著者
松永 拓也 柴田 和也 室谷 浩平 越塚 誠一
出版者
日本計算工学会
雑誌
日本計算工学会論文集 (ISSN:13478826)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.20160012-20160012, 2016-05-11 (Released:2016-05-11)
参考文献数
20

本研究では, 粒子法を用いた非圧縮性流れの数値シミュレーションにおける圧力ポアソン方程式の解法として適するAMG法を用いた線形ソルバーについて検討を行った. 粒子法では, 格子法の場合と比較して, 係数行列が多くの非ゼロ要素をもち, なおかつ, 時間の進行と共に大きく変化することが特徴として挙げられるが, これに即する手法としてPA-AMG法ならびにK-cycleマルチグリッド法をBiCGSTAB法に対する前処理として適用することを考え, 数値実験に基づく性能検証を実施した. 基礎検証として2次元ポアソン方程式にMPS粒子間相互作用モデルを用いて離散化した線形方程式を対象に解析を行った. なお, 擬似乱数を用いることにより粒子分布のばらつきを模擬した. 検証の結果, 対象とする問題サイズに依らずおよそ一定のcoarsening ratio (3.9から4.0) を有する安定なコースグリッド生成が実現された. また, 求解にかかる計算時間について前処理なしBiCGSTAB法と比較したところ, 問題サイズnに対して, 前処理なしの場合ではnの1.5乗に, PA-AMG前処理付きの場合ではnの1乗に比例する傾向を示した. また, n > 10^4では前処理なしBiCGSTAB法より高速であり, n > 10^6では10倍以上の速度が得られた. 実問題に対する有用性を検証するため, MPS法を用いた2次元ダムブレイク問題の非圧縮流れの解析を行った. MPS法の計算において現れる圧力ポアソン方程式の解法として前処理なしBiCGSTAB法とPA-AMG前処理付きBiCGSTAB法を適用し, シミュレーションに要する全体の計算時間の比較を行った. その結果, 検証を行った粒子数範囲 (7000~130万) では総じてPA-AMG前処理付きBiCGSTAB法を用いた場合の方が高速であり, 最大で約16倍の高速化が得られた. 更に, 全体の計算時間に対する圧力ポアソン方程式解法が占める割合は粒子数が大きな問題に対してもおよそ一定に保たれる結果となった. 以上の結果より, PA-AMG法を前処理としたBiCGSTAB法は, 流体シミュレーションにおいて, 粒子分布の不均一化や複雑な境界形状変化に対する堅牢性を有し, 安定して高い計算速度を実現できることから, 粒子法の圧力ポアソン方程式に適する一解法であると結論付けることができた.
著者
横山 真男 室谷 浩平 矢川 元基
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
計算力学講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp._213-1_-_213-3_, 2015

本研究では,粒子法の大規模並列計算により,ミルクラウンと呼ばれる水滴が落下し液相に衝突したときに発生するスプラッシュ現象を再した.解析モデルに対して,十分小さな粒子を用いることができければ,クラウン側面の壁厚さ方向に十分な粒子数を配置することができず,クラウン側面の壁に穴が開くという非物理的な現象が発生する.本研究では,十分に小さな粒子を用いることで,粒子法によりミクルラウンを再現すること成功した.加えて,本研究では,クラウン状の構造が消滅した後に形成される「こけし」の生成も成功した.
著者
武居 周 室谷 浩平 吉村 忍 金山 寛
出版者
Japan Society for Simulation Technology
雑誌
日本シミュレーション学会論文誌 (ISSN:18835031)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.81-95, 2012 (Released:2012-12-15)
参考文献数
27
被引用文献数
3

This paper describes a method of making mesh models for large-scale full-wave analysis of electromagnetic fields by the finite element method with an iterative domain decomposition method using numerical human body models. Numerical human body models by National Institute of Information and Communications Technology (NICT) composed by the voxel data with all sides of 2mm include skins, blood vessels, bones etc. and internal organs distinguishing with the material flag. The user can evaluate electromagnetic filed distribution inside the body using NICT numerical human models. A stationary vector wave equation for the 3D full-wave electromagnetic field analysis is solved taking an electric field as an unknown function. The mesh is efficiently divided by using the domain decomposition data structure when elements of 200 million or more are generated from the voxel data of NICT numerical human body models. The mesh generation method corresponds to a past 32-bit I/O library in the ADVENTURE System. Numerical analyses are done using torso models and whole body models. The results prove that our method can precisely predict the distribution of the electromagnetic field in human bodies inside.
著者
室谷 浩平
出版者
社団法人 可視化情報学会
雑誌
可視化情報学会誌 (ISSN:09164731)
巻号頁・発行日
vol.39, no.152, pp.12-18, 2019 (Released:2019-04-26)
参考文献数
7

