著者
福島 邦彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:03736091)
巻号頁・発行日
vol.J62-A, no.10, pp.658-665, 1979-10-25

パターン認識における最大の難題は,入力パターンの位置がずれたり形がゆがんだりしたときに,どのような処理を施すべきかという問題であり,この問題に対する根本的な解決法はこれまでみいだされていなかった.筆者は,動物の視覚神経系の構造からヒントを得て,この問題を解決する新しいアルゴリズムを考察し,これを実現する多層の神経回路モデル(ネオコグニトロンと呼ぶ)を構成し,計算機シミュレーションによってその能力を確認したので報告する.この神経回路モデルは,自己組織化能力をも有する.認識すべき複数個のパターンを回路に繰返し呈示しているだけで,回路は,それらのパターンを区別して正しく認識する能力を,教師なし学習によって身につけていく.自己組織化が完了した状態では,回路は,入力パターンの呈示位置がずれても,その大きさや形が多少変形しても,多少の雑音が含まれていても,正しくパターンを認識する.
著者
武田 一馬 川西 康友 平山 高嗣 出口 大輔 井手 一郎 村瀬 洋 柏野 邦夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.3, pp.58-69, 2023-03-01

本研究の目的は,多数の人物の視行動を分析することで,観衆が注目している複数の注目対象の位置の推定と,それらが注目されている度合(被注目度)を定量化することである.被注目度を推定する典型的な方法として,観衆の視線を推定し,その視線と物体の位置を対応付けることで,被注目度を推定することが考えられる.その場合,機器を設置するコストや手間をふまえると,観衆全体を一度に撮影した映像から視線を推定することが望ましい.しかし,このようにして撮影した映像から切り出した顔画像の解像度は観客ごとに撮影した場合と比べて小さく,視線推定精度は低い.そこで本論文では,低解像度でも比較的推定しやすい顔向きの時系列データを入力とし,これらを時空間的に統合することで,観衆が複数の注目対象を注視する状況下で注目対象の位置と被注目度を同時に推定する手法を提案する.提案手法の有効性を確認するため,アイドルのライブ公演を模したデータセットを構築し,注目対象の位置及び被注目度の推定精度を評価した.実験結果から,提案手法により比較手法と比べて被注目度の推定精度が向上することを確認した.
著者
榎田 翼 若槻 尚斗 水谷 孝一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J96-A, no.5, pp.197-204, 2013-05-01

本論文は,金管楽器において吹鳴圧力に加え唇のアパチュアを変化させたときの吹鳴音高を計測することで,吹鳴圧力とアパチュアが吹鳴音の音高に与える影響を明らかにすることを目的とする.具体的にはアンブシュア可変機構を有する人工吹鳴装置を用いて,吹鳴圧力とアパチュアの大きさを制御しながら吹鳴音の計測を行った.結果として吹鳴圧力とアパチュアの相互関係により励起される吹鳴音の周波数が決定されることを確認した.また,アパチュアの大きさを徐々に大きくしていく場合と小さくしていく場合では吹鳴音の周波数が遷移するアパチュアの大きさが異なるという結果が得られた.更に,アパチュアを小さくすれば吹鳴音の周波数が高くなるという奏者の見解とは逆に,人工吹鳴においてアパチュアを大きくしたときに吹鳴音の周波数が高くなるという興味深い結果が得られた.
著者
辻川 剛範 杉山 昭彦 花沢 健 梶川 嘉延
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.2, pp.21-39, 2023-02-01

