著者
小野澤 郁佳 久米 朋宣 小松 光 鶴田 健二 大槻 恭一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.366-370, 2009-10-01
参考文献数
25
被引用文献数
1 10

林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが,竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として,樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし,モウソウチクにおいて自作の長さ1cmのGranierセンサーによる樹液流計測,切り竹による吸水量計測を行った。その結果,自作センサーにより桿内の水の上昇(以下,樹液流と呼ぶ)の検出が可能であり,計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には,従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され,新たな樹液流速換算式を提示した。以上より,樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
著者
久米 篤 安岡 慶子 廣瀬 茂樹 大槻 恭一 小川 滋
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.87, 2003

<B>はじめに</B>樹木は,多数の同じような形をした葉(個葉)によって構成されている。個葉は,その機能的な独立性のため,測定や解析の最小単位として扱われることが多い。しかし,ここで問題になるのは,多くの場合,一枚一枚の葉の機能的なバラつき不明であり,実質的な蒸散・生産能力評価が難しいことである。樹冠において,光合成・蒸散量のある時間における単葉ごとの違い,あるいは樹冠の位置による違いは大きい。その一方で,久米ら(2002)は,数枚の単葉の光合成の日平均値を用いることによって,単木レベルの樹冠蒸散量を高い精度で推定した。このことから,単葉が示す分散特性には時間や位置に依存した特殊性が存在することが伺われるが,理論的根拠は示されていなかった。そこで,樹冠における蒸散・光合成のばらつきを,年間の観測データから解析し,その特性を抽出し,樹冠における1枚の葉がどの程度の代表性を持つのかを明らかにし,何故数枚の単葉の光合成の日平均値によって,樹冠蒸散量を高い精度で推定できるのかを明らかにした。<BR><B>方法</B>対象林分は,九州大学福岡演習林のマテバシイ人工林(22年生)で,平均樹高は9mである。この林分には1998年に微気象観測用と樹冠観察用の2つの観測タワーが建設され,微気象観測用タワーでは,日射・長波放射・気温・相対湿度・風速が高さ別に10分間隔で測定されており,林内には林内雨・樹幹流・土壌水分・樹液流測定用ヒートパルス装置などが測定・設置されている。この樹冠観察用タワーを用いて,マテバシイの樹冠の個葉の光合成・蒸散速度の日変化を2000年7月から2001年7月まで,LI-COR LI-6400を用い,晴天日に10回(日)測定した。測定は,光量子入射量(PAR),CO2濃度,葉面飽差,葉温などが,実際の環境条件にできるだけ近くなるように調節し,葉面の位置や方向の違いが反映されるようにした。樹冠を上層と下層の2層に分け,それぞれの層で3つの別の枝についている葉を,朝から夕方まで1時間から2時間おきに測定した。そして,葉の本来持っている光合成能力のバラツキを測定するために,2001年7月初旬に樹冠頂部で5本の別の樹の枝に付いている葉について,葉内CO2濃度(Ci)と光合成速度(A)の関係(A-Ci曲線),またPARと光合成速度(A)の関係(A-PAR曲線)を測定した。<BR><B>結果及び考察</B> 2000年7月に,樹冠最上層の葉において,A-Ci曲線と,A-PAR曲線を測定した結果,異なる樹木の枝につく葉の間のバラツキは非常に小さかった。従って,個々の葉が本来持っている潜在的光合成能力には大きな差がない。ところが,野外の日変化の過程,特に夏季の晴天日においては,光合成の日中低下の影響で,この関係から大きく外れ,潜在的光合成能力を元にした光合成-蒸散モデルが,夏季においては上手く適合しなかった(過大評価する)。このことは,ペンマン-マンティース式による蒸散量の計算結果との比較においても示された。<BR> ある時間における光合成・蒸散速度の個葉間のバラツキは比較的大きい。これは,(1)葉の向きが様々であり,その位置によってある時間における光の当り方が大きく異なること,(2)午前中に強光が当っていた葉では,午後には光合成の日中低下の影響で午前中に光が当っていなかった葉よりも光合成速度が低下することなどが原因として挙げられる。それにもかかわらず,野外で一日を通して1__から__2時間おきに測定したデータから求められた光合成・蒸散速度の平均値,あるいは日積算値では,個葉間のバラツキは年間を通して小さかった。この理由は,(1)樹冠上部においては,どの位置の葉も太陽の移動のために1日に当る光の量にはあまり大きな差がないこと,(2)日中低下が生じる葉でも,午前中にはかなりの量の光合成を行っており,午後の低下の影響があまり大きくならないこと,(3)樹冠下部においても,日光合成量は上部からの積算葉面積指数の増加に伴ってほぼ同じように減少し,樹冠の同じ層に位置する葉同士では日平均値のバラツキは小さいためであることがわかった。<BR> これらの結果は,マテバシイの樹冠において,一枚の葉の代表性は高く,同時に多くの葉をたくさん測定するよりかは,少数の葉を1日を通して測定するほうが,実際の光合成蒸散量の推定には有効であると同時に,その精度にもかなり信頼性が置けるものであることを示している。また,樹冠内のいくつかの異なった高さ(異なった積算葉面積指数)の位置で測定すれば,より高い精度の推定値を得ることができるであろう。<BR>
著者
大槻 恭一 岡田 周平 神近 牧男 玉井 重信
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.1315-1320_1,a1, 1999-12-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
7

