著者
矢野 裕基 鈴木 悠子 安本 和正 原田 和彦 玉内 登志雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.68, 2008

<B>〈緒言〉</B>近年地方の医療を取り巻く問題に患者の医療費負担増・地域間格差の拡大などがある。今回,医療福祉制度面での地域間格差を検証することと医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)や病院が用いる制度改善の最も有効な手段を検討することを目的に,全国の市町村が実施する重度心身障害者医療費助成制度(以下,助成制度)の現状とその改善手段についてのアンケート調査を2007年11月に実施した。その結果,今後検討するべき課題が明確となったので報告する。<BR><B>〈調査方法〉</B>1,対象 全国120の厚生連病院MSW 2,調査方法 郵送によるアンケート調査 設問(1)から(7)助成制度の内容,設問(8)から(13)制度改善の手段<BR><B>〈結果〉</B>76病院(病院所在地14町56市)より回答(回収率63%)<BR>(1)対象障害の範囲<BR> 1)身体障害 「2級まで対象」 23(33%),「3級まで対象」 38(54%),「心臓や肺,腎臓などの内部障害について対象拡大あり」 20(29%) 2)知的障害 「A判定(IQ35以下)」 38(54%) 3)複合障害その他の対象 「対象範囲あり」 23(32%)<BR>(2)助成方法 「現物給付」 45(64%)<BR>(3)所得制限 「あり」 53(76%)<BR>(4)年齢制限 「あり」 6(9%)<BR>(5)自己負担 「あり」 36(52%)<BR>(6)助成の時効 「あり」 40(63%)〈BR> 時効期限 最短6ヶ月 1 最長5年 4 最多2年 9<BR>(7)助成制度の問題 「あり」 40(68%)<BR> 助成制度のどこが問題か(複数回答)<BR> 「対象障害の範囲」 28(34%)<BR> 「所得制限」 18(22%)<BR> 「助成方法」 17(21%)<BR>(8)MSWの問題解決の実践 「実践あり」 26(63%)<BR> 実際にMSWが多く用いた手段(複数回答)<BR> 「行政担当との直接交渉」 18(32%)<BR> 「個別ケース援助」 17(30%)<BR>(9)MSWの採る最も有効と思う手段<BR> 「地域の患者団体との連携」 9(17%)<BR> 「行政担当との直接交渉」 8(15%)<BR> 「地域の福祉関係者との連携」 7(13%)<BR>(10)病院の問題解決の実践 「実践あり」 8(11%)<BR> 実際に病院が行った手段(複数回答)<BR> 「行政機関への直接交渉」 5(41%)<BR>(11)病院の採る最も有効と思う手段<BR> 「地域の医療関係団体との連携」 21(39%)<BR> 「行政機関への直接交渉」 11(20%)<BR>(12)各県MSW協会の実践 「実践あり」 4(6%)<BR>(13)各県MSW協会の採る最も有効と思う手段<BR> 「制度改正の提言」 19(37%)<BR><B>〈考察〉</B>今回の結果から,全国の助成制度に地域間格差が存在することは明らかである。制度に問題があると感じているMSWも多く,何らかの制度改善に向けたアクションが必要である。しかし,実際にはMSWや病院は制度を改善するために最も有効と思う手段を実践できていない。何故なのか,その理由を探る必要がある。実践を難しくしている要素を明らかにし,今後は地域の患者団体や医療・福祉の関係団体と連携を強化し,共に制度改善を図ることが必要である。各県MSW協会には制度改正の提言など目に見える活動が求められている。各地域の制度はそれぞれの地域の病院や団体が行動を起こさなければ改善は実現しないものと考える。<BR>