著者
常盤 香代子 面田 真也 今井 保 阪上 奈巳 安藤 卓
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1482, 2011

【目的】<BR> 臨床実習は体力的・心理的負担の多い環境であり、それが体調管理に影響する学生は少なくない。今回、体調不良をきっかけに欠席が続いたが、実習を再開し最後まで継続できた学生を経験した。数日間の欠席により自分自身をみつめる経験ができ、実習を通じ能動的な学習行動が変化としてみられた。本学生の臨床実習教育において、体調不良や欠席の要因を分析し、実習指導内容と学生の変化について考察する。<BR>【方法】<BR> 実習終了後に学生、臨床実習指導者(以下、指導者)、教員各々に対し、本実習を通じての学生の変化についてインタビューを行った。また、養成校の用いる実習評価表や学内成績について過去の実習と比較した。<BR> 対象学生と実習経緯:平成22年度の臨床実習8週間の学生で最終実習であった。実習前の教員からの情報提供(内容:意欲はあるが指導者との関わりが不十分で積極性がなく、追求心が少なく、知識や技術も不十分である)を元に、指導者と充分な意思疎通がとれるように配慮した。また、紙面上の指導ではなく臨床場面での経験を重視した教育方針で実習を開始した。学生は開始早々に症例を担当し、その数日後に体調不良で欠席となり欠席は4日間続いた。教員からの情報で、学生が一時は実習を終了すると訴え混乱しており、親と相談し実習を継続する意思がみられたものの、施設に再度出向くことに対する強い不安があることを確認した。その為、施設まで指導者と同伴し再開した。<BR>【説明と同意】<BR> 学生と養成校に研究の目的を説明し、実習やインタビューの内容、成績の開示について同意を得た。<BR>【結果】<BR> インタビューにより、学生からは「対象者に責任を感じるようになった」「コミュニケーションの本来の意義が理解でき自然にとれるようになった」「評価や治療、検証作業を自分で考えて進めることができた」「レポート課題などストレスに弱い自分がわかった」等の内容、指導者からは「臨機応変に動けるようになった」「自分で考えて行動するようになった」という内容、教員からは表情や対応が明るくなった等と様々な内容が聴取できた。実習評価表は、リスク管理や能動的学習姿勢、理学療法士像の形成について向上していた。しかし、技術の振りかえりや自己主張に関しては成績が低いままであった。学内での症例報告等の成績はやや低下していたが、臨床実習成績は合格レベルであった。<BR>【考察】<BR> 課題の多い学生という情報の元、実習が始まり、実習早々に欠席が続いたが最後まで継続でき、学生は責任感や有能感を得て行動に成長がみられた。体調不良の要因は、症例レポートが無意識下でストレスになり、それが関係していると考えた。しかし、実習での欠席が初経験であり、先がみえない不安と今までが皆勤であるという自分の支えのようなものを失い、適切な判断力が欠け混乱を引き起こし、欠席が続いたと推察した。これは本学生のこれまでの人間関係の構築において、本来の意義を理解しないまま関係性を築いてきたことが学生の価値観の形成に影響し、あいまいな判断基準で行動してきたことが関係していると考え、それは学生の本質的な課題であると捉えた。そして過去の実習でも、懇切丁寧な誘導型の指導により、学生の人間形成に必要な価値観や判断力を養う場面が少なかったと考えられる。欠席が続いた後、教員や親に現状を受容され励まされたことで、本来の自分を冷静に振り返ることができ、実習を再開する気持ちになったと考える。欠席への反省と指導者や対象者への迷惑、2度とできない失敗等を考えると再開する不安が強い中、再開できたことは学生にとって自己決定の中での挑戦であったと考える。これらをふまえ、再開後の実習では対象者と関わる機会を大いに取り入れ、治療の一部を任せる環境や過度な助言は与えず、学生が自ら考え主体的に動かなければ解決に向かわないような環境を調整した結果、対象者への責任感が芽生え能動的な学習が習慣化され、理学療法過程の考察に論理的要素が増え、対象者の変化や問題解決に応じる行動になった。実習終了後の学内成績は低下しており、誘導型の指導による症例の理解と自ら考察した症例の理解の格差が生じたことに指導内容の課題を感じる。しかし、欠席が続くという実習では負と捉えがちになる経験や失敗・行き詰まるという経験を共に乗り越え、学生の本質的な課題において成長が認められたことは学生の将来につながる教育に携わることができたと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 臨床実習は対象者を通じ理学療法が学べ、理学療法士像が形成される貴重な教育現場である。学生の質の多様化がみられる中、実習で問題になる学生において要因を分析し、適切な教育内容で支援できるよう、臨床実習のケースを考察した。
著者
藤堂 恵美子 樋口 由美 北川 智美 今岡 真和 上田 哲也 安藤 卓 高尾 耕平 村上 達典 脇田 英樹 池内 俊之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の効果はエビデンスが確立されているものの,ADLのみを指標にした研究が多く,活動・参加を含めた生活機能への効果は十分明らかではない。また,先行研究では訪問リハプログラムの違いによる効果は検証されていない。しかしながら,実際は評価に基づき優先順位をつけ複合的に介入している。そこで本研究は,訪問リハプログラムの優先性が生活機能に与える影響を検証することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,平成26年4月~平成28年3月にA訪問看護ステーションの介護保険による訪問リハを開始し,3ヶ月間追跡可能であった30名(平均年齢82.4±7.5歳,女性24名)とした。全介助の者,本研究の主旨を理解できない者は除外した。調査項目は基本属性に加え,生活機能として身体機能(立ち座り動作テスト),精神機能(GDS5,転倒自己効力感,主観的健康感),ADL(FIM),IADL(老研式活動能力指標),生活空間(LSA)を調査した。訪問リハプログラムは身体機能,活動,環境因子の3つに対して最も優先した介入を,担当理学・作業療法士に記入させて追跡後に集計した。</p><p></p><p>統計解析は,ベースラインの群間比較にはχ2検定またはMann-Whitney U検定を用い,p値が0.1未満の項目を説明変数,介入の優先性を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。ベースラインと3ヶ月後の比較にはχ2検定またはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>主疾患名は運動器疾患19名,脳血管疾患6名,その他5名であった。なお,入院歴がある者は15名であった。</p><p></p><p>訪問リハの優先プログラムは,全訪問回数のうち50%以上が活動であった者は19名,環境因子は11名で,身体機能への介入が50%を超えた者はいなかった。そこで,活動優先群と環境優先群の2群で分析した結果,ベースラインでは基本属性や身体機能,活動に差はなく,GDS5得点のみ環境優先群は有意に高かった。探索的に年齢とFIMの移動項目で調整しても,GDS5は環境因子への介入優先に対する独立関連因子であった(調整オッズ比3.34)。ベースラインと3ヶ月後の生活機能の比較では,LSAで両群共に有意な改善がみられ,活動優先群は15.3点から29.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が6名から15名に増加,環境優先群は16.5点から28.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が5名から9名に増加した。加えて,活動優先群では立ち座り動作で上肢支持が不要な者が有意に増加し,環境優先群では転倒自己効力感が有意に改善した。その他の項目では有意差を認めなかった。</p><p></p><p><b>【結論】</b></p><p></p><p>訪問リハ開始から3ヶ月間では,活動および環境因子への介入の優先性が高かった。介入の優先性によって身体機能や精神機能への効果が異なるが,生活空間は介入の優先性に関わらず拡大することが示唆された。</p>