著者
鶴若 麻理 大桃 美穂 角田 ますみ
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.90-99, 2016 (Released:2017-09-30)
参考文献数
26
被引用文献数
6

本稿の目的は、在宅看取りを支援する訪問看護師による高齢者の意向確認のタイミングと援助の分析を通して、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning、以下 ACP とする)のプロセスと具体的支援を考えるものである。65歳以上で同居の家族がいる非がんの事例に絞り、3 年以上の訪問看護経験者にガイドを用いた半構造化面接を行った。対象看護師は23名で34事例を分析した。訪問看護師が意向確認をする6 つの状況(在宅ケア開始時、日々のケア、身体状況の変化、終末期、家族らの介護負担、家族の不十分な介護力)とそれに伴う18のタイミングが抽出でき、繰り返し意向確認が行われていた。看護師は心身の変化等の目にみえるタイミングに意図的に働きかけるだけでなく、ケアを通した療養者との日々の会話の中で表出される思いから、意向を引き出すタイミングに繋げていた。看護師は療養者、家族、療養者と家族の関係性に対して支援を行い、療養者の意向や希望を第一に、療養者の意思決定を促すようサポートし、療養者にあったエンドオブライフケアの提供を行っていた。本研究で見出された訪問看護師による働きかけのタイミングとそれに伴う療養者、家族、医療チームとの継続的な話し合いが ACP の具体的プロセスの一端を示していると考える。ACP を支援する看護師にとって、日常ケアを大切にし、医学的知識に裏打ちされたアセスメントから導き出される見通力と、信頼を築き療養者や家族の意思を表出させるためのコミュニケーション力が重要であると示唆された。
著者
大桃 美穂 鶴若 麻理
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.11-21, 2018-09-29 (Released:2019-08-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning、以下 ACPとする) のプロセスの中で重要な位置を占める「ケア提供者―療養者間」のコミュニケーションとケアがいつどのようになされることが療養者の望む生き方の実現と結びつきやすいのか「独居高齢者―訪問看護師間」の援助の分析を通してACPのプロセスと具体的支援を考察した。経験年数3年以上の訪問看護師26名を対象に半構造化面接を行い、提供された36事例を分析した。ACPを促進する要因として【療養者から専門職として信頼される】【療養者の意向を明らかにする】【選択肢を提示する】【不安の原因を探り軽減するよう関わる】【迅速な支援と技術で意向を実現するタイミングを逃さない】の5 つの構成要素と各要素を達成するための具体的支援を抽出した。ACPの障壁となる要因として【信頼関係が築けない】【意向がわかりづらい】【医療者の判断と療養者の意向に相違がある】【不安が解消されない】【療養者の意識レベルがクリアでない】【療養者の価値観と在宅支援方法の対立がある】の6 つの構成要素を抽出した。「ACPを促進する要因」「ACPの障壁となる要因をとりのぞくために訪問看護師が考慮すべき事項」を援助に取り入れることは、在宅ケアにおけるACPの質を担保することにつながると示唆された。
著者
大桃 美穂
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.51-58, 2012-09-19

日本では、医療機関で死を迎える患者が増加し、医療者は従来以上に望ましい死'good death'を主題化して取り組む必要が生じてきた。長年の透析生活の末に終末期を迎える維持透析患者は、いくつかの点で終末期のがん患者とは異なる問題に直面している。最も深刻な問題は、現在行っていない治療、例えば人工呼吸器装着や心臓マッサージを行わないなど、DNR (do not resuscitate)の方針について意思を表明することだけではなく、透析という長年続けてきた治療・生活を変化もしくは中止するといった現行から「差し引く」治療法の選択を考えなければならない点である。本稿では、慢性期から終末期へと向かう維持透析患者とその家族にとって、あるべき死への準備教育'death education'と看取りケアについて考察する。死への準備教育'death education'とは、人生の最期にむけて自分らしく生きること、これを患者・家族・医療者が共にめざすとりくみである。この教育が緩和ケアとして、死にゆく人特有の苦悩や苦痛の軽減に作用することを期待したい。
著者
大桃 美穂
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.111-119, 2010-09-23 (Released:2017-04-27)
参考文献数
28

透析医療に携わる現場では、長期間の維持透析生活の後に終末期を迎える患者の看取りについて検討を要するケースが増加している。本稿では維持透析患者に焦点をあて、「透析と終末期医療のあり方」を検討した。日本の医療現場では一般に事前指示書が尊重されているとは言い難い。ことに透析医療においては、透析導入から終末期を迎えるまでの長期の間に、患者個人の病状や心理も変化してゆくので、患者の意思を把握する機会をたびたび設けることが必要であると考える。医療者には患者・家族と共に個人に即した終末期医療を作り上げるという姿勢で臨むこと、患者の意思決定を支援することが求められている。実際の事前指示の運用場面では、医療者と患者の橋渡し役として、透析導入期・維持期・終末期と長期にわたる関わりの中で患者との人間関係を構築している透析看護師が担う役割が大きくなるだろうと推測される。