著者
高野 克己 鴨居 郁三 小原 哲二郎
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.310-315, 1986-05-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
31
被引用文献数
8

米糠中の脂質分解機構に関する基礎的知見を得るため,米糠の貯蔵試験を行い,各脂質成分の変化ならびに脂質分解酵素の存在について検討した.1. 米糠100g中にトリアシルグリセロール約11.5m mol,糖脂質(グルコースとして)約0.85m molおよびリン脂質(リンとして)約0.7m mol含有されていた.2. 米糠貯蔵中における各脂質成分の変化を詳細に知るため,米糠を31℃で貯蔵し,経時的にその変化を調べた.その結果,各脂質の分解速度はリン脂質>トリアシルグリセロール>糖脂質の順であり,トリアシルグリセロールの分解に先立ちリン脂質の分解が起こっていることが認められた.3. 米糠を貯蔵すると,まずリン脂質の分解が起こるので,米糠中の主要リン脂質であるホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミン,ホスファチジルイノシトール,ホスファチジン酸およびリゾホスファチジルコリンの経時的変化について検討した結果,ホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルイノシトールは貯蔵初期に急速な減少を示したが,ホスファチジン酸およびリゾホスファチジルコリンの分解はやや緩慢であった.4. 米糠中の主要糖脂質であるトリグリコシルジグリセリド,ジグリコシルジグリセリド,モノグリコシルジグリセリド,アシルステリルグリコシドおよびステリルグリコシドの貯蔵中における経時的変化について調べたところ,各成分共にリン脂質成分に比べ,初期における分解速度は小さかった.5. 米糠の脂質分解酵素活性について検討したところ,米糠中に初めてホスホリパーゼCおよびホスホリパーゼDの存在を認めた.また,米糠100g中にはリパーゼ34 Unit,ホスホリピトアシルヒドロラーゼ8 Unit,ホスホリパーゼC 12 UnitおよびホスホリパーゼD 13Unitが存在し,その活性比は100:24:35:39であった.6. 米糠貯蔵中における各脂質分解酵素活性の変化について調べた結果,リパーゼ,ホスホリピドアシルヒドロラーゼ,ホスホリパーゼCおよびホスホリパーゼDは貯蔵60日目でも約30~60%の活性が残存し,これら酵素は米糠中において比較的安定であった.
著者
諸角 聖 和宇慶 朝昭 一言 広 小原 哲二郎
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
食品と微生物 (ISSN:09108637)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.80-87, 1985-08-20 (Released:2010-07-12)
参考文献数
23

生および焙煎コーヒー豆におけるカビの増殖および毒素産生の相違がいかなる原因によるものかを明らかにする目的で, コーヒー豆成分のカビに及ぼす影響を検討し, 以下の結論を得た.1) 蒸留水またはYES培地を用いて水分含量を50%に調整した生および焙煎コーヒー豆粉末にA. flavus, A. ochraeusなど6種のカビを接種し, 発育と毒素産生の有無を調べた. その結果, 生豆粉末においては全菌種が発育し, ochratoxin A産生もみられたのに対し, 焙煎豆粉末においてはYES培地を添加した条件でA. ochraceusの発育が認められたのみで, 他の菌の発育は全くみられなかった.2) 焙煎コーヒー豆成分中には抗カビ物質の存在が示唆されたため, その単離を試み, 活性物質本体としてカフェインを得た.3) カフェインはA. flavusおよびA. versicolorの発育をいずれも2.5mg/mlで, P. glabrumおよびC. cladosporioidesの発育を5.0mg/mlで, F. solaniの発育を10mg/mlで完全に阻止したのに対し, A. ochraceusの発育は10mg/mlの濃度においても阻止しなかった. また, カフェインは生豆中にも存在することから, そのカフェインを単離し焙煎豆由来カフェインと抗菌活性を比較したところ, 両者の活性に差は認められなかった.4) 生および焙煎豆からの温湯抽出画分についてカフェイン含有量および抗菌活性をそれぞれ比較した. その結果, 両画分中のカフェイン含有量に差が認められなかったにもかかわらず, 抗菌作用は焙煎豆由来画分のみに認められ, 生豆由来画分には全くみられなかった.5) この結果から, 生豆由来温湯抽出画分中にカフェインの抗菌作用を不活化する物質の存在が疑がわれたため, その物質の単離を試み, 最終的にクロロゲン酸を得た.6) クロロゲン酸はカフェイン2.5mgに対して15mg, 5.0mgに対して30mgと, カフェインの3倍のモル量で最も顕著にカフェインの抗菌作用を不活化した. このクロロゲン酸は生豆中でカフェインと複合体を形成して存在し, 焙煎によりその含有量が半減することから, カビが生豆において発育可能であるのに対して焙煎豆で発育できない理由が, 主として両者におけるクロロゲン酸含有量の差であることが明らかとなった.
著者
谷村 和八郎 鴨居 郁三 小原 哲二郎
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.245-251, 1980-05-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