単純な流体解析を解くためには,粒子法を用いるのは計算精度の面で不向きであるが,境界面が複雑に変形し合うような解析や,多くの接触判定が必要となる解析では,粒子法は大きな力を発揮する.本稿では,前者の解析として,水滴が載っているレールの上を車輪が転がる解析を紹介し,後者の解析として,鉄道車両が走行時に舞い上げる雪が台車へ着雪する解析を紹介する. 本稿で紹介する可視化例は,POV-Rayによるフォトリアリスティックな可視化例と,3Dプリンターによる縮小模型の作成例である.粒子法による解析結果に対して,これらの可視化を行おうとすると,三角形ポリゴンで構成された等値面が必要となる.ParaViewを用いれば,簡単に等値面を生成することができるだけでなく,レイトレーシングによる可視化できる.可視化は,解析結果の解釈を助けるだけでなく,アウトリーチ活動にも効果的であるため,多くの可視化技術の普及が期待されている.
著者
松永 拓也 柴田 和也 室谷 浩平 越塚 誠一
出版者
日本計算工学会
雑誌
日本計算工学会論文集 (ISSN:13478826)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.20160002-20160002, 2016-01-29 (Released:2016-01-29)
参考文献数
23

本研究では, MPS法による2次元流体シミュレーションのためのミラー粒子境界表現の開発および検証を行った. 本提案手法は, 固体壁境界を取り扱うための手法である. 境界形状は線分の集合として表される. 従って, ポリゴンモデルを用いる固体壁境界表現同様に境界要素自身は厚みをもたない. 従来のミラー粒子境界表現と比較して, ミラー粒子のミラー粒子を考慮すること, 視線判定を導入することが主な特徴として挙げられる. 本手法におけるミラー粒子は, 従来手法同様に, 境界を軸とした流体粒子の鏡映を作成するという考え方に基づいている. 複数の接続された線分で表される境界形状を線要素と点要素に分割し, 点要素に関しては凹形状と凸形状を区別する. また, 視線の概念を導入し, 境界要素, 流体粒子, ミラー粒子の間の視線が通る条件を定義した. 境界要素から流体粒子への視線が通るとき, ミラー粒子を生成する. 更に, 生成したミラー粒子への視線が通る線要素がある場合, そのミラー粒子に対する新たなミラー粒子を生成する. 以上のミラー粒子生成アルゴリズムを適用することで, 境界近傍の外部領域に抜け目なくミラー粒子を配置することができるが, ミラー粒子が過剰に存在する領域が発生してしまう. そこで, 近傍粒子計算に視線判定を導入する. 具体的には, 影響半径未満の距離に存在し, かつ, 着目流体粒子からの視線が通る流体粒子およびミラー粒子のみを近傍粒子として採用する. 視線判定は近傍流体粒子を吟味するためにも利用されており, 境界を跨ぐ流体粒子間の接続を切断できるため, 影響半径未満の厚みをもつ固体相を含む問題の計算が可能となる. 基礎検証として3つの問題の計算を行った. 単純形状における静水圧問題を本ミラー粒子境界表現を用いたMPS法によって計算し, 壁粒子を用いた固体壁境界表現に用いた場合と比較を行った. 定常状態における圧力分布を比較したところ, およそ定量的な一致が見られ, 単純形状における固体壁境界条件が妥当に評価されていることを確認した. 続いて, 凹形状を有する固体壁面に対する水柱衝突の計算を実施した. 粒子の境界貫通が起こりやすい問題であったが, そのような現象は確認されず安定に計算が実行できた. 定常状態における静水圧分布を計算したところ, 鋭角な凹面内部には少数の流体粒子しか存在しないにもかかわらず, 圧力分布を妥当に評価することができたことから, ミラー粒子のミラー粒子を使用することの有効性が示された. 更に, バッフル付き円筒回転体内の流れの計算を行った. 円筒形状は離散的な線分によって表現を行ったが,線分の接続部の影響による目立った不自然な数値挙動は見られず, 安定に計算を実施することができた. このことから, 本研究にて採用している視野の定義および視線判定に基づく近傍粒子選択が妥当であることが確認できた.