前後方向マイクロホン配置を用いた車載用高性能マイクロホンアレーシステムを提案する.車室内でマイクロホン配置に課せられる制約を利用して,業界標準の左右方向マイクロホンアレー軸を90度回転して前後方向とすることにより,雑音源方向に投影されたアレー軸に関する話者方向指向性の虚像を,雑音源と異なる方向に向ける.話者方向指向性の虚像が雑音方向と重なることがないので,音声と雑音を方向で区別することが可能となり,少ない音声歪で高い雑音抑圧度を達成できる.最初に,左右方向のアレー軸を有する2マイクロホンアレーで,アレー軸に関して投影された話者方向指向性の虚像に重なる方向の車室内雑音が抑圧できないことを,マイクロホン信号間相対位相の解析を通じて示す.続いて,車室内で録音した信号によるシミュレーション結果を用いて,提案するマイクロホンアレーシステムが従来のマイクロホンアレーシステムより雑音抑圧量を最大7dB,単語正解精度を最大13%改善することを示す.
著者
加瀬 嵩人 能勢 隆 千葉 祐弥 伊藤 彰則
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J99-A, no.1, pp.25-35, 2016-01-01

近年,非タスク指向型の音声対話システムへの需要が拡大しており,様々な研究がされている.それらほとんどの研究は言語的な観点から適切な応答の生成を目指したものである.一方で人間同士の会話においては,感情表現や発話様式などのパラ言語情報を効果的に利用することにより,対話を円滑に進めることができると考えられる.そこで我々はシステムの応答の内容ではなく,応答の仕方に着目し,感情音声合成を対話システムに用いることを試みる.本研究ではまず,適切な感情付与を人手により与えた場合に実際に対話システムの質が向上するかを複数のシナリオを作成して主観基準により評価する.次に,感情付与を自動化するために,システム発話に応じた付与とユーザ発話に協調した付与の二つの手法について検討を行う.評価結果から,感情を自動付与することで対話におけるユーザの主観評価スコアが向上すること,またユーザ発話に協調した感情付与がより効果的であることを示す.
著者
市川 淳 大倉 光輝 秋吉 政徳
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.7, pp.208-213, 2023-07-01

相手の振る舞いへの同調は,自身にポジティブな印象を抱かせる.本研究では,エージェントの汎用的な非言語同調機能を提案する.実験の結果,付属するLEDランプが発話の基本周波数に同調して点滅することで,傾聴の印象評価が高まる傾向が見られた.
著者
嵯峨山 茂樹 板倉 文忠
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J83-A, no.11, pp.1244-1255, 2000-11-25

線形予測符号化(LPC)分析と複合正弦波モデル化(CSM)分析の間にあるエレガントな関係(ここではこれを対称性と呼ぶ)について述べる.目的は,LPC,PARCOR,CSM,線スペクトル対(LSP)などの音声スペクトルモデル化の理論に統合的な視点を与えることにある.これらの分析法はいずれもモデルの自由度に等しい個数の低次の自己相関関数を与えられたとき,モデルのパラメータを求める問題となっているが,LPCもCSMも,直交多項式の理論の観点から見ると,音声のパワースペクトル密度関数を重み関数として定義される単位円周上の直交多項式の理論(LPCの場合)及び実軸上の直交多項式の理論(CSMの場合)であり,定式化,各種のパラメータの定義,解法アルゴリズムなどに関して美しい対称性が成り立つ.また,直交多項式の観点からLSPに対して新しい解釈を与える.
著者
木下 英明 木村 真一 福田 盛介
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.6, pp.197-200, 2023-06-01

天体着陸を目的とする宇宙機では,LiDARにより地表モデルを作成し,安全な着陸を図る例が存在する.本報告では,電力リソースの限られる宇宙機における,SNN(Spiking Neural Network)を活用した低電力なLiDAR信号処理の可能性を検証した結果を示す.
著者
鵜沼 亘 間邊 哲也 相原 弘一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.2, pp.40-56, 2023-02-01

