著者
村上 てるみ 西村 敏 舟塚 真 新宅 治夫 一瀬 宏 大澤 眞木子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.E663-665, 2013-07

瀬川病は14q22.1-q22.2に存在するGTPシクロヒドロラーゼI(GCH1)遺伝子異常に起因する常染色体優性遺伝性ジストニーである。典型例では6歳をピークに下肢姿勢ジストニアで発症し筋固縮の進行は10歳代後半までみられるが以後緩徐になり30歳代では定常状態となる疾患である。日内変動は小児期には著明であるが20歳代後半には徐々に消失することが知られている。多くの患者が症状の日内変動に気づかれず脳性麻痺などの診断を受けている。今回私たちも脳性麻痺と診断を受けていたが問診により症状に日内変動があることに気付き遺伝子検査にて瀬川病と確定診断しL-dopaが著効した1例を経験したので報告する。,症例は17歳女性で 家族歴, 既往歴, 発達歴に特に問題は認めなかった。6歳時に左足の尖足、歩行障害、 姿勢の異常出現、症状の増悪を認めたため当科を受診した。問診にて歩行障害、姿勢の異常には日内変動があることが判明した。 脊髄・頭部MRIでは異常を認めず、臨床症状と日内変動を認めるという問診より瀬川病を疑った。 髄液中のネオプテリン、バイオプテリンの低値と血球中のGTPシクロヒドラーゼI(GCH1)酵素活性低値、さらにGCH1遺伝子異常を認め瀬川病と確定診断した。 L-dopa内服で速やかに完全寛解し10年経過するが副作用なく持続している。診断のきっかけは朝夕での症状の違いを具体的な例をあげて母親に質問したことで症状に日内変動があることがわかった。具体例を挙げての詳細な問診は診断の一助となることを再認識した1例であった。,
著者
杉田 依里 平澤 恭子 花谷 あき 鷲尾 洋介 戸津 五月 増本 健一 中西 秀彦 内山 温 楠田 聡 櫻井 裕之 大澤 眞木子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.E317-E322, 2013-01-31

BCG接種時に皮膚裂傷を来たしたことを契機にEhlers-Danlos症候群(EDS)と診断された超早産児の臨床経過について報告する。児は、母体の前期破水と絨毛膜羊膜炎のため、在胎期間27週6日、出生体重1100g、帝王切開で出生した。日齢1に左脳室内出血(IVH)I度を認め、日齢4には両側IVH II度へ急速に進行し、日齢17より出血後水頭症を認めた。脳室ドレナージ術のための予定気管挿管時に、胸膜下気胸を合併し緊張性気胸に進行した。また、日齢85の頭部MRI検査で出血後水頭症の所見に加えて、側脳室内側にくも膜嚢胞を認めた。NICU退院後の発達外来の定期経過観察では低緊張による発達の遅れが認められた。8ヶ月(修正5ヶ月)時、左鼡径ヘルニアの根治術を施行し、術中、皮膚切開創が自然拡大したエピソードがあった。9ヶ月(修正6ヶ月)時、外来でBCG接種を施行した際に皮膚裂傷を生じた。皮膚裂傷に対し、形成外科で縫合術と皮膚組織生検を行った。この病理所見とビロード状の皮膚や低緊張、関節可動域の亢進などの身体所見からEDSと診断した。新生児期の経過を再検討し、IVH、胸膜下気胸、くも膜嚢胞の合併は原疾患に起因する可能性があると考えられた。EDSの超早産児では、新生児期より組織脆弱性に起因する様々な合併症が起こり得ることが示唆された。
著者
白戸 由理 中野 和俊 中山 智博 大澤 眞木子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.E91-97, 2013-01

