老後生活の不安感は高い傾向にあると推測される。逆に、農林漁業者等定年がなく老後も勤労所得により生活費を賄える世帯については加齢とともに不安感が減少する傾向にあることがわかった。
著者
大塚 忠義 冨樫 充 谷口 豊
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-14, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
21

公的介護保険制度は全国一律の制度であるが、地域によって差が見られる。これは、地域ごとの人口構成、人口動態の差異に加え、地域の特性や生活習慣の違い等によるものと考えられている。これら市区町村で異なる介護給付費等の状況を比較・分析し多くの市区町村と異なる数値を示す地域の特性を分析・考察することは、公的介護保険の公平性と持続可能性を確保するために重要である。 本稿の目的は、市区町村の介護給付費等の妥当性を評価するための手法を提案し、それに基づき設定する標準的な範囲から逸脱している市区町村を特定したうえで、当該市区町村の特性を分析・考察することである。 分析の結果、平均介護給付費を構成要素に分解した9項目についてほとんどの市区町村が標準範囲に該当することを確認した。特に、要介護認定率は比較可能な指標に変換するとほぼ全国一律の状態にあると推定される。この結果は介護費用等の市区町村の差異に関し分析した多くの先行研究と異なるものである。