- 著者
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鶴若 麻理
- 出版者
- 聖路加看護大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2008
本研究では、医療における事前指示についての専門家へのヒアリング調査、および各地域の高齢者へのインタビュー調査を通して、アジア地域の高齢者が終末期医療の希望の表明方法や意思決定に関する意識を明らかにすることを目的とした。台湾では2000年5月23日に『安寧緩和医療條例』が制定され、一方、シンガポールでは、1996年にアドバンス・メディカル・ディレクティブが法制化されているが、どちらの地域ともに、普及率が極めて低い現状であった。二つの地域の専門家へのヒアリング調査から、死をタブー視する傾向、医師と家族が最も良い決定をしてくれるという考えや、最後まで最善の治療を望んでいるという傾向が、普及率のきわめて低い要因となっていることが明らかになった。今後の課題としては、市民や医療者への教育プログラム、医療従事者の中立的立場での適切で十分な情報提供が求められていた。三つの地域の高齢者へのインタビュー調査からは、終末期医療への希望を話すことへの心理的抵抗とともに、語りたいという葛藤が交錯していた。また文章化することへの抵抗感、相談できる医師の不在、終末期の想像の困難さが共通してあげられた。作成した文書が医療現場で適切に扱われるかという点と、作成したことで適切な治療を受けられなくなるという不安をあわせもっていた。さらに作成する意味として、患者の権利であるという捉え方よりはむしろ、家族の負担の軽減という考えを有していた。専門家による的確な情報提供や相談システムの構築や教育プログラムが求められる。