著者
徳山 道夫 寺田 弥生
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

コロイドガラス転移現象を理論およびスーパーコンピュータを用いた大規模計算機実験の両面から研究し,下記の成果を得た.1)中性コロイド分散系のガラス転移近傍において,コロイド粒子間に働く流体力学的相互作用が如何に重要な役割を演じるかを研究代表者が提案した分子場理論および二種類の計算機実験(分子動力学およびブラウン動力学)を通して間接的に示唆し,その相互作用無しではガラス転移は起こりえないことを初めて理論的に明確にした.2)研究代表者は,コロイドガラス転移を理解するモデルとして,第一原理より密度揺らぎに対する非線形確率拡散方程式を2001年に提案した.その式を数値的に解くことにより,ガラス転移近傍では,時間スケールに応じて異なった不均一空間パターンが形成され,そのクラスター形成過程のダイナミクスが密度揺らぎの非線形緩和に影響を与え,従来知られている,二段階緩和(α,β緩和)の原因となることを初めて示した.3)理論的に提案された非線形確率拡散方程式を数値的に解くことは,現段階では近似的にしか可能ではなく,密度揺らぎの全緩和時間スケールでの議論には到底使用出来ない.そこで研究代表者は,非線形確率拡散方程式を分子場近似の下で平均し,平均二乗変位に対する新たな非線形方程式を導いた.この式には,未定の静的構造因子に起因する自由長が含まれており,その意味で分子場方程式である.この自由長は,粒子同士が相互作用するまでに自由に動ける距離を表し,実験やシミュレーションのデータから決定されるべき重要な物理量である.実際,ガラス転移点近傍では,どのような体系においても,自由長,長時間拡散係数,特性時間(代表例,α,β緩和時間)などのパラメーター依存性には類似性および普遍性が存在することを,この分子場理論を用いて示すことができ,ガラス転移の理解に必要な枠組みを見出した.実際,この理論は原子・分子系でのガラス転移のダイナミクスの研究にも有効であることが示され,これからのこの分野での発見科学としての役割を演じて行くものと確信する.