著者
高田 忠敬 内山 勝弘 安田 秀喜 長谷川 浩 里井 豊 国安 芳夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.627-631, 1985-05-20

はじめに 1935年Whippleら1)が乳頭部癌に対し,はじめて二期的膵頭十二指腸切除を行つた.しかし,当初胆管および膵断端の消化管への吻合はなされておらず,1943年Whipple2),Child3),Cattelら4)により胆管および膵断端と消化管の吻合を同時に行う一期的膵頭十二指腸切除術が考案された.これらの術式の特徴は,重篤な合併症としての膵腸吻合部や胆管空腸吻合部の縫合不全,逆行性胆管炎などの対策として,これらの吻合部に食物を通過させないようにしたことである.これに対し,1960年今永5)は縫合不全や胆管炎の発生と食物の通過経路とは関係がないとし,Braun吻合を付加しないCattel変法とも言われる再建法を報告した. 膵頭十二指腸切除後の再建法で長年問題となつていたのは,膵腸吻合部の縫合不全であることは言うまでもないが,再建法ならびに吻合法,素材の種々の工夫,膵管外瘻の付加,さらに高カロリー輸液法などの栄養管理が進み,縫合不全は以前に比べ激減してきており,実際われわれも最近3年間に施行した膵頭十二指腸切除57例では1例も経験していない.しかし,Fortnerら6)の提唱以来,積極的に郭清を行う拡大膵頭十二指腸切除の普及により,頑固な下痢の発生など消化吸収障害の問題が新たな合併症としてクローズアップされてきた7)こともあり,膵頭十二指腸切除についても術後の消化機能を温存する術式が望まれるようになつてきた.
著者
樋口 亮太 土屋 博紀 安田 秀喜 幸田 圭史 鈴木 正人 山崎 将人 手塚 徹 小杉 千弘 平野 敦史 植村 修一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.647-653, 2010
被引用文献数
2

近年,画像診断の進歩により膵腫瘍が偶然に発見される機会が増加している.今回,我々は術前診断しえたものの嚢胞成分の悪性を否定できず縮小手術を行った膵内副脾の1例を経験したので報告する.症例は55歳の女性で,急性虫垂炎のため行った腹部CTで膵尾部に径約3 cm大のcysticな領域を伴う充実性腫瘤を認めた.EUSで腫瘤の充実性領域は脾臓と同程度のエコー像を呈し膵内副脾を疑った.腫瘤はSPIO MRIで脾と同様の信号低下を,99mTc-スズコロイドシンチグラフィーで集積増加を示した.膵内副脾と診断したが,cysticな成分もあり悪性が完全に否定できないことを説明したところ,外科治療を希望され手術となった.膵尾部背側に3 cm大の軟らかい赤褐色腫瘍を認め,脾温存膵尾部切除術を行い術中ゲフリールにて膵内副脾を確認した.経過は良好で術後16日目に退院した.術前診断しえた膵内副脾の報告は少なく貴重な症例と思われ若干の文献学的考察を加え報告する.
著者
小杉 千弘 安田 秀喜 幸田 圭史 鈴木 正人 山崎 将人 手塚 徹 樋口 亮太 平野 敦史 植村 修一郎 土屋 博紀
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.632-639, 2009-06-01
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

鼠径ヘルニア根治手術は若い外科医が基本手技を鍛錬する場であり,外科手術の入門編として位置していた.現在,初期研修医制度が実施され,外科系診療科志望でない研修医も外科をローテーションするカリキュラムが組まれている.今回,我々は鼠径ヘルニア根治術を初期研修医に執刀させる是非を検討する.方法:2005年4月から2007年12月に根治手術を施行した139例を対象とした.134例にmesh plug法が,5例にPROLENE hernia system法が行われた.初期研修医執刀例は72例(R群),外科医執刀例は67例(S群)だった.R群とS群において,患者背景,術中,術後因子を検討した.結果:患者背景においてR群とS群で有意差はなかった.術中因子として手術時間においてR群:S群に有意差を認めた(88.0分:64.2分,p<0.001).術後因子は,入院期間(3.8±2.1日:4.9±8.3日,p=0.14),合併症(9.8%:6.6%,p=0.64)に統計学的に有意差はなかったが,再発はR群7例(9.7%),S群1例(1.5%)で有意にR群において高かった(p=0.04).考察:入院期間,合併症には有意差はなく,再発率は初期研修医術者が外科医と比較し有意に高かったが,助手として外科専門医が指導することで,再発率が抑えられる.よって,現在の研修医制度において外科系研修カリキュラムの手術執刀についての指導指診作成が望まれる.