本論文では,Wi-Fi RTT (Round Trip Time)を用いた測距ベースの位置特定手法であるLaterationにおいて,測距性能がどのようにして位置特定性能に影響を与えるかを調査し,調査により得られた結果を踏まえて策定したアクセスポイント選択方法に基づき,屋内廊下を対象とした位置特定性能評価を行っている.その結果,適切なアクセスポイントの選択により,今回の評価環境では,高品質な位置情報サービスに利用可能な性能が得られることを示している.また,アクセスポイントの数が減っても,位置特定性能を維持し,なおかつ,Wi-Fi RSSI (Received Signal Strength Indicator)を用いたScene Analysisと同程度若しくはそれ以上の性能が得られることを示している.更に,その他の条件においてもアクセスポイントの選択によって位置特定性能を改善できるという結果を得ている.このことから,アクセスポイント数が減ることによるコストの削減,データベースの構築・更新に要する労力の削減が期待できる.
著者
上野 浩太 林 正博 竹内 凌也
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.4, pp.158-170, 2023-04-01

本論文では,信頼性制約下での通信ネットワーク最適化問題(以下単に「最適化問題」と呼ぶ)について新たな定式化を提案する.まず,通信ネットワークの信頼性研究には二種類のアプローチがあることを指摘する.一つはグラフ理論的アプローチであり,もう一つは通信経路に着目したアプローチである.後者の方が一般的・汎用的と言えるが,最適化問題に関する既存研究は,全て前者のアプローチに基づいている.本研究が,初めて通信経路に着目したアプローチの下での最適化問題を検討する.具体的には,実現可能な通信経路の集合から,一定の信頼性を保証しつつ最もコスト最小となる部分集合を自動的に生成する問題を検討し,その数学的定式化と二つの解法を提示する.解法の一つは総当たりによる方法であり,もう一つは2分木探索に基づく.最後に数値実験結果を示す.
著者
間邊 哲也 鮒谷 知也
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J105-A, no.8, pp.96-105, 2022-08-01

本論文では,スマートウォッチを含む歩行者ナビゲーションシステムにおいて,案内性能と安全性の両観点で比較評価実験を行う.まず,スマートウォッチで提示する案内情報の異なる3種類の評価用システムを構築する.次に,スマートウォッチの有無による歩行者ナビゲーションシステムの評価実験を行い,歩行者ナビゲーションシステムを利用するユーザの多くが必要とする通知,推奨方向,補足情報のみをスマートウォッチで提示することで,案内性能と安全性が両立できる可能性を示す.最後に,画面表示を含むスマートウォッチによる歩行者ナビゲーションシステムの評価実験を行い,スマートウォッチに多くの案内情報を提示すると,安全性だけでなく,案内性能も低下することを示す.以上のことから,スマートウォッチを含む歩行者ナビゲーションシステムにおいて案内性能と安全性を両立するためには,ユーザにとって真に必要な情報(分岐点での通知,推奨方向,補足情報)のみに限定して提示することが重要な要件の一つであることを明らかにする.
著者
清水 大地 児玉 謙太郎 関根 和生
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J104-A, no.2, pp.75-83, 2021-02-01

上演芸術の一つの魅力として,複数名の演者間に生じる複雑な関わり合いが挙げられる.近年では,この関わり合いの特徴を同期・協調の理論を適用し,定量的に検討する試みが営まれつつある.以上の研究は,主に単独の表現チャンネル(頭のリズム運動,歌声,腕の運動等)を対象とし検討を行ってきた.一方で上演芸術では,表情,ジェスチャー,リズム運動等のように複数の表現チャンネルを通して演者達が関わり合う様子が観察されており,その過程に魅力が含まれるとする理論的提案もなされつつある.本研究では,以上の複数の表現チャンネルを通した関わり合いの探索的・定量的検討を試みた.具体的には,近年演者間の同期・協調の検証対象として着目されている競争的場面としてフリースタイルラップバトルを対象とし,熟達したラッパー2名の関わり合いを手,頭,腰の同期・協調の様相に着目して測定・解析した.結果,複数の表現チャンネルにおいて演者間の同期が生起する様子,手では同位相同期,頭・腰では逆位相同期と演者間の同期の様相がチャンネルにより異なる様子,手と頭・腰を異なる役割を担うチャンネルとして利用していた様子,が観察された.
著者
石川 智治 冬木 真吾 宮原 誠
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J80-A, no.11, pp.1805-1811, 1997-11-20