枝豆のTIを調べる目的で大豆を播種後栽培111日より165日まで毎週経時的にTI活性を測定した。(1) 枝豆中のTIは栽培日数116日までは認められず, 123日の豆粒よりTIがみられた。枝豆として利用出来る粒長1.2~1.4cmの成熟豆は130日より収穫できた。 TI量は127日のものが最高で生豆粒1g中に17.92mgであった。この時の比活性は168である。枝豆の粒長により含まれるTI量は異なり,生豆粒1g中のTIは粒長0.8-1.0cmでは6.91mgが最高であった。粒長1.0-1.2cmは14.7mgで成熟豆に近い値である。(2) Sephadex G-75によるTIのゲル濾過では粒長1.2-1.4cmの豆粒では4~6種のTIピークがみられ,主要ピークはNo.3, No.4であった。栽培日数の増加と共にNo.3, No.4のピークが占める割合が大きくなる。粒長の短かいものは6種のTIピークがみられた。その主要ピークはNo.3, No.4であった。(3) Sephadex G-75でゲル濾過したNo.3, No.4のTIピークについてDEAEセルロースによるクロマトグラフィーを行った。粒長1.2~1.4cmでは123日が7種, 159日が5種, 165日が4種と栽培日数が長くなるに従いピーク数が減少する。また粒長が大きくなるに従いTIピーク数が減少した。(4) 枝豆の加熱によるTIの変化は市販枝豆の生豆1g中のTI量は19.7mgであった。100℃, 5分間煮沸の枝豆は1g中に13mgであった。この時のTIをSephadex G-75でゲル濾過を行ったところ,生豆のピークは2種であったが,加熱により9種のピークがみられた。
著者
谷村 和八郎 鴨居 郁三 小原 哲二郎
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.240-244, 1980-05-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
7

大豆もやしのTIを製造経過に従って測定し,その消長をみた。(1) 大豆もやしおよび各部の1g中のTIを比較すると,生もやしには68.7mg~61.9mgのTIが存在した。この99%以上が豆部に残余が根部にある。生もやしの豆部と根部のTIは2日目もやしは70.2mg, 14.3mg, 4日目もやしは64.6mg, 0.83mg, 6日目もやしは73.7mgで根部にはTIがみられなかった。(2) Sephadex G-75によるTIのゲル濾過を行ったところ,原料大豆,もやし豆部のTIパターンには2種のピークがみられた。根部は2日目もやしは1種, 4日目もやしは2種みられた。(3) DEAE-セルロースによるTI画分のクロマトグラフィーを行った。主要ピークは8種より成っていた。豆部TIは日数の長くなるに従いピークは接合分画が難しかった。6日目もやしは2種のピークが消失した。根部のTIは2日目もやしが1種, 4日目もやしが2種であった。(4) もやしを熱湯で5分間加熱したとき,豆部のTIは消失したが,根部のTIは残存していた。