【目的】,従来ミトコンドリア(Mt)は細胞外では培養不可能とされてきた。中野らはヒトの血小板とHela mitochondria-less (Rh0)を融合させたCybrid細胞を形質変換させ、Mtの性質を保ちながら核のない細胞株の分離・増殖に成功し、ミトコンドリア細胞(MitoCell)と命名した。MitoCellの生物学的特性を見いだすため、エネルギー代謝の検討を行った。,【対象・方法】, MitoCellの嫌気培養は嫌気培養キットでO2濃度を0.1%以下とし、CO2濃度が21%前後、温度は37℃で培養し光学顕微鏡にて観察した。次に、エネルギー代謝経路の検討のため、MitoCellのTCA回路のクエン酸合成酵素(CS)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、サクシネート脱水素酵素(SDH)、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)とピルビン酸脱水素酵素(PD)をウエスタンブロット法により解析した。さらに、MitoCellの電子伝達系酵素(ETE)活性とTCA回路の酵素活性と検討するため、Cybrid細胞を対照としてETEである複合体II+III、IVとCS活性を測定した。,【結果】,MitoCellでは嫌気的環境下でも4週間の観察で生存・増殖が認められた。ウエスタンブロット法ではMitoCellのCSのみが陽性、PD、MDH、IDH、SDHが陰性であった。酵素活性では、MitoCellは複合体II+III、IVの活性は保たれているがCS活性は欠損していた。,【考察】,MitoCellではTCA回路が好気的代謝経路として機能していない可能性が示唆され、嫌気的代謝経路の関与が推測された。MitoCellが真核細胞であるヒト細胞から形質変換したことを考えると、ヒトの核DNAには嫌気的代謝遺伝子が保存されていると推測され、嫌気的代謝経路が賦活化されたとも考えられる。臨床上がん細胞は体内において低酸素下で存在し嫌気的代謝の関与が示唆されている。MitoCellのエネルギー代謝経路の解明は、がん細胞の治療に繋がる可能性が考えられた。,【結論】MitoCellでは嫌気的環境下でも生存・増殖が認められ、低酸素下で存在し嫌気的代謝の関与が示唆されているがん細胞の性質と関連している可能性が示唆された。
著者
村杉 寛子 永木 茂 大澤 眞木子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.Extra, pp.E205-E211, 2013-01-31

医学部小児科学教室 大澤眞木子教授退任記念特別号
著者
村杉 寛子 永木 茂 大澤 眞木子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.E205-211, 2013-01

夜尿症90例の臨床検討を行った. 初診時年齢の分布は,6歳と9歳に2峰性のピークがみられ,男女比1.7:1,男児に多くみられる傾向にあった.一次性夜尿は88例,二次性夜尿は2例.病型分類できた83例のうち多尿型41例(49.4%),混合型42例(50.6%)であった.治療の選択薬剤は抗利尿ホルモン 44例, 抗コリン薬40例,三環系抗うつ薬34例,またアラームは4例で使用した(重複あり).生活指導のみで経過観察した症例は9例,尿失禁の回数が多く早めに泌尿器科に紹介を要した例は5例,中断は4例であった. 合併症は発達障害を17例(18.9%)(PDD6例,ADHD7例,LD3例 ,MR1例),チック2例(2.2%),てんかん4例(4.5%),脳室周囲白質軟化症1例(1.1%),Becker型筋ジストロフィー1例(1.1%),心疾患3例(3.3%)(部分肺静脈還流異常症,三尖弁閉鎖症,肺動脈狭窄症),アレルギー疾患19例(21.1%)(気管支喘息17例,アトピー性皮膚炎2例,アレルギー性結膜炎2例),その他3例(3.3%)(乳児神経芽細胞腫,多発奇形症候群,歌舞伎症候群)合併なし40例(43.3%)であった. 発達障害を伴った17例,発達障害以外の基礎疾患のある33例,基礎疾患のない正常発達の40例の3群につき比較した.性別,年齢,早朝尿浸透圧,病型については有意差を認めず,また抗利尿ホルモン選択率,三環系抗うつ薬選択率,昼間尿失禁,長期効果についても3群間の有意差は認められなかった.治療終了までの期間に関しては,発達障害のある群の方が治療終了までの期間は有意に長かった.