著者
小嶋 哲人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.12, pp.3147-3153, 2013-12-10 (Released:2014-12-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

血栓症は欧米白人に多い疾患とされてきたが,近年日本人にも少なくないことがわかってきている.日本人にもみられる血栓性素因としてアンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)の欠乏症や分子異常症があるが,本稿では,これらAT, PC, PSの活性値や抗原量の従来から用いられている臨床検査法とともに,新しい血栓性素因・アンチトロンビンレジスタンスの臨床検査法の開発について概説する.
著者
小嶋 哲人 松下 正 高木 明 山本 晃士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

先天性プロテインS(PS)欠損症・異常症の遺伝子解析において、未解析の新たな症例検体については従来のPCRダイレクトシーケンス法を用いた遺伝子変異の同定を行った結果、新規変異を含めてその原因と思われるPROS1遺伝子変異を同定した。その中でPROS1遺伝子の蛋白翻訳領域には変異は見つからなかったものの、翻訳開始点より168bp上流のプロモーター領域に同定したC→T (c.-168C>T)の点突然変異のルシフェラーゼ・レポーター解析の結果、変異型では転写活性が20%まで低下し、先天性PS欠損症の原因と思われた。先天性PS欠損症症例で従来の各エクソンのPCRダイレクトシーケンス法にてPROS1遺伝子に変異の見つからなかった症例において、PROS1遺伝子の15個の各エクソン部に偽遺伝子と区別するPCRプライマーを設定し、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA) 法によってPROS1遺伝子欠失の同定解析を行ったところ、PROS1遺伝子の全欠失を示す症例を1例同定した。しかし、他の多くの症例では欠失を同定できず、遺伝子欠失の頻度はまれであると思われた。ヒトPSを産生するHepG2 細胞を用い、エストラディオール(E2)の添加による培養上清中のPS分泌量の変動についてELISA 解析を行ったところ、30%の発現低下を認めた。また、細胞内PS mRNAの変動についてReal Time PCRを用いて定量した結果、同様にE2 の添加によるmRNA発現低下を認めた。現在、PS遺伝子プロモータ領域をクローニングし、ルシフェラーゼ・レポーター解析による、HepG2細胞でのE2 によるPS遺伝子発現の制御動態解析を施行中である。
著者
山本 晃士 松下 正 小嶋 哲人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

肥満・糖尿病のモデルとして遺伝的肥満マウス(ob/obマウス)を用い、血栓傾向の分子メカニズムを検討した。肥満マウスでは、対照マウスと比較して血中PAI-1抗原量は数倍に上昇しており、組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加も認められた。もっとも顕著だったのは脂肪組織で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞等においてPAI-1 mRNAの発現が著明に増強していた。また肥満マウスでは外因系凝固の起始因子であるTFの発現も亢進していた。このTF mRNA発現増加も脂肪細胞自体によることがわかったが、脂肪組織内の血管を構成する細胞(血管外膜細胞)においても発現の増強が認められた。PAI-1に加えてTFの発現増加が、肥満個体における凝固亢進状態を増幅しているであろうと推測された。さらに、脂肪組織におけるPAI-1およびTFの発現を強力に誘導するTGF-βの発現自体も、肥満マウスの脂肪組織では週齢依存的に増加しており、血栓傾向を増悪させるTGF-βのメディエーターとしての役割は非常に重要であろうと考えられた。一方、肥満マウスに心因性ストレスを負荷し、線溶阻害因子PAI-1の発現と組織内微小血栓形成について解析を行った。肥満マウスおよび対照マウスを50ml用チューブ内に閉じ込めて拘束ストレスを負荷すると、肥満マウスではストレス負荷2時間後に早くも著明な血中PAI-1抗原量の上昇と組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加を認めた。特に、脂肪組織や心臓、腎臓におけるPAI-1 mRNA発現は対照マウスに比べて顕著に増加していた。この傾向は20時間という長時間ストレスでも同様であった。また、このPAI-1 mRNA発現は腎糸球体の内皮やメサンギウム細胞、心筋内微小血管内皮細胞、脂肪細胞等に一致して認められた。さらにストレス負荷後の肥満マウスでは腎糸球体微小血管内にフィブリン沈着を認めたが、対照マウスでは認めなかった。以上より、肥満およびインスリン抵抗性を有する個体ではストレス負荷によってPAI-1遺伝子発現が著明に亢進し、これが組織内微小血栓形成を促進するひとつの原因と考えられた。これらの研究成果は、肥満・糖尿病患者における血栓症発症の病因・病態を考える上で重要な知見と言える。