著者
大野 芳裕
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.33-39, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
4

慢性上咽頭炎症例73例に対して,生理食塩水による鼻うがいを併用し,1%塩化亜鉛を上咽頭粘膜に塗布する上咽頭擦過療法(EAT)を施行した.治療前後に自覚症状のアンケート調査を行い,電子内視鏡の上咽頭所見を比較して治療効果を検討した.主訴の改善率は79.5%,局所所見の改善率は87.7%であった.アンケート用紙に記載のある,頭痛・後鼻漏・咽喉頭違和感・咽頭痛・肩こり・耳鳴・耳閉感・めまい・咳のうち,耳鳴以外のスコアは有意差をもって改善した.内視鏡による局所所見の改善度と主訴スコアの改善の程度との関連において有意な相関が認められた.慢性上咽頭炎に対してはEATを含む局所療法が有用であることが示唆された.
著者
大野 芳裕 國弘 幸伸
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.50-56, 1999-02-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
8
被引用文献数
1

上咽頭炎68例に対する局所治療 (上咽頭処置およびネブライザー療法) の治療効果につき検討した。治療前後における局所の炎症の程度の判定は, 硬性内視鏡を用いて撮影したビデオ画像により行つた。また自覚症状の変化は, 治療前後に行つたアンケート調査の結果を基に評価した。主訴としては, 咽頭痛 (22.1%) が最も多く, 次いでめまい (19.1%), 咽頭異物感 (14.7%) の順であつた。これらの症状の他にも, 後鼻漏, 肩こり, 頭痛, 耳鳴, 咳嗽, 発熱 (不明熱), 頸部痛, 耳閉感, 咽頭乾燥感, 全身倦怠感など, さまざまな症状がみられた。主訴となつた症状は, 治療後に86.8%の症例で改善がみられた。主訴以外の症状に関しても, それらのすべてにおいて有意な改善が得られた。局所所見の改善率は60.3%であつた。自覚症状と局所所見の改善の有無の間には有意な相関が認められた。以上の結果から, 上咽頭炎に対しては局所治療がきわめて有効であると考えられた。日常臨床においては, 常に本疾患を念頭に置き, 診断と積極的な治療が行われるべきであると思われる。
著者
大野 芳裕
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.163-172, 2021 (Released:2022-06-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

慢性上咽頭炎は,後鼻漏・咽喉頭違和感・慢性咳嗽・頭痛・めまい・肩こりなど不定な症状を呈するため,本疾患に着目しないと見逃される可能性がある.慢性上咽頭炎に対しては上咽頭粘膜を塩化亜鉛溶液で擦過する,上咽頭擦過療法(Epipharyngeal AbrasiveTherapy:EAT)が有効とされている.そこで今回慢性上咽頭炎症例92名に対して,1%塩化亜鉛溶液によるEATを施行した.患者には原則として生理食塩水による上咽頭洗浄を併用した.治療前後に鼻咽腔内視鏡所見の重症度分類と自覚症状のアンケートならびにNumerical Rating Scale(NRS)を施行し,局所所見および自覚症状の治療効果を検討した.局所所見の重症度は,上咽頭粘膜の発赤・腫脹を4段階でスコア化し,後鼻漏・痂疲を認める場合に加点した.自覚症状は,治療前後に主訴を含む各症状(後鼻漏,咽喉頭違和感,咽頭痛など)のアンケート(4段階)と全身状態のNRS(10段階)による評価を行い統計学的に解析した.改善率は局所所見72.8%,主訴88.0%,NRS 79.3%で,局所所見と主訴の改善との間に有意な関連を認めた.慢性上咽頭炎に対するEATの有効性が示唆された.
著者
大野 芳裕
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.138-145, 2022 (Released:2022-07-20)
参考文献数
8

