著者
安部 春香 髙橋 弘一 冨永 美穂子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.254-263, 2017 (Released:2017-12-21)
参考文献数
16

甘藷の切干しは長崎県の多くの地域で「かんころ」と呼ばれている。「かんころ」の呼称は長崎県外にも存在するが,製造工程を含め同じものであるかは不明瞭である。そこで本研究では,西日本を中心に長崎県内外における「かんころ」の製造工程および甘藷の切干しの呼称とその分布状況を明らかにすることを目的とした。 甘藷の切干しの有無やその呼称などに関して西日本の海岸沿いの府県,市町村などの行政庁,教育委員会,計691ヶ所を対象として,甘藷の切干しに関する質問紙調査を郵送法により実施した。長崎県内の2地域ならびに県外8地域において,地域食文化に精通していると考えられる質問紙回答者を中心に「かんころ」の製造工程や呼称などに関するインタビュー調査を行った。 長崎県内調査においては,「かんころ」の製造工程は同じであったが,調査地域間で使用する器具や「干し棚」の構造に違いが見られた。甘藷の切干しの呼称は「干しいも」が最も多く,西日本全体に広く分布していた。「かんころ」は九州北部から瀬戸内海沿岸地域にかけ帯状に広がっていた。「かんころ」は甘藷の切干しに関連した呼称であったが,その製法は調査地域間で異なっていた。
著者
湯浅 正洋 川邊田 晃司 江口 恵加 安部 春香 山下 絵美 古場 一哲 冨永 美穂子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成30年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.39, 2018 (Released:2018-08-30)

【背景】牡蠣は軟体動物斧足類に属する貝であり, わが国においては, 冬が旬の真牡蠣(Crassostrea gigas)と 夏が旬の岩牡蠣(C. nippona)が知られている. 我々は, これまでに, 日本産の岩牡蠣と真牡蠣の呈味を味認識装置により明らかにしているが, 岩牡蠣の方が真牡蠣よりも旨味や塩味が高く濃厚な味わいである可能性を見出している. 一方, 一般的に岩牡蠣は大ぶりで旨味が強く濃厚な味わいであるとされるが, その科学的根拠は乏しい. そこで, 本研究では, 岩牡蠣の呈味を評価するために, その呈味特性および呈味成分(核酸, 有機酸, 遊離アミノ酸, 脂肪酸組成および塩分濃度)を明らかにした. なお, 比較対照には真牡蠣を用いた.【方法】全ての牡蠣は日本産とし, 岩牡蠣は2015年7-8月に9産地分(計27個), 真牡蠣は2015年12月に11産地分(計33個)をそれぞれ収集した. 呈味特性(味覚応答)は味認識装置により先味(苦味雑味,旨味および塩味)と後味(苦味および旨味コク)を明らかにした. 呈味成分としては, 5’-イノシン酸, コハク酸および遊離アミノ酸をHPLC法で, 脂肪酸組成をGC-MS法で,塩分濃度を簡易塩分計でそれぞれ測定した. 岩牡蠣と真牡蠣のそれぞれの項目を比較し, 岩牡蠣の特徴を評価した.【結果・考察】岩牡蠣において, すべての先味が真牡蠣よりも有意に高値を示した(P<0.05). 5’-イノシン酸およびコハク酸には差は認められなかったが, 遊離アミノ酸のうち特に苦味を呈するアミノ酸類において, 岩牡蠣で有意に高値を示した(P<0.05). 脂肪酸組成については, 岩牡蠣におけるパルミチン酸およびステアリン酸が有意に高値を示した(P<0.05). 一方で, 塩分濃度は岩牡蠣の方が低値を示した(P<0.05)が, 真牡蠣との差は1.1倍程度と大きな差ではなかった. 以上より, 岩牡蠣は真牡蠣と比べて濃い呈味であり, この理由としてはアミノ酸や脂肪酸の組成が異なることが影響していることが示唆された.