音質評価語の調査・収集を行い,それらをKJ法によりグループ化し,30語の代表評価語を得て既に発表した.その後,評価実験の結果を踏まえて,再整理と追加による改善を行い代表評価語を35語に集約した.本論文は以下のことについて示す.1.その改善の内容,2.得られた代表評価語(35語)の心理的距離のMDS法による解析と四つのクラスタへの分類,3.クラスタ化とは独立に行った,衆目評価法による代表評価語のランクづけ,4.分類した各クラスタと衆目評価法で得られた結果をつき合わせて総合音質に重要な代表評価語の選出を行った.
著者
児玉 謙太郎 牧野 遼作 清水 大地
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J102-A, no.2, pp.26-34, 2019-02-01

本研究では,じゃんけんというマルチモーダルなコミュニケーションにおいて,音声による聴覚情報が参与者間の身体の協調・同期に及ぼす影響を実験的に検討した.その際,力学系アプローチという視点からコミュニケーションを自己組織化現象と捉えた.そして,コミュニケーション過程を参与者間の知覚情報を介したリアルタイムな行為の調整過程とみなし,身体協調を非線形時系列解析により評価した.実験により「最初はグーじゃんけんぽん」という掛け声を発する通常条件と掛け声を発しない声なし条件を比較した結果,じゃんけんの最終段階での参与者2名の手の振り降ろしの時間差には,条件間で有意な差はみられなかった.一方,行為の開始から終了に至る過程の参与者の手の協調における安定性と予測可能性に有意な差がみられ,通常条件のほうが,参与者間の手の協調が安定し,予測可能性が高い動きをしていたことが明らかとなった.これらの結果から,ヒトは数秒という短い時間に行われるコミュニケーションであっても,1)聴覚情報が利用できない条件では参与者らはリアルタイムに視覚情報を利用し,結果的に同期を達成できるよう柔軟に振る舞うこと,ただし,2)その行為の調整過程での身体の協調には聴覚情報が影響すること,が示唆された.
著者
松田 圭悟 大山 航 若林 哲史
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J100-A, no.12, pp.435-443, 2017-12-01

本研究では,訓練偽筆を含まない学習データを用いた組み合わせ分割署名照合法を提案する.提案手法は,まず,ペン先のx, y座標,筆速,筆圧の時系列で構成されるオンライン署名情報を入力し,筆速,筆圧をそれぞれストローク幅,濃度値に反映させた署名画像を生成する.次に,オンライン署名時系列及び生成された署名画像のそれぞれをストロークの重心位置で分割する.入力されたオンライン署名時系列及び生成された署名画像とそれぞれの分割署名をオンライン用,オフライン用の手法で照合し,照合スコアを判定用SVMで真偽判定する.判定用SVMの学習には真筆同士,真筆と偽筆の照合スコアを含む学習用データを用いる必要があるが,本論文では偽筆クラスの学習サンプルとして第三者の真筆を用いるランダム偽筆学習を提案する.また,偽筆サンプルの削減のために,One-class SVMとk-meansクラスタリングを用いた効果的なサンプリング手法も提案する.多言語署名を含むSigCompデータセットを用いた評価実験の結果,訓練偽筆を含む学習用データセットを用いて学習した場合と同程度の精度の署名照合が実現できた.
著者
谷 賢太朗 伊藤 尚 前田 義信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.3, pp.274-283, 2015-03-01

