著者
披田野 清良 大木 哲史 高橋 健太
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.2383-2391, 2013-11-15

ここ10年あまりにわたり,生体情報を秘匿して認証を行うテンプレート保護型生体認証が注目されている.しかしながら,それらの安全性に関する議論では,生体情報間の相関性により,当該情報量が減少し,保護テンプレートが漏洩した際に,生体情報の推定が容易となる可能性については必ずしも十分に言及されていない.そこで,本論文では,テンプレート保護型生体認証の一方式であるFuzzy Commitment Scheme(FCS)を用いたバイオメトリック暗号に着目し,生体情報間の相関性を考慮して保護テンプレートの安全性を評価する.FCSでは,ユーザが提示する生体情報から生成されたビット列と誤り訂正符号の符号語との排他的論理和を計算してコミットメントを作成し,これを保護テンプレートとすることにより安全性を確保している.本論文では,まず,ビット間に相関性の残る可能性が高い指紋情報に着目し,筆者らが提案する2次のRenyiエントロピーを用いた生体情報の情報量評価手法に基づき,実際に指紋ビット列のビット間には何らかの相関性があることを明らかにする.次いで,生体ビット列のビット間の相関性を利用したなりすましに関する新たな脅威としてDecodable Biometric Dictionary Attack(DBDA)を提案し,DBDAに対する安全性を理論的に考察するとともに,シミュレーション結果を交えて定量的に評価する.
著者
前田 壮志 大木 哲史 坂野 鋭
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J105-A, no.12, pp.175-178, 2022-12-01

耳認証系に対するオクルージョンの影響を,制御可能な変動を含まないデータベースに対して,画像処理的にオクルージョンを加えることで認証系に与える影響を調べた.オクルージョンとして,髪,イアフォン,イアリングを想定した人工的なオクルージョンを与えた認証実験を行ったところ,異なった画像記述子を用いた系であっても耳上部及び耳孔付近のオクルージョンの影響が最も大きいという事実が明らかになった.
著者
杉本 元輝 藤田 真浩 眞野 勇人 大木 哲史 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2095-2105, 2019-12-15

近年,プライバシ保護の観点から「忘れられる権利」の必要性が度々議論されている.本権利はEUの一般データ保護規則に「消去権」として記載されたこともあり,世界的に注目を集めており,生体認証の分野においてもこの「消去権」への配慮が求められる.その一実現形態としてテンプレートを乱数でマスクするキャンセラブル生体認証(テンプレート保護技術)が存在する.しかしこの方式では,登録された電子的な生体情報を保護することは可能であるが,登録時や認証時に提示される物理的な生体情報の漏洩まで保護することは不可能である.本論文では,物理的な生体情報に対して「消去権」に配慮した生体認証を実現するため,人間の微細生体部位を用いたマイクロ生体認証システムを爪へと応用した生体認証システムを構築した.ユーザ実験を通じて有用性を検証した結果,本システムが物理的な生体情報に対してテンプレート保護技術に準じた安全性を提供できる可能性が示された.