著者
宮本 久美 中谷 章
出版者
和歌山県農林水産総合技術センター
雑誌
和歌山県農林水産総合技術センター研究報告 (ISSN:13455028)
巻号頁・発行日
no.12, pp.21-31, 2011-03

'ゆら早生'の樹冠内における果実品質変動の要因解析を行った. 2009年10月20日に収穫した場内2園地の合計3樹を供試し,果実重,遊離酸含量,糖度に及ぼす着果位置や果実特性の影響を数量化Ⅱ類により解析した.その結果,'ゆら早生'果実の肥大には,有葉果の多い樹づくりが重要であり,養分の流れの良い整枝と着果位置が望ましく裾なり果は小玉になりやすいことがわかった.遊離酸含量については,有葉果で減酸が早く,扁平で果皮が薄く糖度の高い小玉果で、酸が高かったことから,強い乾燥や着果負担などで正常な果実発育を抑え込まない管理が重要と思われた.また,果実熟度に関与する要因が遊離酸含量に影響していたことから,多孔質シートマルチなどによる日照条件の改良,裾なりや懐なり果実の摘果などとともに,適期の収穫が酸高の防止に重要と思われた.糖度については,樹冠の上中部に位置し,果梗枝が細く収穫期には下向きに垂れる果実,直花果よりも有葉果で糖度が高かった.樹によって正反対の影響を及ぼす要因が多く,これらは果実への養分の流れやすさに関係していると思われた.以上の結果から,'ゆら早生'の果実品質変動は,基本的には従来の早生ウンシュウミカンでの知見を踏襲するものであるが10月上旬~下旬に収穫する極早生であるため果実熟度の違いによる変動が加わり,さらに,根の発育が悪く樹勢の弱い品種であるため果実への養分の流れやすきの要因が加わることが明らかになった.このことが'ゆら早生'の果実品質変動を大きくしており,外観や従来の知見では予測しにくい原因であることがわかった.
著者
山本 晴彦 大槻 恭一 森永 邦久 宮本 久美
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、高糖系温州のマルチ栽培において、連年安定・高品質果実生産を実現するため、樹体・土壌水分環境と樹体光環境を迅速に計測するシステムを開発し、両環境の制御により水分ストレスを抑制して、好適な光環境下で高品質果実生産を実現できる技術を構築することを目的としている。土壌水分および樹体水分の計測法の開発においては、市販されているセンサを用いて炉乾燥法と併用して安価で迅速に計測できるセンサを選定した。半楕円モデルより算出した樹体体積を乗して得られた樹体総葉面積と実測による樹体総葉面積には非常に高い相関(r=0.897)が得られ、PCA(プラント・キャノピー・アナライザー)のほぼ10分の1の十数万円の魚眼レンズ付きデジタルカメラを用いて、樹体総葉面積を高精度かつ非接触・非破壊で推定可能な技術を開発した。また、最新の樹木蒸散流の計測手法であるグラニエ法を用いて、白色マルチ栽培下における土壌水分およびカンキツ樹体の蒸散流計測を試みた結果、蒸散流速度は日射量に追随して推移する傾向を示し、白色シートマルチの降雨遮断による土壌乾燥が、樹体に乾燥ストレスを与えて蒸散流速度を低下させることを明らかにした。さらに、近赤外分光解析装置を用いて、カンキツ個葉の水分状態を非破壊で推定する手法と推定精度について検討した。土壌の水分状態、日射・気温・湿度などの気象条件により変動する葉内水分ポテンシャルの範囲内において、全測定波長1,061個(1300〜2400nm)を使用した場合の8主成分のPLS回帰式は、重相関係数R=0.817、予想標準偏差SEP=0.300MPa、残差の平均値Bias=0.004MPaの高い予測精度が得られた。このことから、近赤外分光法を用いてカンキツ葉の葉内水分ポテンシャルを非破壊的かつ迅速で推定が可能であることが明らかになった。