災害時に教室から多数の生徒が避難する場合,被害を小さくするには全員が避難を終えるまでの時間(避難完了時間)を最小にすることが重要である.そのための方法は,1)避難者自身の行動方法を変えること,2)教室の空間構造を変えること,の2点である.本研究では,前者の観点から避難者が進路を譲り合うことを考慮し,理論計算によって2人の避難者の衝突状態が解消されるまでの時間を最小にする譲り合い確率が=-1であることを示した.続いてマルチエージェントシミュレーションによる2人以上の避難者の教室からの避難について考察し,避難完了時間が最小となるのが近傍であることを示した.更に後者の観点から教室の出口の広さや数を2ヶ所に変えた場合についても調べ,避難時間が短縮されることを示した.出口の数を2ヶ所にした場合,出口間の距離が近すぎると避難時間が増加することが示唆された.
著者
松井 唯 生藤 大典 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J97-A, no.4, pp.304-312, 2014-04-01

パラメトリックスピーカは振幅変調した超音波を利用する超指向性スピーカであり,鋭い音響ビーム(可聴領域)によりオーディオスポットを実現している.しかし,特定の受聴者のみに音を届けたい場合,可聴領域は直線状となるため,壁や床などの反射,非対象者の割り込みにより対象者以外にもオーディオスポットが形成される問題点があった.ここで,振幅変調波は周波数領域においてキャリア波と側帯波の重ね合わせであり,その相互作用により可聴音が復調されることに着目する.本論文では,複数のパラメトリックスピーカよりキャリア波と側帯波をそれぞれ分離放射し,キャリア波と側帯波が重なる領域のみでオーディオスポットを形成する手法を提案する.また,提案手法では,側帯波を帯域分割して複数のパラメトリックスピーカからそれぞれ分離放射,ある領域でのみ交点を結ぶことで,側帯波同士の差音により発生する混変調ひずみを低減させ,多数のパラメトリックスピーカを利用してオーディオスポットを形成することによって再生音圧レベルの向上を行った.実環境における評価実験の結果,提案手法によるオーディオスポット形成の有効性を確認した.
著者
林 勇吾 井上 智雄
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.1, pp.76-84, 2015-01-01

本研究では,学習者ペアが協同で行う説明構築活動においてPedagogical Conversational Agent (PCA)をアドバイザとして用いた際の効果的なインタラクションのデザインについて検討する.過去の研究では,学習者の認知的負荷の増大に伴ってPCAへの注意が低下するという点やPCAの存在感の欠如の問題点が指摘されている.そこで本研究では,PCAに対する社会的存在感を促進させる方法として,複数のPCAの利用が説明活動におけるインタラクションを活性化できるかを実験的に検討した.実験の結果,複数のPCAを用いた学習者は,単独のPCAを用いた学習者よりも概念に対する深い理解を構築することができていた.更に,複数のPCAを用いた場合,(1)ポジティブな励ましを行うエージェントと(2)具体的な説明の仕方を教示するエージェントに役割を分散させた場合において,インタラクションが活性化することが明らかになった.異なる役割を担う複数のPCAを利用した本研究の結果は,協同学習支援システムの設計におけるデザイン手法に重要な示唆を与える.
著者
武川 直樹 佐々木 寛紀 木村 敦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.1, pp.93-102, 2015-01-01

本論文では,会話の順番交替時の沈黙場面において見られる音声フィラー(「えーと」,「うーん」など)と動作フィラー(髪にさわる,顎に触るなど)に着目し,これらのフィラーが沈黙の状況を修復するための役割を調べる.人同士の会話の観察結果に基づきCGキャラクタの会話シーンを作成し,作成した動画シーンを刺激として沈黙中のフィラーが伝える意味を第三者が主観評価し,沈黙におけるフィラーの役割を明らかにする.評価の結果,フィラーの表出は会話の継続に向けての誠意を示すとともに,次の話者が誰になるかを予測させることが示唆された.この成果は会話エージェント・ロボットが人と会話を行うときにより適切で丁寧な応対をするための動作デザインの第一段階として寄与するものである.