著者
宮澤 由歌 ミヤザワ ユカ Miyazawa Yuka
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.89-105, 2014-03-31

ジョルジュ・バタイユの共同体論は、彼の時代の一般的な共同体への考え方に対して異質なものであった。バタイユの共同体論を検討したジャン=リュック・ナンシーとモーリス・ブランショは、この共同体を主体を露呈させる場であると捉えている。恋人たちの共同体は、そうした特徴をもっとも濃く有するものである。恋人たちの共同体において、共同体の構成員は互いに対象とは違ったイメージを見出し、それはバタイユによって宇宙と名付けられる。恋人たちの共同体と一見類似していると思われる結婚の共同体が、法に則って生起・持続し、生産を目的とすることを明らかにすることは、恋人たちの共同体の異質性を際立たせる。恋人たちの共同体の目的は生産になく、むしろ、エネルギーを消尽させることにある。さらに、この共同体は、主体の概念の再考を促す。主体は不充足の原理に貫かれている。主体は、共同体以前に存在しない。主体は共同体のなかで見出される概念にすぎない。こうしてジョルジュ・バタイユの思想が、共同体の概念の価値を劇的に変化させたことが明らかにされる。
著者
宮澤 由歌
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は、科研費交付最終年度として、以下の実績を残した。まず、4月に国際基督教大学でおこなわれた「クィア・ネガティヴィティ再考」に登壇者として発表した。タイトルは、「レオ・ベルサーニにおけるItの可能性」である。これは、精神分析における暴力概念をまとめたものである。他分野の研究者との発表会であったため、哲学・倫理学の分野に属する視点から、他分野への応用可能性を示すことができた。また、他分野の研究者と多くの質疑応答を行い、その後の自身の研究に対し大きな影響を受けた。つぎに、青土社『ユリイカ』9月号の「われ発見せり」という巻末コラムに、「子産み、苦痛と快楽」というタイトルでエッセイを寄稿した。自身の体験が、これまでの暴力と親密性についての理論的研究に沿うかたちで発生したことを示すことができ、有意義な成果であったといえる。また、論文投稿として、『年報人間科学』に「バタイユ思想における女性像とクィア理論における人間存在の類似について(1)」を研究ノートで発表した。暴力と親密性を共同体のなかで同時に経験するものとして、社会的弱者としての女性と性的マイノリティの人々との類似点を指摘する内容である。当研究ノートは本研究費による研究の最終的なまとめに位置するもので、今後の自身の研究を進めていくうえでの足がかりとなる成果であった。
著者
宮澤 由歌 Miyazawa Yuka ミヤザワ ユカ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.35, pp.89-105, 2014

ジョルジュ・バタイユの共同体論は、彼の時代の一般的な共同体への考え方に対して異質なものであった。バタイユの共同体論を検討したジャン=リュック・ナンシーとモーリス・ブランショは、この共同体を主体を露呈させる場であると捉えている。恋人たちの共同体は、そうした特徴をもっとも濃く有するものである。恋人たちの共同体において、共同体の構成員は互いに対象とは違ったイメージを見出し、それはバタイユによって宇宙と名付けられる。恋人たちの共同体と一見類似していると思われる結婚の共同体が、法に則って生起・持続し、生産を目的とすることを明らかにすることは、恋人たちの共同体の異質性を際立たせる。恋人たちの共同体の目的は生産になく、むしろ、エネルギーを消尽させることにある。さらに、この共同体は、主体の概念の再考を促す。主体は不充足の原理に貫かれている。主体は、共同体以前に存在しない。主体は共同体のなかで見出される概念にすぎない。こうしてジョルジュ・バタイユの思想が、共同体の概念の価値を劇的に変化させたことが明らかにされる。