著者
藤井 正人
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.390-393, 2012-12-25 (Released:2013-01-15)
参考文献数
5
被引用文献数
1

近年,中咽頭癌におけるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が問題となっている。特に米国においては中咽頭癌の罹患率が増加しているが,その原因としてHPV陽性の中咽頭癌が増加していることが指摘されている。一方,HPV陽性の中咽頭癌はその発癌メカニズムの違いにより,生物学的な悪性度が異なることが指摘されている。今回,頭頸部癌基礎研究会において,中咽頭癌のHPV感染に関して全国レベルでの調査研究を行い,わが国の中咽頭癌症例におけるHPV感染の現状を調査した。本研究は頭頸部癌基礎研究会にて行い,2009年5月に症例の登録が開始された。HPVの検出はPCRとハイブリッドキャプチャーII法(HC2)で行った。中咽頭癌症例は157例登録され対照として正常扁桃112例が登録され解析された。対照症例のうち,HPVは1例に検出され112例は陰性であった。すなわち陽性率は0.9%であった。中咽頭扁平上皮癌の157例では79例においてPCRでHPV感染が検出されHPV感染率は50.0%であった。HPVのタイピングではHPV16が70例で88.6%を占めた。HPV感染の有無による臨床的特徴について,HPV陽性ではStage IVの割合が多く,組織学的に低分化の傾向がみられた。発生部位では側壁が92.4%とほとんどを占めた。喫煙と飲酒に関しては,HPV陽性例で非喫煙,非飲酒の割合が多かった。次にStage IIIとIVについて治療法別に予後を検討したところ全生存率でHPV陽性例が陰性例に比較して予後が良好である傾向が認められた。スクリーニングとして行ったHC2法とPCRを比較したところ感度93.7%,特異度96.2%であった。今回の研究で,わが国の中咽頭扁平上皮癌におけるHPV陽性率は50%であることがわかりその臨床的特徴も欧米で報告されているものと同様である結果となった。
著者
藤井 正人 神崎 仁 大築 淳一 小川 浩司 磯貝 豊 大塚 護 猪狩 武詔 鈴木 理文 吉田 昭男 坂本 裕 川浦 光弘 加納 滋 井上 貴博 行木 英生
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.225-231, 1994-03-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
8

セフポドキシムプロキセチル (CPDX-PRバナン錠®) は三共株式会社が開発した経口用セフェム系抗生物質で広範囲な抗菌スペクトルムを有するのが特色である. 今回, われわれは耳鼻咽喉科領域の感染症に対する有効性と安全性を検討した. 166症例に対して CPDX-PRを症状に応じて一日200mgないし400mg分2投与を4日以上最大14日間投与した。著効が51例, 30.7%にみられ, 有効例は68例, 41.0%にみられた. 疾患別では急性扁桃炎と急性副鼻腔炎が高い著効率を示した. 慢性中耳炎の急性増悪, 急性咽頭炎では高投与量で良好な効果を示した. 自覚的症状の改善度では, 咽頭痛の改善が良好な結果であつた. 投与前後の細菌検査を行つた20例30株では菌消失率では77%と良好な結果であつた. 副作用は1例に発疹が見られたのみであつた. 以上よりCPDX-PR は耳鼻咽喉科感染症に対して高い有効率と安全性を示すと考えられた.
著者
藤井 正人
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 = Journal of humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.115, pp.51-105, 2020

ウパニシャッドは, 古代インドの宗教儀礼文献であるヴェーダの中に現れた一群の哲学書である。その最古のものと考えられるのが, 本稿で取り上げる『ジャイミニーヤ・ウパニシャッド・ブラーフマナ』(Jaiminīya-Upanisad-Brāhmana [JUB])である。ヴェーダ祭式の歌詠部門(サーマ・ヴェーダ)に所属するジャイミニーヤ派の文献として, 祭式歌詠(サーマン)に関する哲学的な思弁を主な内容としている。JUBは, 先行するブラーフマナ文献のように個々の祭式や歌詠を具体的に記述することはほとんどなく, 祭式や歌詠をめぐって, あるいはそれらを離れて, 再生説を含むさまざまな哲学的思弁を展開している。同じくサーマ・ヴェーダ所属のカウトゥマ・ラーナーヤニーヤ派の『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』と, テキストと内容において近い関係にある。ジャイミニイヤ派内ではウパニシャッドとして扱われているが, ヴェーダの学派伝統の外にあってウパニシャッドを聖典として奉じる後世のヴェーダーンタ学派からは, 『ケーナ・ウパニシャッド』の部分(JUB 4.10.1–4 [4.18–21])を除いてウパニシャッドとは見なされなかった。この文献がヴェーダの文献成立史の中で最初のウパニシャッドとしてどのように生まれてきたか, その誕生の全体像を描くことが本稿の目的である。そのために, 以下の論点について順に考察していく。1. この文献は何を中心テーマとしているのか。2. それ以前の文献ではその中心テーマは扱われていたのか, いなかったのか。3. この文献がそれを中心テーマとする背景はなにか。4. この文献はその中心テーマからどのような思想を展開したのか。5. この文献を作り出したのがなぜこの学派(ジャイミニーヤ派)であったのか。6. この文献を最初のウパニシャッドと見なしうる根拠は何か。The Upanis. ads are philosophical texts produced in the Veda, a huge complex of ancient Indian ritual texts. The Jaiminīya-Upanis. ad-Brāhman. a [JUB] is the earliest of the texts which were produced as Upanis. ads in the history of Vedic literature. The JUB as a text belonging to the Jaiminīya school of the Sāmaveda, `the knowledge (veda) of sacred ritual chants (sāman)' has philosophical speculations about the ritual chants as its main contents. Unlike the preceding Brāhman. a texts, this text does not describe the details of the rituals and chants, but extends various philosophies including rebirth theories, in connection with, or apart from, the ritual and chants. It has a close relationship in texts and contents with the Chāndogya-Upanis. ad belonging to the Kauthuma-Rān. āyanīya school of the Sāmaveda. Though the JUB has been treated as an Upanis. ad inside the Jaiminīya school, it has not been acknowledged to be an Upanis. ad proper by the Vedāntins who, being outside the Vedic schools, worship the Upanis. ads as their highest authority, with the exception of the Kena-Upanis. ad portion (JUB 4.10.1–4 [4.18–21]). The purpose of this article is to elucidate the overall picture of the birth of the JUB as the first Upanis. ad in the history of Vedic texts. For this purpose, the following points will be discussed: 1. What is the main theme of the JUB? 2. Is the main theme of the JUB treated in its proceeding texts or not? 3. What is the background for the main theme of the JUB? 4. What kind of philosophies does the JUB develop from the main theme? 5. Why did the Jaiminīya school, not other schools, produce the JUB? 6. What are the gounds and criteria for judging the JUB as the first Upanis. ad?
著者
津田 孝範 藤井 正人 渡邉 美栄 中莖 秀夫 大島 克己 大澤 俊彦 川岸 舜朗
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.475-480, 1994
被引用文献数
2

