- 著者
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宗田 聡
- 出版者
- 新潟大学
- 雑誌
- 新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
- 巻号頁・発行日
- vol.117, no.7, pp.359-366, 2003-07-10
Angiotensin-I変換酵素遺伝子(以下ACE遺伝子と略す)のintron 16における欠失Deletion/挿入Insertion多型(以下D/I多型と略す)については,これまで虚血性心疾患,糖尿病性腎症との関連が報告されて来たが,近年2型糖尿病との関連が報告された.しかしその機序については不明であり,インスリン抵抗性との関連については一定の見解が得られておらず,またインスリン分泌能との関連についても報告がない.そこで今回我々は,2型糖尿病患者63名(男性45名,女性18名)を対象として,ミニマルモデル解析を施行し,ACE遺伝子D/I多型とインスリン抵抗性およびインスリン分泌能との関係を検討した.II,ID,DD型3群間において年齢,BMI,推定糖尿病罹病期間,合併症頻度,平均血圧,HbA1c,空腹時血糖,空腹時インスリン,総コレステロール,中性脂肪,HDL-C,LDL-Cに有意差は認められなかった.インスリン感受性はII群(1.6±1.4×10^<-4>・min^<-1>・μU^<-1>・ml^<-1>),ID群(1.0±0.8×10^<-4>・min^<-1>・μU^<-1>・ml^<-1>),DD群(0.4±0.7×10^<-4>・min^<-1>・μU^<-1>・ml^<-1>)と低下した(p<0.05).一方インスリン分泌能はII群(45.4±91.4μ1/ml)vs DD群(16.7±16.7μ1/ml)(p<0.002)およびID群vs DD群(p<0.001)でDD群が低価であった.DD型は他の遺伝子型より約2倍のACE活性を持つとされ,アンギオテンシン-IIの増加およびブラジキニンの不活性化によって末梢組織血流の低下,ひいてはインスリン抵抗性の増悪に関与すると考えられる.また,アンギオテンシンIIは膵臓の血流を減少させ,ブドウ糖に対するインスリン分泌を遅延させることが知られていることから,DD型においてはアンギオテンシンIIの増加により膵血流量の低下,ひいてはインスリン分泌能の低下をもたらしている事も推測された.