著者
安藤 知子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-11, 2010-02-28

近年、教育改革が多様に展開しているが、学校と改革諸施策の提案者の間での意味形成過程の相違にはほとんど関心が向けられずにきた。本稿の目的は、学校内部の視線で教育改革が浸透していく過程を描き出すことである。そのために、志木市立A中学校で観察調査を実施した。観察結果をPolanyi.の暗黙知の理論における意味の創発の考え方に依拠して分析した結果、学校内部からの「教育改革」への意味付与過程には4つの段階があると考えられた。それは、(1)新たな試みがこれまでの実践を支える理念の枠組みの中に位置付くように考えら、うまく位置付かない場合には、別のものとして扱われる段階、(2)多くの具体的諸細目が教員にとって切実な課題となり、それらの課題を解決するために焦点的に感知される段階、(3)複数の諸細目が、カテゴリー化され包括的に意味づけられる段階、(4)包括的に意味づけられた諸細目が、さらに上位レベルの意味から全体従属的に感知される段階の4つである。以上から、短期間での数値化された政策実施評価だけではなく、長期間にわたる学校での教育実践の意味変容、行動変容に着目する質的な評価も重要であることが指摘される。
著者
安藤 知子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.95-106, 2001

本研究では,第一に子ども理解規範と学校組織の構造的矛盾の可能性について考察を行い,第二に実践場面における子ども理解表現を二人の中学校教諭の事例に基づいて検討した。その結果,受容,共感,個別的配慮という子ども理解規範の構成要素と,教師-生徒関係による秩序維持を必要とする学校組織の枠組みとには,両立の不可能性が内在していることを指摘した。さらに,二教諭の子ども理解表現の相違は,学校組織における教職役割と子ども理解という二つの期待の間でのバランスの取り方によって生じているものと捉えることができた。これらの検討を経て,全面的な受容としての子ども理解規範へのコミットメントと,学校組織における教職役割へのコミットメントの間での,バランスの取り方による子ども理解表現の多様性を把握するための概念枠組みとして,「子どもへの同調性尺度」を試論的に提示した。In this study, I considered variance between norm about understanding children and teachers role on school organizations. And then, I analyzed two teachers daily expressions of understanding children at school. The following points are found. 1. There are contradictions between norm about understanding children and teachers role on school organizations. Because, on the one hand, norm about understanding children consists of the factor that, unconditional accept, empathic understanding, and regard with each other. And on the other hand, school organizations need to teacherstudents order and discipline to keep up schools. 2. The difference expressions between two teachers are cause by difference where put stress on between norm about understanding children and teachers role on school organizations. So, I tried to set up the framework of norm about understanding children. It is one dimension scale that one end of axis points the commitment to norm about understanding children, and the other end of axis points the commitment to teachers role on school organizations, which names "scale of sympathize with children". The end of commitment to norm about understanding children is high sympathize, and the other is low. This article is limited only set up the scale. But next, I'll investigate the actual conditions of teachers expressions of understanding children by using this scale, and research how school organizations should support high sympathize teachers.
著者
安藤 知子
出版者
上越教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

昨年度に引き続き、S県S市M中学校における観察調査を実施した。今年度は、隔週ごとに2〜3日のペースで訪問し、二つの観点から軸を設定して焦点化したデータ収集を行った。第一の観点は「地域教育改革」の影響である。S市では今年度から、市内中学校で通学区の弾力化(5月から9月までの間、転校を理由を聞かずに認める)を実施することになった。このため、特に1学年の学級経営計画で転校を想定せざるをえず、教育改革によって子どもに寄り添った教育実践が妨げられているという意識が若干観察された。この制度改革は、保護者が学校を主体的に選択する機会の導入によって、各学校が教育活動の特色を明確にし、保護者や地域住民との深い信頼関係を構築するよう意図するものであったが、現実には教職員の意識を変えるような契機にはなりえていないことがうかがわれた。第二の観点は、組織内部でのコミュニケーションの態様である。M中学校の場合には、多くの活動が計画的合理的に遂行されるというよりは、状況に応じてその場にいるメンバー間で臨機応変に解決される様子がうかがわれた。このことが、学校組織の役割規範を柔軟で解釈の幅のあるものにするため、個々の教員にとっては、〔子ども理解〕と〔学校の組織成員としての役割〕間での葛藤を引き起こさずに済むように機能しているものと考えられた。しかし、このような解釈の幅広さが反面では行動選択の難しさにつながる場合もあり、この点が課題でもあることが明らかになった。これらの研究成果のうち、第一の観点に関連して日本学校教育学会機関誌第19号で報告した。また第二の観点を含めて、教員個々人の意識や学校の組織文化等に着目した研究成果を大塚学校経営研究会等で発表しているが、この点については、今後さらに詳細な分析を進める予定である。