鳥取県の一大観光資源である鳥取砂丘は, 戦後まで人間を寄せ付けない不毛地であった.戦後, 鳥取砂丘の約半分は鳥取大学に移管され, 現在は乾燥地研究センターとして研究・教育の場として活用されている。残り半分は鳥取市に払い下げられ, 当初は全面砂防林となる予定であった。しかし, 観光業者, 文化財関係者等の圧力で, 鳥取砂丘の一部は天然記念物として保護されることになった。ところが, 近年, 周辺の砂防林が微気象に変化を与え, 砂丘の草地化が進行し始めた。このような状況に対して, 現在では人為的に砂丘の除草が行われている。本報では, わずか50年程度で大きく変貌を遂げた鳥取砂丘の開発と保全の関わりにっいて検討した。
著者
山本 晴彦 大槻 恭一 森永 邦久 宮本 久美
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、高糖系温州のマルチ栽培において、連年安定・高品質果実生産を実現するため、樹体・土壌水分環境と樹体光環境を迅速に計測するシステムを開発し、両環境の制御により水分ストレスを抑制して、好適な光環境下で高品質果実生産を実現できる技術を構築することを目的としている。土壌水分および樹体水分の計測法の開発においては、市販されているセンサを用いて炉乾燥法と併用して安価で迅速に計測できるセンサを選定した。半楕円モデルより算出した樹体体積を乗して得られた樹体総葉面積と実測による樹体総葉面積には非常に高い相関(r=0.897)が得られ、PCA(プラント・キャノピー・アナライザー)のほぼ10分の1の十数万円の魚眼レンズ付きデジタルカメラを用いて、樹体総葉面積を高精度かつ非接触・非破壊で推定可能な技術を開発した。また、最新の樹木蒸散流の計測手法であるグラニエ法を用いて、白色マルチ栽培下における土壌水分およびカンキツ樹体の蒸散流計測を試みた結果、蒸散流速度は日射量に追随して推移する傾向を示し、白色シートマルチの降雨遮断による土壌乾燥が、樹体に乾燥ストレスを与えて蒸散流速度を低下させることを明らかにした。さらに、近赤外分光解析装置を用いて、カンキツ個葉の水分状態を非破壊で推定する手法と推定精度について検討した。土壌の水分状態、日射・気温・湿度などの気象条件により変動する葉内水分ポテンシャルの範囲内において、全測定波長1,061個(1300〜2400nm)を使用した場合の8主成分のPLS回帰式は、重相関係数R=0.817、予想標準偏差SEP=0.300MPa、残差の平均値Bias=0.004MPaの高い予測精度が得られた。このことから、近赤外分光法を用いてカンキツ葉の葉内水分ポテンシャルを非破壊的かつ迅速で推定が可能であることが明らかになった。
著者
小野澤 郁佳 久米 朋宣 小松 光 鶴田 健二 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.366-370, 2009 (Released:2010-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
9 10

