著者
望月 康恵 大形 里美 森谷 裕美子 田村 慶子 織田 由紀子
出版者
北九州市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、東南アジア地域におけるジェンダー主流化の動きとNGOの役割について考察したものである。望月康恵(研究代表者)は、東南アジアの国際機構・制度に着目し、ジェンダー主流化への対応と加盟国との関係について考察を行い、機構・制度の独自の取り組みについて検証した。また、職務権限上の制限、加盟国への影響、取り組みの評価の必要性や将来への課題についても検討した。田村慶子(研究分担者)は、マレーシアおよびシンガポールの女性政策とNGOの関わりについて現地調査と具体的な検討を行った。それぞれの政府の女性政策と女性の地位について歴史的に明らかにし、またNGOが政府や州の政策にどのような役割を果たしているのか、その協力および対抗関係について分析し、問題点と課題を明らかにした。森谷裕美子(研究分担者)は、フィリピン、パラワン社会におけるNGO活動の個別、具体的な調査を行った。その結果、少数民族社会におけるNGO活動にはジェンダー主流化の配慮が欠けている例が多く見られたため、さらに、少数民族社会に影響力の大きいNGOにどのような課題が残されているかを明らかにし、今後、少数民族社会とNGOにどのような関係が期待されるのかを検討した。大形里美(研究分担者)は、インドネシアの女性政策の流れ、そして女性組織(社会団体、及びNGO)の発展について、インドネシア政府による2000年以降のジェンダー主流化政策が女性NGOの活動とアドボカシー活動によって実現したものであることを確認した。また、ジェンダー主流化に関連する様々な分野で活動を展開している女性NGOに着目し、組織の発展、活動内容について検討した。織田由紀子(研究分担者)は、ジェンダー主流化政策の歴史的変遷を踏まえつつ、アジア地域においてジェンダー問題に関わるNGOについて現状分析を行い、NGOが国境を越えたネットワークを通じて多様な課題におけるジェンダーの主流化の推進に影響を及ぼしてきていることを研究した。なお、研究代表者および分担者は、研究会を定期的に開催し、報告および意見交換を行うことによって、研究の進捗状況および方向性を確認しながら分析を深めた。その成果を日本国際政治学会東南アジア分科会(2002年11月淡路夢舞台国際会議場)にて報告し、また成果の一部を『アジア女性研究』(12号、2003年)の特集「ジェンダー主流化におけるNGOの役割-東南アジアを中心に」に掲載した。
著者
大形 里美 Ohgata Satomi
出版者
九州国際大学現代ビジネス学会
雑誌
九州国際大学 国際・経済論集 = KIU Journal of Economics and International Studies (ISSN:24339253)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-36, 2020-10

ここ数十年の間にイスラム諸国を中心に「ハラール認証」が普及し、滞日・訪日イスラム教徒(ムスリム)たちは、飲食物の「ハラール性」にますます敏感になってきている。そして今、日本のフードビジネス業界には、ムスリムの食のタブーに対応したサービス「ハラール対応」への取り組みが今まで以上に求められている。ムスリム人口が少ない日本で「ハラール対応」を普及させるためには、本稿で取り上げる福岡のレストラン「極味や」による「ハラール対応」のような取り組みが不可欠である。また福岡マスジドによる「ハラール認証」無料発行の試みは、従来の「ハラール認証」制度が抱える問題点を認識し、新たな「ハラール認証」制度のあり方を模索するものであり注目される。
著者
大形 里美 Ohgata Satomi
出版者
九州国際大学現代ビジネス学会
雑誌
九州国際大学国際・経済論集 = KIU journal of economics and international studies (ISSN:24339253)
巻号頁・発行日
no.5, pp.21-54, 2020-03

インドネシアにおいて、1980年代に異宗婚(ムスリム〔イスラム教徒〕と非ムスリムの婚姻)を禁止するファトワーが出され、現状 異宗婚が不可能になっていることについて、異宗婚を禁止するファトワーが出されるに至った当時の社会的背景とファトワーに書かれた異宗婚禁止の理由を考察した。また人権擁護の観点から、異宗婚を認めるべきだと主張するリベラル派イスラム勢力による近年の議論と婚姻法改革をめぐる動向を分析した。かつて「1974年婚姻法」が成立するまで、そしてその後2000年頃までは婚姻法のあり方をめぐってイスラム派勢力と世俗派勢力が対立する構図が存在していたが、それ以降は、リベラル派イスラム勢力と世俗派勢力が共闘して保守派イスラム勢力と対峙する構図へと変化している。
著者
大形 里美 Ohgata Satomi
出版者
九州国際大学現代ビジネス学会
雑誌
九州国際大学国際・経済論集 = KIU Journal of Economics and International Studies (ISSN:24339253)
巻号頁・発行日
no.3, pp.47-78, 2019-03

インドネシアでは、イスラム文化圏としては珍しく、LGBT(Lesbian〈女性同性愛者〉、Gay〈男性同性愛者〉、Bisexual〈両性愛者〉、Transgender〈性別越境者〉の頭文字をとった単語で性的少数者の総称。)運動がこれまでかなり活発に行われてきた。とりわけ1998年の民主化以降、レズビアン運動が女性運動の一部に組み込まれたことによって、同国におけるLGBT運動は、外部に開かれた政治社会的運動として次第に可視化される存在となっていった。しかしそうした同国のLGBT運動の進展は、同時に同国内の保守派イスラム勢力による反LGBT運動を活発化させることとなり、近年、LGBT問題は急速に政治イシュー化している。LGBT脅威論が、マス・メディアやソーシャル・メディアなどを通じて社会一般に広められ、一般のイスラム教徒たちの間からもLGBTに対して明らかに否定的な反応が見られ始めている。現在同国には、西欧思想に影響を受けた世俗的なLGBT運動の潮流と、西欧的な人権意識を共有する多元主義的(リベラル派)イスラムの潮流が協力関係を築き、保守派イスラム勢力と対峙している構図がある。LGBT運動の進展は、同国のイスラム社会内部の亀裂を深めている。