本金時抽出物の抗酸化性について食品レベルで抗酸化効果を示すかどうか検討した.<BR>(1) 本金時抽出物は,リノール酸モデル系において強い抗酸化性を示し, α-トコフェロールと同等かそれ以上の抗酸化性を示した.<BR>(2) 本金時抽出物は,クエン酸との間に強い相乗効果を示すが, α-トコフェロールとの間には,顕著な相乗効果を示さなかった.<BR>(3) ラードを用いたAOM試験においても本金時抽出物は強い抗酸化性を示し,クエン酸との間に強い相乗効果が認められた.従って,本金時抽出物を食品加工へ利用するときには,クエン酸を同時添加することが効果的であると考えられた.<BR>(4) 本金時抽出物を,ラードを用いたビスケットに添加したところ効果的にPOVの上昇を抑制し,クェン酸を同時添加すると更に強い抗酸化効果が認められた.<BR>(5) 本金時抽出物とクエン酸を同時添加したコーンサラダ油で揚げた小麦粉あられは, POVの上昇抑制効果が見られたが,その効果は,ビスケットへの添加効果と比較すると弱かった.<BR>(6) 本金時抽出物をβ-カロチンを含むモデルジュースに添加したところ,効果的にβ-カロチンの退色を抑制し,本金時抽出物は,ジュース中のような水系においても強い抗酸化効果を示すことが明らかになった.
著者
馬場 優 藤井 正人 加藤 靖正
出版者
奥羽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

頭頸部扁平上皮癌患者に対する治療の進歩にもかかわらず、その生存率は有意に改善されていない。それゆえ、今回、私はアフリカの食物Mundulea sericea由来の天然物デグエリンの抗腫瘍効果を調査した。デグエリンは舌癌由来細胞株においてEGFで活性化されたAKTを阻害することに伴いアポトーシスを誘導することを示した。また、デグエリンは舌癌由来細胞株においてIGF1R-AKT pathwayを抑制することによりアポトーシスを誘導することを示した。IGF1R-AKT pathwayがEGFR阻害剤耐性機構の一つであると推察されているため、デグエリンがEGFR阻害剤耐性を克服する可能性が示唆された。
著者
今西 順久 藤井 正人 徳丸 裕 菅家 稔 冨田 俊樹 神崎 仁 大野 芳裕 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.5, pp.602-614, 1998-05-20
被引用文献数
14 5

目的:今後の中咽頭癌に対する治療方針決定の参考にすべく,その予後因子の解析及び治療方針と成績に関する統計学的検討を行った.<br>(対象)1981年7月から1996年6月までの15年間に当科で治療した中咽頭扁平上皮癌91鯛,性別は男性83例,女性8例,年齢分布は29歳から84歳,平均62.7歳であった.病期分類は1期:11例,II期:12例,III期:30例,IV期:38例,進行期(III+IV)が納7500を占めた.原発巣に対する一次治療の内訳は,化学療法併用例とsalvage surgery施行例を含む根治照射群が72例,術前照射と術後照射施行例を含む根治手術群が14例,化学療法単独群が5例であった.NeoadjuvantChemotherapy(NAC)は50例に施行された.<br>(方法)単変量解析として背景因子別に粗累横生存率を箪出し,Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析により予後因子の独立性及びハザード比を検討した.また根治照射群と根治手術群の一次治療方針別,さらにNACの有無別及び効果甥に生存率を比較検討した.<br>(結果)全体の5年生存率は55.6%で,単変量解析では(1)T分類(p=0.0075),(2)年齢(p=0.0274),(3)亜部位(p=0.0400)が予後因子と考えられ,多変量解析の結果T分類が独立した予後因子と判定された(p=0.0253).治療方針別生存率の検討に統計学的有意差は認められなかった.再発に対するsalvage surgeryが根治照射群の生存率の向上に寄与しており,特に上壁型は適応が高いと考えられた.NACの葵効率は85.44%と良好であったが,生存率改善に寄与した統計学的証明は得られず,効梁別の比較でも奏効群と非奏効群の生存率に有意差は認められなかった.<br>(結論)今後の治療成績向上のためには,予後不良因子である(1)T4,(2)70歳以上,(3)前壁型に短する治療を強化する必要があると同特に,積極的かつ適切なsalVage surgeryが不可欠である.放射線療法の占める比重は大きいがその適応と限界を正確に見極めるべきである.