林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが, 竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として, 樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし, モウソウチクにおいて自作の長さ1 cmのGranierセンサーによる樹液流計測, 切り竹による吸水量計測を行った。その結果, 自作センサーにより桿内の水の上昇 (以下, 樹液流と呼ぶ) の検出が可能であり, 計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には, 従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され, 新たな樹液流速換算式を提示した。以上より, 樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
著者
小松 光 久米 朋宣 大槻 恭一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.94-103, 2009-04-01
参考文献数
48
被引用文献数
3 9

針葉樹人工林の間伐による渇水緩和機能の変化を評価する一環として,小松ら(2007c)は間伐による年蒸発散量の変化を予測するためのモデルを作成した。このモデルは蒸散と遮断蒸発の部分からなり,モデルの妥当性は,1)間伐による蒸散量の不変性,2)間伐による遮断蒸発量の減少量,3)モデルの流域スケールへの適用可能性の3点から検証される必要がある。本論ではおもに2)の検証を行った。間伐による遮断蒸発量の変化を計測した7事例を文献より収集し,モデルによる予測結果と比較したところ計測値とモデル予測値は概ね一致し,2)がほぼ妥当であると思われた。3)については,流域水収支法による蒸発散量の計測データが1事例しか得られなかったが,このデータについては計測値とモデル予測値は概ね一致し,モデルが流域スケールへ適用できる可能性が示唆された。本論では1)の検証は行われておらず,3)の検証も不十分であるので,将来の検証作業で必要となるデータを列挙し,今後の計測研究に指針を示すことも行った。
著者
篠原 慶規 井手 淳一郎 東 直子 小松 光 久米 朋宣 智和 正明 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.54-59, 2010 (Released:2010-04-01)
参考文献数
44
被引用文献数
12 13

近年, 管理放棄された人工林が増加している。蒸発散量は水資源量に大きな影響を与える要素であるが, 管理放棄人工林での計測事例と判断できるものはこれまでになかった。本研究では, 九州大学福岡演習林に設置された御手洗水試験流域の管理放棄されたヒノキ人工林において樹冠遮断量の計測を行い, 他の針葉樹林と比較した。本試験地の樹冠遮断率 (樹冠遮断量/降水量) は24.9%となった。他試験地の針葉樹林の樹冠遮断率は立木密度とともに増加する傾向があり, 本試験地の樹冠遮断率はその分布の範囲内に収まった。このことは, 従来報告されている樹冠遮断率と立木密度の関係が, 管理放棄人工林に対しても成り立つかどうかを判断する上で有益な情報となるであろう。
著者
熊谷 朝臣 大槻 恭一 溝上 展也 市栄 智明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

カンボジア熱帯季節林において、外来樹種は郷土樹種より光合成能力が高いが、乾季に気孔を閉じ気味になること、一方、郷土樹種は乾季も地中深くまで伸ばした根のおかげで雨季に貯えられた地下水を利用して気孔を開け気味にできること、が分かった。東南アジア熱帯雨林の主要樹種であるリュウノウジュを対象として降水遮断実験を行った。樹体内の通水分布を考慮した精密な樹液流計測により単木~個葉スケールの蒸散速度を算定することができ、蒸散と環境因子との対応関係から、乾燥条件の気孔開閉に及ぼす影響を考察した結果、リュウノウジュは乾燥に対して極端に気孔開閉による水利用の節約を行わないということがわかった。