著者
鈴木 保之 若山 文規 近藤 慎浩 田茂 和歌子 谷口 哲 大徳 和之 皆川 正仁 福井 康三 福田 幾夫
出版者
Hirosaki University Graduate School of Medicine,Hirosaki Medical Society
雑誌
弘前医学 (ISSN:04391721)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2-4, pp.79-86, 2006 (Released:2021-09-21)
参考文献数
15

背景: 人工心肺を使用した開心術後の肺障害あるいは ARDS (急性呼吸促迫症候群)は重篤な術後合併症であり,発生頻度は 1 % と低いものの ARDS を発症した場合の死亡率は非常に高いことが知られている.このような症例の急性肺障害は SIRS に伴うものとされ,その病態に好中球の動態及び好中球エラスターゼが深く関与している.対象と方法: SIRS に伴う肺障害に対して 2002年より好中球エラスターゼ阻害剤であるシベレスタットナトリウム (エラスポール) が導入された.我々は,人工心肺を使用した大動脈弓部置換術あるいは開心術で術後に生じる肺障害を軽減できるという仮説をたて,今回その効果について後方視的に検討した.エラスポールと投与したのは6例 (1例解離性大動脈瘤の保存的治療例を含む),コントロールとして 2002年以前の解離性大動脈瘤手術例のうち肺障害を認めた症例とした.肺障害の指標として P/F比,術後挿管期間,ICU滞在期間,その他血小板白血球数,CRP の変化を比較した. 結果: P/F比はエラスポール投与群で術後4日目より改善したのに対してコントロール群では術後2日目に悪化した後改善傾向を認めなかった (p<0.05) (P/F比,肺障害<300, ARDS<200).血小板数はエラスポール群でコントロールに比べて高い数値を示したが統計学的には有意差を認めなかった.その他の指標 (手術成績,術後挿管期間,ICU滞在期間,白血球) は両群間に有意差は認めなかった. 結語: 特に重症の心大血管手術例に対して術後肺障害を予防する上でエラスポールの有効性が示唆された.
著者
佐々木 花恵 小渡 亮介 大徳 和之 川村 知紀 山﨑 志穂 皆川 正仁
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.245-248, 2022-07-15 (Released:2022-07-30)
参考文献数
11

症例は13歳男性で先天性水頭症症例である.自宅にて呼吸停止状態で発見され,当院救急搬送後に蘇生したが,重度の脳障害を負った.搬送1カ月後に当院で気管切開術が施行された.気管切開後2カ月で気管腕頭動脈瘻を院内発症し,腕頭動脈離断術と直接縫合閉鎖による気管瘻孔修復術が行われた.術後2週間目に気管修復部破綻をきたし,体外式膜型人工肺(VA-ECMO)下での気管形成術を行った.VA-ECMO確立後,気管切開カニューレを抜去した.気管損傷部を紡錘形になるようにトリミングし,マットレス縫合をかけて気管形成を行った.その後,経口で気管挿管チューブを気管分岐部直上に留置し,気管形成部の安静をはかった.術後15日目に気管切開へのチューブ交換が行われた.術後3カ月現在,気管形成部破綻や再出血はない.気管瘻孔部への補てん物の縫着が困難な気管修復部破綻症例に対して,VA-ECMO補助下での気管形成は有用な治療選択肢であると考えられた.
著者
小笠原 尚志 大徳 和之 野村 亜南 川村 知紀 谷口 哲 福田 幾夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.345-350, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
6

大動脈食道瘻は手術死亡率が高く,予後不良な疾患である.症例は胸部下行大動脈嚢状動脈瘤による嚥下困難を認めた72歳男性.胸部ステントグラフト内挿術施行4カ月後にendoleakによる大動脈瘤の拡大をきたし,食道内視鏡検査で中部食道に突出する壁欠損を伴う腫瘤を認めた.腫瘤内部は血栓で充満していた.大動脈造影ではステントグラフトの小彎側からI型のendoleakを認め,腫瘤内への血流を認めたため大動脈食道瘻と診断した.発熱はなく,血液検査ではCRPの上昇を認めたが,白血球数は正常であった.人工血管に感染が及ぶことが必至と思われたため,開胸人工血管置換術および健常大動脈壁による瘻孔閉鎖を行った.人工血管は大網で被覆し,瘻孔部と隔離した.術後経過は順調で,術後4年のCT検査では食道穿孔部の治癒を確認,9年後の現在健在である.
著者
高橋 昌一 高谷 俊一 一関 一行 畠山 正治 大徳 和之 久我 俊彦 棟方 護 福井 康三 福田 幾夫
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.224-229, 2003-07-15
参考文献数
18
被引用文献数
5

1996年から2002年3月までの約5年間(前期:1998年6月まで,後期:1998年7月以降),39例の腹部大動脈瘤に対してステントグラフト(SG)挿入による治療を行ってきた.そのうち80歳以上の症例は前期3人,後期8人で,感染性動脈瘤を2人認め,また併存症として後期に虚血性心疾患5例,COPD1例,胸部大動脈瘤合併4例などhigh risk症例が含まれていた.前期の3例が外科手術に移行したが,残り36例(92%)がSG留置に成功した.36例中6例にendoleakを認め,5例に腸骨動脈解離(全例ステント留置)を認めた.SG留置に成功しendoleakを認めない症例は,前期50%,後期89%であった.経過観察中に追加治療や手術を受けたのはそれぞれ3例と4例であった.在院死は前期に4例認め,遠隔死亡は3例認めた.全体の生存率は術後3年で82%であった.腹部大動脈瘤に対するSG治療は,high riskな症例に対して有効と考えられ,今後さらに治療成績は向上すると考えられた.