- 著者
-
寺本 祐司
- 出版者
- 崇城大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
ライスビールは,発芽させた籾,すなわち稲芽を糖化剤に用いてつくられる稀少なアルコール飲料である.現在,一部の限られた地域でのみつくられている.インド東北部ナガランドのライスビールzuthoは白色の濁酒で,約5%のアルコールを含み,日本酒に似た香りと爽やかな酸味をもっていた.一般に,稲芽の糖化力は,麦芽の糖化力より弱いので,稲芽は酒づくりにはあまり適さないとされてきた.しかし,ナガランドでは実際に稲芽を糖化剤としたライスビールがつくられていた.ナガランドのライスビールから発酵性酵母の分離を試みたところ,Saccharomyces cerevisiaeが分離された.本酵母は醸造用酵母と同等の発酵能を有していた.ナガランドでライスビールをつくっている人々は,インド・アーリア系ではなく,チベット・ビルマ系の人々である.一般に,西洋の酒は糖化剤に麦芽を使用し,東洋の酒は糖化剤に麹を使用して酒をつくるといわれる.ライスビールは,製造法や原料をみると,西洋や古代中東の麦芽を用いたアルコール飲料と,日本やアジアの麹を用いた酒の融合したタイプ,またはそれら酒の遷移型の酒のように思われる.ビール発祥の地と言われる中東やエジプトは,現在イスラーム圏で,イスラーム社会では基本的に飲酒は禁止されている.カイロでサンプリングされた小麦ビールbozaは,白色の濁酒で,約4%のアルコールを含んでいた.発酵性の酵母の分離を試みたところ,Candida kruseiが分離された.本酵母を用いて発酵試験を行ったところ,10%以上のアルコールを生成し,醸造用酵母に比べエステル生成能が高かった.イスラーム教とキリスト教コプト派,イスラーム教と現地の伝統宗教が混在するアフリカ諸国の各種伝統酒について,その製法特性を調べ,発酵微生物の分離と同定を現在行っている.あまり知られてはいないが,アジア,イスラーム圏,インド,アフリカ諸国には伝統的な民族の酒が多く残されている.現在,それら民族の酒に残るユニークな発酵法や,それら酒づくりに利用されている微生物資源の再開発と応用を試みた.また,東南アジア発酵文化圏の酒との比較検討も行った.