慢性上咽頭炎154例に対して上咽頭擦過療法(EAT)を施行し,自覚症状および内視鏡所見の評価を行った.現在上咽頭擦過療法検討委員会による前向き研究(前向研)が行われており,内視鏡所見では色調,腫脹,粘液付着・後鼻漏,擦過時の出血を3段階で評価する方法となった.以前の検討(2020研)では発赤(色調),腫脹を4段階で評価したため,これを前向研の評価法に当てはめて比較検討した.前向研では色調,腫脹の改善率は54.6%,48.6%であった.合計スコアの改善率は2020研94.2%,前向研93.5%で,出血を除いた合計スコアの改善率はそれぞれ81.8%,75.3%となった.いずれの検討でも発赤・出血・合計スコアの改善と主訴の改善との間に有意な相関を認めた.今回は2020研から症例数を増やして治療効果の再検討も行った.
著者
大野 芳裕
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.430-434, 1998-08-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
12

外耳道真菌症14例 (0歳から72歳, 平均41.0歳) に対してラノコナゾール (アスタット®) 軟膏外用療法を行いその有効性を検討した。治療としては外耳道内の清掃後, ラノコナゾール軟膏を綿棒にて鼓膜から外耳道深部を中心に週に1~2回程度塗布し, 視診上真菌が消失するまでの期間を観察した。ほとんどの例は2~4回までの処置で真菌は消失し, そのうち6例は1回の処置のみで真菌が消失し再発例は1例も認めなかった。ラノコナゾールはAspergillusやCandidaに対して高い抗真菌活性を示す。また基剤である油脂性軟膏は皮面保護作用を有し, 粘性が高いために長時間にわたり薬剤が局所に留まるという効果がある。これらの点で優れた治療効果を発揮したものと考えられ, 湿潤・びらんを示す例を含めた外耳道真菌症の治療に有用であると思われた。
著者
今西 順久 藤井 正人 徳丸 裕 菅家 稔 冨田 俊樹 神崎 仁 大野 芳裕 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.5, pp.602-614, 1998-05-20
被引用文献数
14 5

目的:今後の中咽頭癌に対する治療方針決定の参考にすべく,その予後因子の解析及び治療方針と成績に関する統計学的検討を行った.<br>(対象)1981年7月から1996年6月までの15年間に当科で治療した中咽頭扁平上皮癌91鯛,性別は男性83例,女性8例,年齢分布は29歳から84歳,平均62.7歳であった.病期分類は1期:11例,II期:12例,III期:30例,IV期:38例,進行期(III+IV)が納7500を占めた.原発巣に対する一次治療の内訳は,化学療法併用例とsalvage surgery施行例を含む根治照射群が72例,術前照射と術後照射施行例を含む根治手術群が14例,化学療法単独群が5例であった.NeoadjuvantChemotherapy(NAC)は50例に施行された.<br>(方法)単変量解析として背景因子別に粗累横生存率を箪出し,Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析により予後因子の独立性及びハザード比を検討した.また根治照射群と根治手術群の一次治療方針別,さらにNACの有無別及び効果甥に生存率を比較検討した.<br>(結果)全体の5年生存率は55.6%で,単変量解析では(1)T分類(p=0.0075),(2)年齢(p=0.0274),(3)亜部位(p=0.0400)が予後因子と考えられ,多変量解析の結果T分類が独立した予後因子と判定された(p=0.0253).治療方針別生存率の検討に統計学的有意差は認められなかった.再発に対するsalvage surgeryが根治照射群の生存率の向上に寄与しており,特に上壁型は適応が高いと考えられた.NACの葵効率は85.44%と良好であったが,生存率改善に寄与した統計学的証明は得られず,効梁別の比較でも奏効群と非奏効群の生存率に有意差は認められなかった.<br>(結論)今後の治療成績向上のためには,予後不良因子である(1)T4,(2)70歳以上,(3)前壁型に短する治療を強化する必要があると同特に,積極的かつ適切なsalVage surgeryが不可欠である.放射線療法の占める比重は大きいがその適応と限界を正確に見極めるべきである.